【閑話:少女たちの夜】
「それでね、兄さんったらあたしのパンツだけわざと避けて部屋に置いていったの」
くすくすと笑い合う少女達。
今日は久しぶりの町というのもあり、奮発してホテルのラウンジにおめかししてご飯に行った。
ユアは初めてのお化粧もしてとても忘れられない夜になった。
特別な夜はどうしても惜しくなってしまうもの。
ツインスイートの大きな部屋には、仮設のベッドもあり3人でゆったり寝られるよう手配した。
先に寝てしまったアミュアは隣のベッドで、もうすやすやと健やかな寝息を立てている。
どちらが簡易ベッドに寝ようかと、大きなベッドの上で話し合っていたのだ。
話しは色々と飛び火し、尽きることなく続いていき、いつの間にか向かい合うように横になっていた。
「しょうがないよそれは、アイギスさんだって男性なんだし。恥ずかしいでしょ?洗濯させるの」
ひとこと話すごとにクスっと笑顔が漏れる。
相手の笑顔がまたクスっとさせてくれる。
「だって、あたしが11才のときだよ?今のアミュアくらいじゃないかなあ?」
照れているのか、自慢なのかちょっとわからないユアだったが、その気持ちの暖かさだけはカーニャにも伝わったのだ。
家族なのだなと。
ユアは家族の縁が薄いとカーニャは知っている。
たった一人の血縁たる母親もつい半年前になくしたばかりだ。
アイギスは最後に残された、血は繋がっていなくとも大事な家族なのだろうと。
ユアの言葉の端々にその思いが見える。
「ユアが生まれる前からいたんでしょ?アイギスさん」
すっかり口調もお嬢様が抜けてしまってるカーニャ。
「そう、おしめだった取り替えてくれたって、おかあさん言ってたもの」
クスクスと含み笑い。
すっと目を伏せるユア、思いがけず大人びた表情にカーニャは少しどきっとした。
「もうあたしの家族はアイギス兄さんだけ。たった一人だけ残った家族なの」
そう告げるとユアは、瞬きをして表情を戻した。
「ねーねーあたしばっかり教えてる、昔の事。カーニャはどうだったの?」
問われたカーニャは少し寒くなったのか、毛布をかぶりユアにもかけていく。
すっかり一緒に寝ているのだった。
「そうねえ、私の子供のころは…」
そうして尽きない話が続き寝不足の二人は、翌日ちょっと怒ったアミュアに起こされるのだった。
未だ夏は遠くとも、夜はさらに短くなっていたのだった。
二人の少女が互いを語りつくすには、少しものたりないくらいに。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。おかげさまで第6章完結です。
次回からいよいよ最終章です。完結するその日まで頑張ります。
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