【閑話:そのとき受け取っていたもの】
「おかあさん!お話は?お話しして!ちゃんとねるから」
まったく寝そうにないユアは、母の手を引き寝室にずんずん進んでいく。
「今日はなんのお話し?ラウマさまのがいいな!」
ベッドに入っても、ぱっちりと目は開いているユア。
「おかあさんも布団に入って!今日は寒いから風邪ひいちゃうよ!」
思いやりよりも、甘えを多く含んだ声でユアは母の手を引き入れる。
「おかあさんの手、少し冷たいね!」
母の手にほほを寄せて、笑みを深くするユア。
春は遠く、夜はまだまだ冷え込みを携えてくるのであった。
『ラウマと てのひらの ひみつ』
むかしむかし、
この世界には「ラウマ」という、やさしいかみさまがいました。
ラウマは てのひらを そっと にぎるだけで、かなしい気もちや つらいきもちを、
ふわりと うすくしてくれる ふしぎな力をもっていました。
人びとはラウマのかたちの ぞうをつくり、
その手を にぎっては、心を すくってもらっていました。
ラウマは つよくて、ひろい心をもっていたので、
たくさんの ひとの かなしい気もちを うけとめつづけていました。
けれど——
ラウマは、自分のなかにたまった かなしい気もちを、
じぶんでは きれいに することができませんでした。
それでもラウマは、ずっと だれにも 何も いわず、
「たいせつな だれかが すくわれるのなら」と、がんばっていたのです。
でもね、ラウマの心のうつわが、だんだん いっぱいに なっていって、
とうとう、どんなに がんばっても、すこしずつしか力が つかえなくなりました。
すると、
人びとは こう言いました。
「ラウマは もう、なんにも してくれない。」
「ちっとも たすけてくれない!」
その中には、おこった人もいました。
ラウマに、つよい つよい「にくしみ」を なげつけたのです。
ラウマは その気もちを うけとってしまいました。
それは、ほかのどんな悲しみよりも、つらいものでした。
そのとき、ラウマの心は、こわれそうに なってしまって——
——そして、
ラウマは しずかに 目をとじ、
だれにも きづかれないように、そっと すがたを かくしてしまいました。
それから、とてもながい じかんが すぎました。
ラウマが どこへ いってしまったのか、だれも しらないまま。
でもね、もしかしたら、また だれかの てを にぎるために、
ちがう かたちで このせかいを あるいているかもしれません。
ーーー
いつも途中で寝てしまうユアは、どうしても最後の一文を聞くことはできなかった。
その一文にこもった救いだけは、いまのユアにもずっと届かないままなのだった。
ここまでお付き合いいただいた方。本当にありがとうございます。第5章終了となります。
次回から第6章、引き続き頑張ります!よろしくお願いいたします。




