3.難しい質問かしら?
9/18 誤字報告ありがとうございます。
破棄はあえてこちらを使っております、ちょっと日常寄りにしたく。
「泣いていては分からなくてよ?
私の質問はそんなに難しいのかしら?
ねぇ、マイナは難しいと思う?」
アイビーの横にいたマイナに問い掛けます。
簡単か難しいかは個人差がありますものね。
「いいえ奥様。難しくはございません。
職務放棄をする理由になるか、と言うご質問です。はいかいいえで答えられます」
「まあ良かったわ!じゃあ、答えられるわよね?」
しゃくり上げながら首を振るだけのミナの意図が分かりません。
「じゃあ最初から整理しましょうか。
ねえダニエル、ミナは貴方の推薦かしら?」
「いいえ奥様、ミナは自分で立候補をいたしました。
侍女になれば給金もあがる、弟を治療院に入れたいと熱心に言うのでテストを行いました」
「あら、どんな?」
「場面にあったドレスの選び方、着せ方、髪の結い方、お世話をする心構えも一通り言い聞かせております。特にお茶を淹れる腕前はかなりのものでしたので、奥様のお茶の時間のお役に立てればと…」
ダニエルもミナの熱心なアプローチに折れてしまっていたのですね。
美味しいお茶を淹れられるのに泥水のように淹れていたのかしら?ある意味才能かもしれません。
「まあ、それなのにミナは全て放棄したのよ?
ドレスを選ぶこともない、選んでも場違いなドレスばかり。
これはセンスの問題もあるから多少大目に見てあげてもいいけれど、洗顔のお湯が痛いくらいの氷水か火傷しそうに熱いのは何故だったのかしら?」
ダニエルの蟀谷に青筋が浮かんでいます。
そんな心得違いの侍女がいるとは思っていなかったようですね。
ミナの弟の入院費も、ダニエルが手配して旦那様の許可を取っていたようです。
恩義に報いる働きを期待したのでしょう。
でも、それがミナを旦那様に特別扱いされていると勘違いさせてしまったようですわ。
旦那様はダニエルがそこまで言うなら、と許可を出したようですが。
最終的に侍女長の面目も潰していたことに気付かないのでしょうか。
ドーラには初日からのミナの仕事振りを報告しております。
笑顔でミナに処罰を与えようとした侍女長を止めたのは、取り敢えず様子を見ようと思ったからです。
あの時のドーラの笑顔は恐ろしかったです…。
1週間の間、ミナが運んだ洗顔の水や熱湯を全て破棄して適温のお湯を運んでいたのはドーラです。
乱暴に置いて溢れた泥水のようなお茶を拭き、美味しい紅茶を淹れてくれていたのもドーラですわ。
その度にドーラの怒りは蓄積されていたようですが、誰にも言わないように、と言いつけたことは守ったようです。
流石はダニエルのお姉様です。
ダニエルがミナに同情したのは、ダニエルも弟の立場だからでしょうか。
「この場に侍女長を呼ばなかったのはダニエルのためよ。
きっとミナの魂胆を見抜けなかったダニエルは侍女長の怒りを買っているわ」
ダニエルも顔を青くしております。余程ドーラに厳しく躾けられているようです。
動揺を押し隠し頭を下げるダニエルも、流石は伯爵家の執事といった所でしょうか。
「質問に答える気はなさそうね。
残念だわ。私本当に分からなかったの。
私はこのリライアス伯爵家に嫁いできたダービー伯爵家の娘。
例えお飾りと皆が思っても、それが職務放棄をして私に嫌がらせをする理由になるのかしら?」
そこまで言って初めて、ミナは私が貴族の娘だと思い出したようです。
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっています。
息、できているかしら?
「ねえミーシャ、どうかしら?」
幼い顔立ちのミーシャは愛嬌のある笑顔でいることが多いですが、今は表情が抜け落ちています。
「そのような侍女はダービー家にはおりませんでした。
私個人の意見ですが、特殊な思考回路をお持ちのお嬢様かと推察します」
敢えてミナをお嬢様と呼んだ裏の怒りを正確に汲み取ったのでしょう。
ミナはもう何も言いません。