【第55話:ある日森の中で】
静かな森の中かつては随分行き来があったのだろう、立派な道だった。
ルイム城まで続くとされる旧道である。
道の先にある物と言えば、忘れ去られた城だけとあっては、人通りなどあるはずもない。
そんな静かな森の中をガラガラと、割と大きな音をたてて馬車が来る。
ユア達であった。
見通しもよく、足元もしっかりしているため結構な速度が出ていた。
アミュアの身長の半分くらいはある大きな四輪が、しっかりと車体を支えていた。
突然少し先の森からぱらぱらと何人か男がわいてくる。
即座に停車させるカーニャ。
男たちは武装していた。
停車と同時に左右の扉が開き、戦闘態勢のユアとアミュアが飛び出す。
カーニャのディティクトイビルが発動。
「前4人後ろに4人、全部で8人ね」
端的に報告したが、カーニャは落ち着いて座ったままだ。
「なんだ盗賊か?」
とはユアである。少し残念そう。
「わるいひとですか?」
アミュアも落ち着いているのは、実力差が見え見えだからだ。
後衛のアミュアですら、普段カーニャやユアの超絶技巧を見ているので拙く見えた。
カーニャとユアが目を合わせうなずき合う。
「びっくりして損した、ドラゴンでも出たかと思ったら」
ぶつぶつ言いながら馬車にもどるユア。
「アミュアちゃんお願いできる?」
振り向きながらカーニャが問う。
ぴょんと飛び上がり無詠唱でレビテーションの魔法を発動。
おお!とか魔法使いか!などと遠くで声があがっているが構わず馬車の屋根に着地。
最近使えるようになったので、機会があれば使いたいアミュアであった。
おとなしく武器をおけ!とか、金目の物をだせば!などと叫んでくるが、聞こえないかのように魔法を詠唱するアミュア。
白銀の魔力をまとい、銀ロッドを前に向けた。
そのロッドの先には瞬時に8本の氷の矢が生まれる。
氷系初級魔法のアイスニードルだ。
通常は1本づつ打つのだが、手練れが扱えば10本以上を撃てる。
丁寧に復習するかのように詠唱したアミュアが魔法を放った。
ヒュヒュヒュヒュ!
軽快な連射音を響かせ、正確に山賊たちに命中し悲鳴を上げさせる。
ギャー!とか、いてぇ!とか言って逃げていく。
恐るべきことに、アミュアの魔法は自動追尾するように逃げる男にも突き立つ。
後方にも鋭いカーブを描きとどいて、左右後方に伏せていた仲間からも悲鳴が上がった。
速やかに逃げていくところを見ると、見事に急所をさけて刺さったようだ。
恐るべき技量であった。
アミュアがまだ効果時間のあったレビテーションですたっと柔らかく着地する頃には、全員が逃げ出していた。
おぼえてろよ!とか、今度会ったら!などと叫ぶのも忘れないちゃんとした盗賊であった。
パチパチパチパチ
運転席のカーニャと開いたままの扉から見ていたユアが拍手。
「うまいうまい」
「見事ですわアミュアちゃん、複数発動に追尾まで追加とは恐れ入るわ」
「えっへん、いりょくも落としてまりょくおんぞんです」
この旅を通して練度も上がった3人に、盗賊程度では準備運動にもならないのだった。
「アイスニードルは最初に覚えたまほう、とくいなのです」
ちょっと自慢気に言い、馬車にもどるアミュアを確認し発車させるカーニャであった。
ユア達にとっては盗賊襲撃など、ほのぼのとしたイベントでしかないのだった。
実はアミュアの魔法が一番怪我が少なく追い払えるのを知って、盗賊おいはらい係にアミュアをしているのだ。
盗賊にもやさしい3人であった。
いよいよ日が落ちそうなので、野営場所を探している途中カーニャは気配を感じ即座にディテクトイビルを唱えた。
同時にペダルを離し馬車が止まる。
左右の扉が開き二人がとびだす。
「前方に4人…後方に4人」
「??」
「??」
なんだかさっきも聞いた報告だなと3人は不審に思う。
既視感を伴って、前方の左右から人影が飛び出してくる。
どこからみてもさっきの盗賊だ。
「ええと…おかわりした?」
アミュアをみながらユア。
「いらないです」
とアミュアは顔をしかめた。
「…これは。待って!反応がおかしい獣の気配があるわ!」
叫ぶと同時に抜剣して前に飛び降りるカーニャ。
瞬時に切り替えレビテーションで馬車にとびあがるアミュアと、後ろに向きクレイモアを抜き放ったユア。
先程と違い無言で近づいてくる前の4人と、後方左右からも無言で4人でてくる。
「影がつつんでないよ!」
意味が解らず叫ぶユア。
馬車の上ではたしかに獣の気配を感じ、アミュアが上級魔法を詠唱し光りながら浮き上がっていく。
「これはもう遠慮なく倒しましょう!」
カーニャは叫びながら突出。
強化魔法の金色をまとっていた。
一瞬遅れてユアも前方にシフトしながら叫ぶ。
「アミュうしろよろしく!」
後方は距離があるので、アミュアに任せて前のカーニャを援護に回ったのだ。
ユアの足なら追いつける。
赤い風になり駆け抜けていった。
指示通り後方の4人にターゲットしたアミュアの魔法が発動。
金色に輝く腕程の太さのビームが、曲射され、斜め上から4人を蹴散らした。
アミュアの目が見開かれる。
初めて人間を撃ち殺したのだ。
獣だと自身に言い聞かせ狙ったが、結果はアミュアの想像を超えて凄惨だった。
ドスン!シュパ!
ズバン!
カーニャは2撃を瞬時に叩き込み、ユアは横凪で一撃2名たたき切った。
カーニャに突かれた二人は胸に大穴が空き、ユアに切られた方は豪快に真っ二つだ。
どちらも致命傷のはずだが、素早く下がって残身した距離を、いまだ這って向かってくる。
後方の4人は上半身に被弾し首がないやら、胸に穴が開いたりと、こちらも致命傷のはずだが倒れない。
これは間違いなく村でみた影獣と同じと思い、ユアの剣が金色を纏い瞬時に4人の手足を切飛ばす。
殆ど同時にカーニャは後方援護に飛び戻っている。
ユアが左手で浄化しようとしたとき。
「いやああああああぁぁぁぁ!!」
と引き裂くような悲鳴。
アミュアだろう。
(またアミュアに辛いものみせちゃったな…)
相変わらず浄化する痛みに左手は震えるが、その痛みなどアミュアを心配する心の痛みに比べれば、何のこともないユアであった。
夕闇がどんどん降りてきて、辺りは夜の領域に変わっていくのだった。




