【第50話:白霧の隠したもの】
霧は濃く足元でも完全な視界は無くかすむ、道すら見失いそうな霧。
天気が良く明るいのだが、方向によってはかえって見えずらい。
先行するユアが短く言う。
「一旦停まってアミュ」
まもなく村に着くのだ。
「アミュ気配は?」
ちょっと戻ってユアが聞く。
アミュアは獣の気配にいちばん敏感だ。
「特に感じない、ディテクトも掛けたけど反応なかった」
アミュアも端的に返し、馬車を進めた。
村の門らしきものがじわじわと見えてくる。
簡素な杭と板で作られた外周をまわる柵と、同じつくりの小さな門だった。
村内をまとまりながら確認していく3人。
畑を除けば、それほど大きくはない村。
民家は5件しかなかった。家畜小屋のほうが多い。
視界が相変わらず悪いので、3人の距離は自然と近くなる。
丁寧に一軒ずつ確認していくが、特に変わったところはない。
しばらく前まで人が住んでいた廃村。
人の気配も家畜の一匹もない。
白い霧につつまれた、命が絶えた村だった。
最後の民家を調べようとすすんでいた3人。
先頭のユアが手を上げる。
止まれのサイン。
「気配がある」
短いユアの宣言で、アミュアが下がりカーニャと背中合わせ。
カーニャは後方警戒を続ける。
カタン
何かが倒れる音とともに、濃厚な敵意が溢れる。
「さっきまで何も感じなかったのに!」
あせりぎみのアミュアが叫び、詠唱を始めながら少しづつ下がる。
アミュアをつつむ金色の魔力は光属性だ。
カーニャは引き続きアミュアのフォローで周囲警戒。
ユアが入口をふさぐように剣を横に構えている。
ふわっと霧を割き影が現れる。
人型の影だ。
特に大きくなく、武器は見当たらないが早い。
一人目の影を真横に切り裂くユア。
横凪の一線は影を両断したが、そのまま進んでくる。
右手によけたユアの横を細い光線が高速で照射される。
光属性中級のフラッシュレイ。
光属性+貫通属性だ。
威力より速度を重視した簡易詠唱だった。
縦に並び出てこようとした3体を同時に貫き、室内まで照らした。
「人型だが影獣と同じ!」
ユアがまだ動いている影にクレイモアを突き立てる。
刃に滲む金色はペルクールの雷だ。
3体とも動きを止めた。
抜剣して家の周囲を警戒し続けるカーニャが、ディティクトイビルの魔法を行使。
「反応なし」
短く報告してくるカーニャをちらと見て、ユアが左手を影に向けた。
一瞬だけ震えたが声は出さない。
もうその痛みには大分慣れたユアであった。
少し遅れてアミュアも別の影に左手を向けた。
「くうぅ」
アミュアの顔がゆがみ、声がもれる。
まだ、痛みには慣れないアミュアだった。
はっとユアの目が開かれた。
いつものように消えゆく影がうすれると、そこに子供の遺体が残ったのだ。
透明ないつもの魂のようなそれではなく、しっかりと形の残る屍。
「いや!」
浄化の途中でアミュアが声をあげ、両手で顔をふさぐ。
近付いてきていたカーニャがそっとアミュアを支えるように抱きしめた。
アミュアはカーニャの胸に顔をうずめて震えていた。
アミュアに心配そうな眼を向けながらも、ユアは浄化を続ける。
カーニャとも目が合いうなずくユア。
ユアが3体目を浄化し始めると、カーニャがアミュアをそっと導き馬車へ向かった。
馬車にもどり、アミュアを中に休ませたカーニャが出てきてユアに告げる。
「寝ちゃったみたい」
心配そうに馬車をみて、ユア。
「ショックだったよねアミュア?あたしは慣れてるけどああゆうの。カーニャは平気?」
表情は変えず平坦に答えるカーニャ。
「まあ、長くハンターしてれば嫌でもなれるわ。護衛任務で盗賊も何回か切ったしね」
見つめ合い、どちらともなく馬車へと視線を向ける。
無垢なアミュアを思い、それぞれの胸に言葉にならない心配が浮かんだのだ。
少しの間を置いて、ユアがつぶやく。
「弔ってあげようと思う。墓地とかあるのかな?この村」
ユアに視線を戻しカーニャ。
「2件目の家の庭に墓標があったし、この規模の村だとそれぞれに埋葬してるかな」
ユアの表情はすこし暗い。
シルフェリアでの弔いを思い出しているのかもしれない。
先ほど騒ぎのあった民家の庭。隅の方にこんもり墓標が3つ。
ユアとカーニャで葬ったのだ。
ここまでほぼ無言で作業した二人だった。
馬車から持ち出した折り畳みのシャベルを地に差しユアがぽつりと漏らす。
「家族…だったんだよねきっと」
遺体は男女と子供であった。
親子の間に子供を埋葬してあげたのだ。
すこしだけ疲れの見えるカーニャが答える。
「こうゆうのって、体じゃなく心が疲労するね」
鍛えられたハンターのカーニャと、傭兵団出身のユアは体力的にはまだまだ余裕すらある。
潜められたユアの声が告げる。
「いままでもね、浄化すると魂みたいのが見えてたの」
カーニャと目は合わさず、墓標を見ながらユア。
「でも形ある屍が残るなんて初めて…アミュア大丈夫かな?」
最後は馬車の方を気にするユアだった。
その両こぶしは強く握り閉められ、静かな怒りで震えていた。
少しずつ気温の上昇とともに白い霧は薄れていった。
明るくなってくる村には静けさだけが残された。




