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【第63話:情報と考察】

 ユア達のいる町を眼下に見る丘。

そこは町が管理する墓地となっており、綺麗に同じような墓石が坂の下まで並んでいる。

それはまるで幾何学模様のように規則的で、ある種冷たさを感じる配置だった。

 坂の上に大きな木があり、その後ろは共同墓地となっていた。

カルヴィリスは木の横に立ち尽くしていた。

表情は無く、黒づくめの服装も相まってこれ以上この場にふさわしい者もなかなかいないであろう。

(あの時殺す気で毒爪を刺した。内臓までえぐるつもりだった)

その悍ましい思考と裏腹に表情には透明感がある。

今日は仮面はつけず、口元を黒い布が隠していた。

(勝ったと思った瞬間にダウスレム様の顔が浮かんだ)

その瞬間に力を込められなくなったのだ。

ダウスレムが悲しむ顔を想像したのだ。

(強い娘だった。技も心も。正面から戦ったら勝てなかっただろう)

もちろん暗殺者に戦士の矜持はないが、戦う技術でも負けないと見せたかった。

攻めていたのに、追い詰められていたと感じて最後の隠し武器を刺したのだ。

(あの剣にまとった気配。あれがペルクールか、根源的嫌悪と恐怖を感じた)

あれで切られれば滅びると直感したのだった。

じっと俯き考え込むカルヴィリスは長い時間の果てに遂に解を得る。

そうかと。

(私はダウスレム様の願いを叶えてあげたかったのだ)

 無意識に選択した。殺さないと。

アイギスにも毒を知らせたのは、ユアに助かってほしかったのだ。

 そしてダウスレムの願いを叶えるということは、自分の想いを投げ捨てる事。

共に生きたいと願った想いを。

じっと地面を見るカルヴィリスは何時までも動けないのであった。

引き裂かれる己が想いによって。




 ユアが目覚めた翌日の夜、アイギスも目覚めたのだった。

(生きながらえたようだな。ユアは無事であろうか?)

一番気にかかることは今確認出来ないので、次点で自身の体をチェックする。

(…まいったな右手と右足に感覚がない)

動かし試そうとしたが応答がなかった。

(ここまでか)

浮かんだ思いはそれだけであった。

恩人達の望み果たせなかった想いをつぎ、ユアを見守っていくと決めたのに果たせないと。

自身の将来など微塵も思わない異常さ。

それは暗殺者の性か、それだけの恩義であったか。

未だ薬で緩慢な感覚の中、アイギスは再び眠りにつく前に恩人達の顔を思い浮かべたのだった。


「にいさん!!」

翌朝、看護婦にユアの回復を尋ねたアイギスの元に、その尋ね人があらわれる。

「よかったあ!」

病院にあるまじき勢いで突撃してくる恩人の娘は、そのままの勢いですべて押しのけ抱き着いてきた。

押しのけられた看護婦は驚きの表情でたたらを踏んでいた。

「落ち着きなさいユア。迷惑になるぞ」

静かなアイギスの声にもユアは動かない。

ただぎゅっとアイギスの夜着を握りしめ頭を押し付けていた。


 落ち着いたころにやっとカーニャとアミュアも現れた。

看護婦に補助してもらい、ベッドを半分起こしたところだった。

「アイギスさんよかった」

「失礼します、ご無事でなによりですわ。カーニャと申します」

二人に頷き、看護婦に礼を言うアイギスには、目立った感情の変化はなく。

まるでアミュアちゃんみたいね、とカーニャは思うのだった。


 看護婦も立ち去り、4人となったアイギスが礼を述べる。

「アミュアも心配かけたようだ、すまなかった。油断はなかったと思うが相手が上手であった」

アミュアにやさしい目を送り、後半は真面目な顔で全員に説明する。

「そちらはカーニャ殿といったか、高名はかねがね。ユアが世話になったであろう、ありがとう」

表情に変化はないが、隠された感謝を読み取るのが上達しているカーニャには伝わった。

アミュアに別の意味で感謝するカーニャであった。

「急ぎ伝えたい事がある。カーニャ殿はスリックデンの所属と聞いているが間違いないか?」

ん?っと3人は意外な地名に驚く。

「間違いありませんわ」

と短く答えるカーニャ。

なにか予感めいた不安を思えていた。

「城内にとらわれているとき、情報を流された。奴らの目論見とは思うが伝えておきたい」

そう前置きして、丁寧に自分の考察も添えてセルミアの事を説明した。


 話を聞き終えたカーニャの顔色は悪く、足元もおぼつかない様子。

さっとユアが寄り添い支える。

「カーニャ落ち着いて、何もまだ決まったわけじゃないよ」

 ユアにはカーニャの心配が痛いほど解るのだった。

大切な人への想いは、時に最悪だけを思い浮かばせる。

ユアは、ここの所何度も感じていた恐怖をカーニャの中に見た。

 アミュアも心配そうに、視線をカーニャに向けていた。

ユアにもたれて目を伏せるカーニャは一度瞬きして心を整えたのだった。

「ありがとうユア。ごめんなさいアイギスさん続きをお願いします」

頷いたアイギスが最後の情報を口にする。

「セルミアは時間をかけて相手を見つめると、配下を忍ばせられると聞いた」

 その情報は新たな衝撃をカーニャに与える。

ユアも思い当たったようで、カーニャを支える腕に力を込め椅子へといざなう。

椅子に掛けうな垂れるカーニャの代わりにユアが答える。

「ここにくる途中でセルミアと名乗る女性に会ったの。困っているからと、食料をわけてあげたの」

ユアは言いながら心配そうにカーニャに寄り添う。

じっと考えるアイギスがつぶやく。

「確かめる手段はないものか」

ぱっとアミュアが立ち上がり右手を上げた。はいっと言った感じだ。

「わたしたしかめれる。ラウマさまの力を使えばいい」

はっとユアの表情も明るくなる。

「そうか、ミーナにしたようにすればいいんだ!」

カーニャも顔をあげるが、心配は晴れないようだ。

明暗と顔色で二組にわかれる4人であった。

アイギスの体の不調は未だ明かされず、気づかれることもなかったのである。



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