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【第47話:暗闇の奥にあったもの】

 雲が流れさあっと明るさが戻る。

完全に装備を整えた3人は、崖の異変を確認しに行く。

「これ幻じゃないよね?触ってみるね」

とは、うずうずが限界のユア。

好奇心を抑えられないのか、もう抜剣し剣先で暗がりを指している。

「落ち着いてユア、いま明かりの魔法かけるから」

詠唱もなく右手にはめた指輪から、照明用の明かりを出すカーニャ。

目をこすっていて遅れたが、アミュアもロッドに明かりを灯す。

どちらも簡単な生活魔法、この程度は二人共無詠唱だ。

 さぁっと白くなる辺りに比べ、ユアの指す暗がりは奥行きだけを示した。

「やっぱり穴があいてる。いってみよう!」

言うが早いか進みだすユア。

カーニャにやさしく押されたアミュアが慌てて続く。

しんがりはカーニャが務めるようだ。




 魔法の明かりに照らされたそこは、奥に行くほど広くなっていく。

かなり大きな洞窟のようだ。

確かに存在する洞窟にしか見えず、ユアが所々つんつんと剣で確認したが確かな手ごたえを返してきた。

しっとりと濡れた白い岩肌は、どう見ても作り物ではなかった。

「わりと脆いから鍾乳洞?ってやつかな?」

「鍾乳洞とは違うかもだけど、組成は似てるかもね」

ユアに答えるカーニャは思案顔。

鍾乳洞ならばあるだろう特徴、鍾乳石や石筍を見ない。

天井も床も荒々しいが、平らかだ。

前後を軽く見渡しカーニャがつぶやく。

「変な表現かもしれないけど、どこか人工的にみえる。妙に歩きやすいし」

「こうゆうのみたことある、わたし」

「えっ?」

「えええぇ!!!」

アミュアの意見に驚愕の二人。

「…ごめん、みたことある気がする、だったかも?」

首をかしげる二人に、ちょっと照れ臭そうにアミュアが続ける。

「たぶんこれ魔法でつくってある」

アミュアは最初の師匠であるソリスの召喚洞窟を思い出しているのだが、記憶が曖昧で自信が持てない。

あの旅の記憶はアミュアのなかでは半ば夢と同列に扱われている。

そっとアミュアに見えないよう視線を交わす二人。

お互いに判らないと首を少し振る。

さっと前に出てユアが宣言。

「まあ!進めばわかることだよ、きっと」

いつもの雰囲気になりずんずん進んでいく。

あわてたアミュアが追う。

カーニャもユアの気遣いを見て取り、微笑んでついていくのだった。

(ほんとに、優しくて不器用ねユア)


 ひと時の間進み光の効果時間が切れ、順番に明かりの魔法をかけなおした。

 進み始めるとすぐ、奥にぼんやりと壁が見えてきた。

行き止まりまで来たのだ。

すでに天井まで明かりがとどかず、よく見えないくらい高くなっている。

左右の壁もかなり遠くなった。

突き当りには何もなく、ただ洞窟の終わりに見えた。

 すっと先頭のユアが片手を上げ二人を止める。

「なにかある…なにかいる?」

ユアは二人と違い魔法的な索敵ではなく、気配と言われる空気の流れや音の反響で警戒している。

そこに違和感を感じたのだ。

 その瞬間にぱぁっと虹色の光が中心から広がってくる。

「魔法?!」

カーニャが見たことのない魔力に警戒し、アミュアを引いて下がる。

軽いアミュアは抵抗できずにととっと連れていかれる。

ユアは右手の短剣を引き付け、左手を正面に向ける突進の構え。

パリンと虹色が割れる音をたて、大きな破片となり崩れ落ちる。

地面に落ちたものから先に、カラカラと砕けていく。

「これは複合隠蔽魔法?」

アミュアがまた既視感から謎知識をだしてくる。

複合魔法は一般的には知られない、賢者や古から生きるものの知識だ。

カーニャはちょっと意味が解らないが、アミュアを後ろに庇いつつ抜剣。


『驚かせたか?すまなかった』

空間に満ちるように広がる声。

3人に均等に届くが、威圧感はない。

そしてくずれ落ちた魔法の奥には巨大な影が見えた。

カーニャとアミュアが持つ、魔法の白い光を反射して見えてくる。

キラキラと銀色に輝くそれはてのひらほどの鱗。

大きな体躯は鱗を細やかに見せた。

全体で見れば伏せている犬の様な恰好なのだが、その質量と存在感がその想像を邪魔する。

折りたたまれた翼がながながと左右に広がり、地に落とした頭からは滑らかで美しい角が後ろに流れる。

それは白銀の巨竜であった。

言葉を失くし、固まる3人にやさしい声が続ける。

『これはこれは懐かしい。聖なる雷の気配と、いにしえの癒し手の気配』

これも大きな目蓋が上がり、縦に細められた瞳孔が見える。

瞳も白銀だ。

『君はラドヴィスの血縁かな?』

 瞳がとらえるのはユアであった。

敵意を見出せず、剣先をおろしているユア。

だんだんと目を見開き、顔じゅうで笑顔になっていく。

「りゅ、竜がしゃべってる!?」

 子供のころ読み聞かせられた、おとぎ話の竜のようだと思うユア。

巨大な体躯をきょろきょろ見回して、ユアも最後は竜の目をみた。

アミュアを庇ったカーニャも呆然と見つめている。

アミュアはちょろっとカーニャの背中越しに竜をみた。

前に見た黒いのよりは、ちいさいななどと失礼な考えも抱いていた。

「ん?あれ?おとうさんのこと知ってるの?」

 改めて言葉の意味を理解したユアが問う。

顔がすっと真面目になる。

『ラドヴィスは私の数少ない友だよ。つがいだと紹介されたエルナにも会ったことがあるな』

少し眼を閉じ考え、ユアの母親の名も答える竜。

「銀嶺の古竜!?」

旅の前に下調べしたうわさに思い至ったカーニャがめずらしく大きな声を上げる。

ぱちっと目を開いた竜がカーニャを見る。

『なつかしい呼び名だな、私がシルヴァリアだ。よく調べてきたようだね』

驚かさないようにと気遣いが見える柔らかな声で、カーニャもついに緊張を解き剣をおろした。

「ぎんれいのこりゅう?なにそれカーニャ」

首をこてんとして、アミュアのような口調になりユアが訊ねる。

こめかみに手をあてカーニャ。

「なんでユアが知らないのよ…シルヴァ傭兵団の名前になった伝説よ」

ちょっと微笑んで続けるカーニャ。

「雪月山脈に残る古竜の伝説よ。旅人を何度も救った逸話や、悪人を退けたとの話も伝わっているわ」

簡潔に説明するカーニャは納刀しながら答えた。

カーニャは常に優秀であった。

 アミュアは説明に聞き覚えがあり、「わたしはしっていたよ」とユアに自慢しに行きかけた。

しかし動き出す前に、登山中にカーニャに聞いただけだったと思い出し踏み留まる。

善良で誠実な、実にいい子であった。

その善良さには観測者が必要とされない。



驚愕の遭遇であったが、銀竜の思いがけぬ柔らかな声で少し和んだ3人であった。


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