4.どちらを選択なさるの?
「お許しくださ…お許しください…申し訳ございません…」
しゃくり上げながら繰り返すミナは私の質問には答える気配はありません。
困りましたわ。ただ答えを知りたいだけですのに。
「そうねえ、でも私の侍女としてはもういらないわ。
スカラリーメイドか、ああ、銀の牡鹿亭だったら父に頼めばすぐ紹介できますわ。
センスもない、言葉選びにもひねりがない、自分を弁えない方がどれほど稼げるかは分かりませんけれど」
と、言っても娼妓としてではなくキッチンメイドとしての紹介になるということは黙っておきましょう。
私の父は銀の牡鹿亭にワインを卸しているので多少の融通はきくのです。
紹介料は取らないけれど何があっても与り知らぬ、という立場を貫くでしょう。
それだけで貴族を怒らせたメイド、というレッテルにはなるでしょうね。
キッチンメイドは手早く雑用を片付けないといけないと聞いています。
スカラリーメイドは過酷な上に旦那様との接点はなくなるでしょう。
私との接点もなくなりますので、もう嫌いな私のお世話をする必要もありませんわ。
選択肢として提示するのはその2つで十分と3人が言っておりましたので、きっと反省させるには十分な選択肢なのでしょうね。
心底反省するのであれば解雇は考え直してあげましょう。でももう専属侍女としてはいりませんわ。
そこはダニエルに言っておけば何かしらの仕事を与えるでしょうから任せましょう。
「あらあら、困ったわ。泣いていたら分からなくてよ。
貴女は私が嫌いなのでしょう?お飾りの妻のお世話はしたくないのでしょう?
なのに弟さんの入院費は負担して欲しい、なんて道理が通っていないように思うのは私だけかしら?
ねえ、どう思うか聞かせてくださる?」
とても不思議なのでつい聞いてしまいます。
彼女は何を目標に嫌がらせをしていたのかしら?
「貴女が私に嫌がらせをして、どのような結果を望んでいたのかしら?
もしも私が実家に泣きついたら、私の父はこちらの伯爵家の利益をほぼ奪いつくすまで追及の手を緩めないわ。
メイドを減らして、庭師も御者も、もしかしたらフットマンまで減らさないといけない事態になるかもしれないわ。
貴女はそれを望んでいたのかしら?」
「そんなこと…そんなことは望んでは…」
絶え絶えな息で吐き出すミナの顔は青を通り越して真っ白になっています。
人間の顔色はこうまで変わるものなのですね。
1週間前の旦那様は真っ青でしたけど、貴族としての教育の賜物か、最後は持ち直しておりました。
彼女は本当にこの体たらくで伯爵家の妻に納まるつもりだったのかしら?
どこかの養子に入る伝手でもあったのかしら?
考えるほど分かりません。
質問をしても答えてくれませんので、私もほとほと困り果ててしまいます。
「困ったわ、これでは貴女の答えが分からないわ。
それで、貴女はどちらを選択するのかしら?」
遂にミナは蹲って泣いてしまいました。