【第49話:くだりざかの日々】
ここから第6章です。よろしくお願いします。
※ごめんなさい誤字だけなおしました。
シルヴァリアを送り出し昨夜遅くに戻った3人。カーニャが申し出て見張りについた。
アミュアとユアはせっかくあるテントは使わず、馬車の中で眠った。
寂しさがやまないアミュアがユアの手を離したがらなかったのだ。
まるでそれが命綱だと言うように、しっかり手をつないだまま眠った。
それはユアにとっても、癒しの時間だったのだ。
起き出した2人はちょっと恥ずかしそうに、カーニャに挨拶するのだった。
「おはようカーニャ、テントごめんね…せっかく準備したのに。あたし片付けるよ!」
「おはようです」
テント設営の労に、わびを入れるユア。
その後ろからちょっと恥ずかしそうにアミュアも朝の挨拶。
「いいのよ、そんな日もある」
短くにこっと答え馬車に向かうカーニャ、朝の支度をするのだ。
残った二人が確認すると、洞窟は跡形もなくただの崖に戻っていた。
二人にはそれが新たに隠蔽されたのか、本当に消えてしまったのか、確認する気にはなれなかった。
癒やされて来ていても、そこにまだ痛みは残っていたのだ。
アミュアは朝の準備は手伝わず、山裾にひっそりと咲いていた小さな紫の花を摘んできて崖に手向けた。
(なんだかちっとも似てないのに)
しゃがんで手を合わせるアミュア。
(どことなくししょうみたいに感じた)
そんなに長い時間を古竜シルヴァリアと過ごした訳では無かったが、確かに残っていたソリス喪失の痛みを、呼び覚まされたのであろう。
(なんだか竜のおかげで、やっとししょうにお別れできた気もします。ありがとう)
そう思い至ったアミュアは、自然な笑みで朝の空気を吸い込んだのだった。
荒々しくもあったルメリナ側の斜面と違い、ミルディス公国側はなだらかな坂が続いていた。
道の整備もこちら側の方が良く、馬車の足は自然と上がっていた。
頂上を出て翌日の朝。
新たに超えた別の峠は、なだらかで広大な草原へと緩やかにつながっていた。
裾野が広々と何処までも見渡せた。
「ヒャッホーゥ♪」
ユアが、その抜群の身体能力を生かし、板1枚で滑り降りてくる。
まだまだ急な斜面もユアにとっては、楽しいゲレンデであった。
板は馬車の修理用に積んでいた材料の1枚だ。
板裏に塗り、滑りを良くするワックスも修理材の中で見つけたのだった。
すっかり先行して滑り降りてきたユアが、止まり振り向き見上げる。
まだ大分上に馬車が小さく見えた。
「あ、やば、楽しすぎてだいぶ離れちゃった」
あわてて板を担ぎ登り出すユア。
すでに3回はやっているルーチンだった。
すっかり風で後ろに撫でつけられた髪を、気にしながら坂を登っていくユアであった。
腕組みカーニャの前で正座のユアはしょんぼり。
ルメリナ側の獣が出なかった距離から、だいたいこのあたりがシルヴァリアの境界だろうと見極めていたカーニャであった。
「そろそろ結界を超えるかもと、話したよね?」
「ゴメンナサイ」
少し調子に乗りすぎたようだ。
何故かカーニャの横で同じポーズのアミュアも怒っていた。
「もうやめて、といいました」
「ゴメンナサイ」
二人が本気で心配してくれているのが判り、申し訳ないよりも嬉しさがある。
そのせいか、真剣に反省しているように見えないユアであった。
ごめんなさいに、によによ成分があるのだ。
「反省するまで座っていて」
「ごはんも抜きです」
「くぅ~ん」
ご立腹の二人に言われ、捨てられる子犬のようなユア。
「今日は少し早いけどこのあたりで泊まって、明日からはしっかり警戒しながら進むわよ」
後ろを向くカーニャの声は固かった。まだ怒っているのか。
「ほんとにごめんねカーニャ、反省します」
「はんせいです」
「はーい」
詫びるユアにたたみかけるアミュアであった。
その日の夕方。
晩御飯までに許してもらったユアも加わり、3人で野営の準備をした。
今日はユアが調理して、得意のホワイトシチューであった。
ちゃんと分かってくれれば、特に他意はないカーニャは元通り。
アミュアも、ユアが心配なだけなので今はお腹もいっぱいでご機嫌に戻っていた。
食後のココアと紅茶でのんびりしながら、打合せ。
「そろそろ予定では村があるはずなんだけど」
とは広げた地図をみるカーニャ。
「ふんふん、今日見下ろした感じではそこいらに村はなかったけどね」
横から覗き込むユア。
アミュアはいつものふーふータイムである。
カーニャも紅茶を口にしてから続ける。
「まあスリックデンの商人から手に入れた地図だから、そこまで正確じゃないのかも」
ユアは紅茶のカップを両手で握り、暖かさを堪能しつつカーニャに寄りかかるように覗き込んだ。
「ふむ、でも道沿いにあるのは間違いないみたいだし、明日にはきっと見つかるよ」
最近の二人の距離感は、本来これくらいであった。
今日はたまたまおそろいの木製ピアスだったのも、仲直りの秘訣だったかもしれない。
翌日は少し霧が出た。
ミルディス公国側は湿気が多いのか、昨日も晴れていたが朝方もやった。
今日何度目かの休憩だが、いまだ村は見えなかった。
「そろそろ辿りつけないと、少し困るな」
「なにか問題あるの?カーニャ」
地図をまた見ているカーニャにユアが訊ねる。
「食料の余裕がなくなってきた。あそこで分けたのもちょっと惜しかったな、今となっては」
ちょっと顔色悪くしたユア。
「ええぇ…ごはん抜きは辛いよぉ」
ちょっとにこっとカーニャ。
「まだすぐに食事を抜くまでではないけどね。もともと次の町まで持つ予定だったし。予備がなくなったくらいの話よ」
そのとき馬車の屋根にあがり、周囲警戒していたアミュアから声がかかる。
「ふたりともきて!何かあっちに見えた」
一瞬で顔を見合わせた二人が馬車に戻る。
「どっち?アミュア」
ユアが短く確認。
「あっちの下の方に、柵とか建物の影が見えた。霧がちょっと切れたらみえた」
右手下の方を指さすアミュア。
今は濃い霧が覆っていて斜面になってるとしかわからない。
ちょっとだけ考えたカーニャが支持を出す。
「アミュアちゃんは馬車の操縦。ユアは一旦偵察、無理はしない事」
きゅっと眉が上がるカーニャ。
「りょうかい」
こうゆう時のユアは信用できるとわかっているカーニャもうなずく。
「こちらはゆっくり向かうから、よろしくねユア」
「まかせて。村だったらいいね」
それだけ打ち合わせて進んでいく3人であった。
なかなか晴れない霧はねっとりと地上を覆っていた。




