プロローグ
「あらそうなの?それで、それが私に何の関係があるのかしら?」
目の前で真っ青になっている専属侍女、と紹介されていた少女を見て首を傾げた。
専属侍女と紹介されたにも関わらず、食事の場に相応しいドレスを選ぶこともできない。
朝に持ってくる洗顔の水は氷水のように冷たいか火傷しそうに熱いかのどちらか。
用を言いつけても不貞腐れて返事もしない。勿論対応することもない。
部屋の掃除をメイドに言いつけることもない、お茶の用意をさせれば異臭を放つお茶を乱暴に置く。
これが伯爵家の侍女としてスタンダードなのかしら?と執事に問えば執事は絶句して少女を見ていた。
「失礼します奥様…。今仰ったことは事実でしょうか…」
「あら嫌だわダニエル。私に嘘を言う利点はなくてよ。
こちらに嫁いで1週間、一事が万事こうなのですもの。
随分と実家の伯爵家と違う文化をお持ちなのね、と思っていたの」
首を傾げると長い金の髪がさらりと落ちた。
髪を結うこともできない侍女が揃っていたとも思っていたわ、と付け加えた。
「それでね、お屋敷の管理は私に任せる、と旦那様が仰っているでしょう?
だから雇用契約を見直したらこの子は他の子に比べてお給金が低いじゃない。
理由を確認したら、私の専属になるから家族の治療を伯爵家が保証する、って書いてあったの。
でもね、さっきも言った通り全然向上心もないし反抗的なのよ?
その理由が保証はいらない、という意思表示なのね、と判断したの」
間違っているかしら?とダニエルを見つめると、少女と同じく顔を青くしていた。
「ミナ、本当に、お世話を放棄していたのか…?」
ダニエルが震える声で問うても答えない。
答えられない、が正しいのかしら。
「お飾りのくせに、と言われたのだけど、
私がお飾りなのが職務を放棄する理由になるのかしら?」
改めて問いかけると下唇を噛んで俯いてしまった。
確か今年で22歳と聞いているけれど、それよりずっと幼い仕草だわ、と真っ直ぐに2人を見つめた。
だからこそ私は彼女を少女と評します。
まぁ、それもこれも旦那様の見通しが甘かったからね、と心の中で納得し、1週間前の旦那様との会話を思い出していました。