【第62話:これでもとどおり】
ユアが入院し、アミュアが目覚めた翌日。
診察を終えて退院の認可を貰ったアミュアは意気揚々とユアの病室に来た。
カーニャはもう2日も宿に戻っていないので、ここで後退して着替えたりしたいのだ。
からからからと引き戸が開けられアミュアが入ってくる。
刺激は少ない方がよいと言われたので、カーテンは閉めていた。
ほんの少し外より暗い部屋はなんだか、縁起が悪いと感じてしまうアミュアだった。
ミーナの部屋でも感じた不気味さがそこにはあった。
「おかえり、どうだった?診察」
「たいいんの許可をもらいました」
訊ねるカーニャににっこり答えるアミュア。
本当に元気になってよかったなとほっとするカーニャであった。
「そう、ユアは相変わらずなんだけど、少しそばにいてあげてくれる?私着替えてくるから」
そう告げるカーニャは化粧でごまかしきれない疲れが見えた。
アミュアはこれはダメだと判断した。
「今夜はわたしがずっといるから、カーニャはちゃんと休んでほしい」
ちょっと心配そうにそう言われては、カーニャも嫌とは言えない。
本当に疲れが溜まっているのもあった。
「そう…じゃあ少し甘えちゃうかな。ユアのことまかせたわね。ひと眠りしたらまた来るからそれまでお願い」
少しだけ笑顔をもどしたカーニャがそう告げて、部屋を出た。
夜半になりユアが目を覚ました。
パチっとゆっくり瞬きし、少し考えてみる。
(カルヴィリスと戦っていた。なんだかアイギスにいさんにも会った気がする)
体を起こそうとして、左手に重みを感じた。
病室は小さな常夜灯が灯り、緑色に微かに照らされている。
左手の上にはしっかりと握るようにアミュアの手が載せられて、その横ではすやすやと椅子に座りながら突っ伏して眠るアミュアの姿。
だいたい事情を察したユアであった。
(よかった…アミュアちゃんと起きてた)
安心したら急に涙が出そうになり、右手でぬぐった。
少し落ち着いてから、体を起こしてみる。
ズキっとお腹にひきつる痛みがあったが、動いても大丈夫そうだった。
(そうだった、お腹さされたんだった。)
思い出したユアは寝巻のシャツを右手でたくし上げてみる。
つるりとしたお腹に大きな絆創膏が貼られていた。
冷静に傷の位置をみて、ここなら内臓大丈夫そうなどと冷静に考えたユアだった。
「ん…」
眠るアミュアがうなる。
ユアの気配を感じてしまったのだろう。
そおっと右手でアミュアの髪をなでるユア。
(きっと怒ってるなカーニャもアミュアも)
今なら自分の間違いに気付ける。
理屈ではなく、感情で間違いに気付く。
これから二人に怒られるのだと、小さく笑顔になるユア。
そっと脇に手を入れてアミュアを持ち上げ膝の上に乗せる。
アミュアのはいていたスリッパが床に落ちた。
ユアのフィジカルは多少弱っていても、アミュアくらいは軽く持ち上げるのだ。
こてんと肩に頭を乗せて寝続けるアミュア。
ユアはそっと抱きしめ、髪の匂いを嗅いだ。
(アミュアの匂いだ)
その暖かさがどんどん心にも染みてくる。
その匂いに安心が溢れてくる。
(そうか、離れてしまったらダメだったんだ)
匂いと暖かさで真理にいたる動物のようなユアだった。
この甘い香りと温もりから離れてはいけないのだと。
ひとしきりアミュアの存在を感じたあと、そっと隣に寝かせる。
ちいさなアミュアにまるで、母親に甘えるようにユアはすり寄った。
そうして、すぐに自分も寝てしまうのだった。
まだ何一つ解決していないのに、これで良かったのだと思えるユアであった。
やっとやせ細った月が登って、窓から青い月光を差し込む。
部屋には二人の寝息だけが満ちていくのであった。
「はんせいして」
「ゴメンナサイ」
ベッドに仁王立ちのアミュア。
腰に手を当て胸をそらしている。
その前には正座のユア。
顔はニコニコが隠せていない。
じーっと見てくる、すみれいろの瞳が自分を映しているのがうれしくて仕方ないのだ。
朝起きたアミュアは、ユアが目覚めて隣にいることに気がついたのだ。
傷のことなどわすれて押し押しして起こした後は、冒頭の流れである。
正座して膝に手を置くユアの笑顔に、我慢できなくなったアミュアは涙をながし抱き着いた。
「しんぱいしたんだよ」
ただ静かに、ゴメンといったユアはそのままじっと座っていたのだった。
まったく痛くはないのだが、アミュアは力いっぱいユアの頭を抱きしめていた。
アミュアの気持ちが沢山伝わり、ユアの笑顔が優しいものに移りかわる。
しばらくの後そっと離れたアミュアが床に降りスリッパを履いたころ、入口のドアが開く。
カーニャが入りながら話しかけてきた。
「ごめんねアミュアちゃん、すっかり甘えて寝て…」
そこでユアが起きているのに気付く。
固まっているカーニャにユアは座りが悪そうに話す。
「カーニャ本当ごめんね、心配かけたよ」
皆まで言わない内に走り寄り抱きしめられた。
「バカバカ!本当に心配したんだからね!」
珍しく大きな声にびっくりする二人。
ぎゅっと抱きしめる手には震えと、労りがあり見た目よりずっと柔らかい抱擁だった。
そっと抱き返し、告げるユア。
「あたし間違っていたってわかったの」
すっと声を聞き体を離すカーニャ。
手は肩から離さなかった。
真面目な顔でつづけるユア。
「大切な人から離れてはいけないのだと気づいたの」
今度はユアがカーニャを抱き寄せた。
それは一般人には少し痛いくらいの力で、カーニャは息が詰まったが、とてもうれしくて涙が流れてしまったのだった。
そっとアミュアも手を添えて、はなればなれの3人がやっとここに戻れたのだった。
一つのベッドで寄り添い合う3人は、しばらく離れることが出来なかった。
朝の光が柔らかく差し込み、幾筋もの線となり部屋に注ぎ込む。
昨日は部屋があんなに暗かったのにな、とアミュアはそっと思ったのだった。




