【第68話:深淵のその先】
アミュアは会話による改善が見られないので、実力行使に移った。
魔法を使おうとしたのだ。
ロッドが無くても、詠唱をしなくてもアミュアはほとんどの魔法を操れる。
ただし自身の保有魔力を越えそうなものは使えない。
二度と使ってはいけないとも師匠に言われたからだ。
無詠唱でレビテーションを行使したが、効果は現れなかった。
アミュアの魔力が動いたのをみて、カルヴィリスは少し説明してあげたくなる。
黙っていようと思っていたのに。
「その拘束は上級闇魔法のカースリングだ。魔力を放出できなくなるし、力も半減する」
ああなるほどと腑に落ちたアミュアは相手が話したので、まだ会話による改善が望めると判断した。
「ではカースリングを外してください、移動したいので」
これまでに色々学んでいるアミュアは正確に指示し、理由を添付してみた。
ちょっとどや顔なのは、ちゃんと理由もいったぞとの満足感か。
カルヴィリスは理解できなかった。
この段階の知識でこの感情はありえないが、人間との相似性や倫理の欠落に影獣の特性を強く感じたのだ。
話をしてみたい欲求がカルヴィリスの中で膨らみ、いよいよ問い詰めたいと思う頃変化は訪れた。
本来待っていた変化だった。
「そこまでだ悪者!アミュアを返せ!」
扉の隙間からユアが入ってこようとしている。
剣が引っ掛かり入れないようだ。
もう少し開いておけば良かったかな?とカルヴィリスが考えていると、剣を背中から外し投げ込んでからユアが入りなおしてきた。
からんからんと剣がなった。
何事もなかったように剣を背負いなおしてから、指を突きつけ言い直したユアであった。
「そこまでだ悪者!アミュアを返せ!」
ちょっとだけ頬が赤い。
理解出来ないことが続き、思考が滞っていたカルヴィリスが口を開く。
「久しぶりねラドヴィスの娘。この子が欲しくば取りに行くのね中に」
そういったカルヴィリスはユアのシーツ巻きを持ち上げ穴に放り込んだのだった。
「ぐぇ」
受け身が取れないアミュアは闇の円の真ん中で声をもらした。
直後先ほどのダウスレムと同じようにすすっと沈んで消えたのだった。
「アミュア!!」
強化魔法の赤い光を纏い一瞬で受け取めようとしていたユアの目の前で、アミュアは闇に消えてしまったのだ。
一歩届かなかった差を悔やみつつも、なんの迷いも無く闇の中央へ飛び込む。
沈む寸前カルヴィリスへと文句まで言った。
「お前は許さないからな!あとでぶってやる」
捨て台詞を残してユアも闇に消えていくのだった。
残されたカルヴィリスはふと自分の中にあった、悲壮な覚悟や悲しみが薄れている事に気付いた。
わずかの間を置いてカルヴィリスが声をもらす。
「く…くっく。ぶたれてはたまらないわね、退散するとしますか」
抑えきれない笑いが漏れ、悲壮な表情も一瞬薄れたのだった。
だがその瞳が再度穴に向けられる。
(どうかお心のままにダウスレム様、貴方の最後の言葉に従います)
こころの中で祈りを捧げ、カルヴィリスは闇に消えていくのだった。
アミュアは落下している感覚を持っていた。
落ち始めてすぐ両手両足の拘束が解けたことも気づいた。
ついでにシーツもどこかに行ってしまったので、心細かった。
幸い寒くはないようで、風邪をひいてしまうことは心配ないようだった。
周りを見渡してみてもどこまでも広がる闇。
これもどこかでみたことがあるような?と考えていると真下に丸く浮かび上がるものが見えてきた。
丸い紫色の円盤が、すごい勢いで飛んでくる。
そこでアミュアはやっと自分が凄い勢いで円盤に向かって落ちていると理解した。
(レビテーション)
無詠唱の魔法行使を行うとふわりと落下速度が遅くなり止まる。
「ゎぁぁぁあああああああぁぁぁ…」
直後に横を凄い速度で何かが通っていった。
声からしてユアだろうと思い、あと少しで届く円盤に向けアミュアは降りて行った。
ユアはかなりの速度だったが、身体強化と熟練の受け身でなんとかしのいだのだった。
「いたたた」
それでもお尻のあたりをなでながら声が漏れたので、痛かったようである。
その横にふわりと全裸のアミュアが降りてくる。
「ユア!」
短く声をかけ抱き着くアミュア。
ちょっと革鎧があちこち固くて痛かったが我慢した。
きゅっと抱きとめ
「アミュア服がないよ!ちょっと待ってね」
ポーチから予備のTシャツをだし、ヒマワリが真ん中にプリントされた白いそれをアミュアに頭からかぶせた。
ユアのシャツは少し大きかったので、超ミニワンピのようになりアミュアを隠すのだった。
「ふう、これでいろいろ大丈夫だ」
「いろいろですか?」
なにか事情があったのか安心しているユアであった。
ユア達の頭上から声が降りてくる。
「足労かけたな娘たちよ」
アミュアのレビテーションのように落下速度をコントロールし、ダウスレムが降りてくる。
この円形の足場はそれなりの大きさがあり、ダウスレムとユア達の間には微妙な距離が残った。
着地と同時に兜をとり投げ捨てるダウスレム。
背からは長大な大剣を引き抜く。
その黒い刃はアミュアの体よりも大きく、まがまがしい赤い文様が滲んでいた。
「さあ殺し合おうではないか。娘たちよ」
兜を取った端正な顔にまがまがしい殺意が宿り、唇の端をまくり上げた。
ダウスレムの白い犬歯がぎらりと光ったようにユアには思えた。




