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【第65話:おなじ心をもつゆえに】

「それじゃ行くわね」

 短く告げるカーニャに二人もうなずいた。

アミュアはちょっと眉を下げ心配そうに言う。

「カーニャ無理しないでね、ミーナをおねがい。かならず帰るとつたえて」

アミュアの左手には小さな木の指輪。

かつてミーナと選んだおそろいの指輪だ。

 カーニャの後ろには荷物を積んだ夜霧がいる。

夜霧ならスリックデンまで5日かからず戻れるという。

馬車でも普通半月はかかる距離だ。

夜霧はアイギスの魔法の指輪で使役されており、乗るには指輪が必要。

その指輪は今カーニャの指にあるのだった。

 夜霧をなでていたユアもカーニャに声をかける。

にこっと笑うその耳には、これもカーニャとお揃いの木工ピアスだ。

「アイギスにいさんが動けるようになったら、馬車で追いかけるね」

うなずくカーニャは夜霧にまたがる。

「きっと帰ってくるのよ二人共」

うなずく二人に背を向け、夜霧とともにカーニャは疾風と化す。

手を振る暇さえない加速に、二人の目はまん丸になるのだった。




 カーニャが出発した夜。

アイギスの病室に来客があった。招かれざる客だ。

「ずいぶんと弱っている様ね」

寝静まった病棟に、じわりと影から出てくるカルヴィリス。

アイギスは目覚めていて、どうせ何も抵抗できないからと騒がず答えた。

右側の麻痺はまだ抜けていない。

「俺のスキルを諦めてなかったのか?」

カルヴィリスはすうとアイギスに近付き話を続ける。

「今となってはそんなものは必要ないわ。聞きたいことがあるの」

まったく執着しないカルヴィリスの声に不審を覚えたアイギスは黙って聞く。

「あのユアという娘、ペルクールの力をもっているわね?対峙したとき滅ぼされかけたわ」

じっと真意をうかがうアイギスが逆に問う。

「そうだとして、なぜ殺さなかった。傷を見たが貴様が仕留めそこなう位置ではなかった」

視線をそらしうつむくカルヴィリス。

しばらく無音が続いた後、そっと囁く。

「ダウスレム様がお望みなのよ……滅びを」

カルヴィリスの問の意味が分かったアイギスは、少しの間を置き訊ねる。

「お前はその望み叶えさせたいのか?叶えさせたくないのか?」

会話の間が少しづつ短くなる。

「叶えて差し上げたい。あの方もお疲れなのです」

「お前自身はそれを望まない?」

「……私の気持ちなどどうでもいい。ただあの方の望むようにして差し上げたい」

静かな病室に、より静かな沈黙が落ちる。

長い思考の果てにアイギスが告げる。

「ユアは相手の望むことなら、自分が望まぬとも叶えたいと思う娘だ」

カルヴィリスは答えない。

「脅してももう動かぬと思うぞ」

沈黙の果てについにアイギスが結論を述べた。

「つまりユアとお前は本当によく似ていると言うことだ」

それだけを告げると、まるで言いたいことは終わりだと言うように、目を閉じるアイギス。

しばらくして気配を探るが、そこにはただ静かな病室があるばかりだった。




 ユア達は少し病院に近い別の宿に移っていた。

さすがに二人でホテル暮らしは贅沢だとアミュアが言いだしたからだ。

アイギスは回復の兆しも無く、これはあきらめて腰を据えるかと、ほどほどの宿をハンターオフィスで紹介してもらったのだ。

 二人は明日にもハンター業を再開しようと相談していた。

お金はまだまだ余裕があるが、二人で仕事をしたいと言う気持ちからだ。

それほど広くないツインの宿だが、部屋にシャワーがあるのを気に入ってここにした。

お値段はホテルの半分以下だった。

今は交代でシャワーの時間。

脱衣所が無い関係で、シャワーの時間はそれぞれ少し部屋を外すルールとなっていた。

 もちろんユアは反対した。

不用心だとか、待ってる間に風邪ひいたらなどとずっとゴネたが、アミュアが押し切ったのだ。

「アミュアは裸を見られるのは気にしないのに、下着姿を見られることをすごく嫌がるんだよね」

クスクスっとなりながら宿の廊下を歩くユア。

少しだけ買い物を済ませてきたのだ。

「下着自体はあたしが洗濯したりしても嫌がらないのにな」

ユアは思い当たっているのだが、気づかないふりをする。

 部屋に戻ったユアがドアに耳を当てる。

シャワーが動いている気配はないので、鍵を開け入室した。

「ただいまーアミュア。シャワー開いたかな?」

 次は自分の番だと声をかけたユアが異変に気付く。

アミュアの気配がない。

シャワーは終わっても髪を乾かしてるくらいの時間だ、部屋にいないのはおかしい。

すすっと部屋を見渡して、ベッドサイドに折りたたまれた紙を見つける。

顔色を変えすっと近寄り取り上げる。

その紙片にはただ一言書いてあった。

『城に来い』


 ユアが紙を握りしめる。

表情は静かだが、拳が震えていた。

薄暗い部屋に、振り向くユアの目からもれる赤い光だけが流れた。

荒ぶる神の瞳だ。


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