【第66話:百骨夜行】
ユアがカーニャの馬車を駆り、街道を進む。
怒りに任せて飛び出すことはしなかったのだ。
一旦朝まで待ってからハンターオフィスにより、病院のアイギスとスリックデンのカーニャに向け手紙を渡した。
万一に備えてだ。
手紙は7日して戻らなければ渡してほしいと頼んだのだった。
前回の反省をもとに色々な事態を想像し、対策をうったのだ。
そして食料や衣類なども必要になることを想定し馬車を持ってきた。
「アミュアの服、全部残ってた…」
ユアの顔がゆがむ。
風呂上がりのそのまま連れ去られたのだろう。
おそらく自分がいない隙に狙われた。
手すりを握る手に力が入りギシっと鳴る。
なんとか怒りを鎮め、前へと進んだ。
手口から闇魔法の使いて、カルヴィリスだろうと当たりもつけていた。
アイギスに直接会おうか迷ったが、病人に余計な話だと、手紙だけにしたのだ。
城までの道は既に一度通っているので、かなり速度は速めだ。
すでに街道からの分かれ道に入り、かつて戦闘を行った辺りも通り過ぎた。
間も無く森に入るかとの辺りで日が落ちた。
闇夜にランプの明かりだけでは速度は出せず、大分行き足が乱れるのであった。
ランプを点けると、明かりになるがユア自身の夜目が効かなくなる。
今夜は曇りで月がでているのかうっすら明るいので、最終的にランプはやめるのだった。
森に入ったところで接敵した。
鎧のスケルトン達だ。
馬車を停め抜剣して降りるユア。
敵は4体、いずれも片手に盾を持っている。
(これは時間かかりそうだな。力を使おう)
ユアは構えたクレイモアにペルクールの雷を纏わせる。
何時もより輝きが強い。
ユアはこの力の制御もかなり上達していた。
うすく瞳にも赤い光が宿り、ドンっと地を蹴りすすんだ。
鎧スケルトンは非常に練度が高く、動きにも無駄がない。
2体一組で左右からかかってくる。
ユアは定石通り盾の無い方向左回りに動き、左の2体に切りかかった。
動きはユアの方が早く、上手く右側の2体の動きを邪魔する位置取りに入れた。
これで相手は2体だ。
ユアの移動方向を見るや左の2体が下がる。
(うまいな)
もう一度4人でかかりたいのだろう。
正しい連携だった。
同等の戦士なら。
ユアの速度はそれ以上で、スケルトン達の策はならない。
下がるスケルトン以上の速度で切りかかった。
一番左の片手斧をもったスケルトンを縦切りで襲う。
盾を出してくるが、間に合わず両断した。
「一つ」
ユアがするりとさらに左に回りながら漏らす。
左側バディのもう一人は倒れる仲間を見て、今度は前進しながら振り向く。
警戒して盾が構えられている。
ユアは見こしているのか、そのまま全力疾走して右側の2体を襲う。
一気に近寄りジャンプしながらなで斬り。
右側の近い方が盾で受けた。
刃筋を流されたのでガンっと上にクレイモアが浮いた。
すかさずもう一人が直剣を突きこんでくるが、ユアは体をねじり躱す。
かすりもしない。
ねじりながらクレイモアも回し、その勢いのまま最初盾で受けたほうの足元を薙いだ。
カカっと鈍い音とともに、ふともも付近の骨を裁ち倒れるのを横目にさらに一回転。
突きこんだ方のスケルトンの首が飛んだ。
盾で防ごうとしたのだが、角度が悪くクレイモアの重さを受けれず沈み首をはねられたのだ。
「二つ」
呟きつつ勢いを進みながら回転に変え振り返る。
そこに左の残っていたスケルトンがメイスで殴り掛かってきた。
ユアは剣の重さを動きに変える技が巧だった。
振り返った勢いも足して迎え撃つクレイモア。
メイスに打ち勝ち跳ね上げる。
あわてて盾を上げるが、それはユアには悪手だった。
盾に衝撃がないなと降ろしたころには、盾を死角に移動したユアは上に飛んでいた。
そのまま気づく事も出来ず両断される。
「三つ」
最後に途中で足を薙いだ敵に近寄りクレイモアを振り下ろした。
「四つ」
呟きながら納刀し、左手を差し出す。
闇夜に沈むシルエットは震えることも無く浄化していくのだった。
そうして進みながらユアがたおしたスケルトンは100に少し満たなかったくらいだ。
「九十二」
城壁が見える辺りまで来た頃には、ユアは疲労も痛みもピークであった。
最初は4~5体づつだった戦闘は最後には10体以上を相手取り、ペルクールの力も大分使い切り抜けてきた。
少し前に左手に少し深い切り傷を貰った。
流れる血ですべるので、左手は革紐で剣に縛っている。
全身に切り傷、打ち身はあるがどれも軽傷だ。
左手の二の腕の切り傷が一番深い。
小手の無い部分だったので、素肌に傷が見える。
一旦戦闘が落ち着いたので、戦場から下がり馬車まで戻った。
剣を背中に戻しポーチからまた別の革紐を出し傷の上を縛った。
体に近い方で縛ると止血になるのだ。
改めて剣を降ろし左手の止血を右手と歯を使い革紐で縛ると、もうちょっと時間を使う。
右手で腰の水筒を取り飲み干す。
ユアは生活魔法も使えないので、今回は車内に水筒をいくつか仕入れてきていた。
空になったものと、交換で新しい水筒を腰につるす。
保存食を出し一本食べ、傷の具合を確認した。
なんとか血は止まったようなので、上から半練り状の薬を塗り込み包帯で縛りなおした。
他の目立つ傷にも薬をぬり、小さなものには絆創膏を貼るのだった。
(大丈夫、冷静になれ)
自分に言い聞かせてから、改めて武装し馬車を少し進めることにした。
夜もそろそろ終わりそうである。
東の空が明るんでいていた。




