表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/80

【第46話:峠に至った日】

「あれはどう考えても怪しかった。ありえない出会いだったよ」

「本当にそう思う。なんだか上手に出てきて、上手に去った感じがしたわ」

「おなかすいてたのかわいそうです。空腹はつらいです」

 三者三様の印象をまずは述べ合った。

セルミアと別れ、今は山頂の見渡せる位置で、お昼ご飯で止まっていた。

少し風が強いので、馬車の中に3人ちまっと集まって食べている。

カーニャの向かいにユア。

ユアの足の間にアミュアだ。

アミュアは最近そこが気に入ったようで、自分でユアの前に来る。

足を広げたユアの前にぺたりと座るアミュア。

やさしいアミュアの意見に二人は思わずアミュアの頭をなでる。

「よしよし」

「いいこねえ」

「こどもではないのですが」

 とアミュアはちょっと不満そうにするが、二人共それが照れ隠しだととっくに解っている。

カーニャの精密制御生活魔法で沸かした、食後のココアを3人で飲んでいる。

馬車の狭い中でくつろぐのも大分慣れてきた3人であった。

「スヴァイレクが去った直後ってのも、怪しいよね。仲間かな?」

「そこは断定できないし、獣には見えなかった。でもただの人ではありえないわ」

「かげけものではないとおもう。気配はふつう?だったよ」

 さらに意見を述べ合う3人。

「もしや人の中に仲間がいるってこと?」

ユアが自分の想像に怖くなりぶるっと震える。

「すごく怖い想像だけど、人にしか見えないレベルの獣とか?」

 ちょっとふざけて、カーニャがカギにした両手を顔の横にあげる。

「こわいです」

「こわ!」

 ユアに返したカーニャの言葉に震える二人。

カーニャが冗談でいった意見こそ正解なのだが、3人は見つめ合ってくすくすするのだった。

「まもなく山頂だし、このまま馬車でいけるかな?」

 ユアの明るい顔をみては、否定しにくいカーニャがやわらかく答える。

「きっと大丈夫だと思う。天気もいいしね」

 アミュアは少しココアが熱いのか、さますのに夢中。

こうして3人はどこにいてもふんわりを保っていくのだった。




 左右に迫る残雪がどんどん背を伸ばし、山道にも雪が増えてくる。

少し前から自力で登るのが難しくなった馬車を、アミュアが操作しカーニャとユアが後ろから押していた。

幸い馬車の力は強く、ひどく重かったりはしなかった。

「最悪強化魔法とかいるかと、おもったけど!」

ちょっと力を込めながらカーニャが言った。

「そうだね!これくらいで最後までいけたらいいね!」

ユアはわりと余裕があるのか、ちょっと楽しそう。

「もうすぐ峠のてっぺんです」

立ち上がって前をみていたアミュアから報告。

 ついに3人は雪月山脈の峠に至ったのだ。

天も祝福するような快晴の中、風も今は穏やかだった。




 峠の上には、休憩用なのか広めの整地された土地があった。

夏になればそれなりの行き来がある事がうかがえる。

丁度日も暮れてきたので、今夜はここでキャンプとなった。

広場の山手の端は少し崖になり立ち上がっていて、風よけにもなりそうだ。

 3人しかいないので、一番よさげな位置にテントを一つ出した。

反対のミルディス公国側が不明なので、ちょっと心配になり夜番をまた始めることとしたのだ。

馬車と壁で2方向をふさげるので、風もあまり吹き込まない。

 登りながら少しづつ集めて乾かしていた枝を組み、焚き木とした。

最初なかなか燃えなかった焚火は、今はパチパチと燃え暖かさと明かりを提供していた。

 今日は広々したくて、馬車にアミュア。テントにカーニャがゆったり寝ている。

ユアも眠くなったらカーニャと交代する予定で夜半まで火の番である。

(ちょっと大変だったけど、ここまでこれた)

 膝を抱え、折りたたんだマントの上に座るユア。

膝に乗せて組んだ両手にあご先をのせている。

 ゆらゆらと揺れる薪の明かりをみつめるユア。

(不思議だ…あんなにアイギスにいさんが気になって焦ってたのに)

 今夜の火はやさしい暖かさをユアに恵んでくれる。

(あのデカい獣にヒントももらって、向かう先も決まってるのに)

 ふわと柔らかな表情になる。

(きっとアミュアとカーニャのお陰かな?ちっとも気が急かない)

 一度すっと目を伏せるユア。

(大丈夫だって思える)

 その唇は柔らかな笑みを描いていた。



 しばらくたち、そろそろ交代かなと思う頃。

すっと立ち上がったユア。

腰の短剣に手が添えられている。

(なにか視線を感じた)

チラと見上げる右手の崖。

その先にはさらなる頂を誇る高山があり、月夜にシルエットとして高々とそびえている。

迷ったが、安全を優先しユアが声を出す。

「念のため起きて!不審な気配がある!」

声はおもにカーニャの眠るテントに向けた。

何もなくてもそろそろ交代の時間でもあったので、ユアに遠慮はない。

ほとんど間を置かずに、ざっとテントを開きカーニャが現れる。

左手には鞘ごとエストックを持っている。

防具はないが、指輪等の魔法触媒は外してない。

ユアの視線は一点に結ばれていた。

「どうゆう状況?」

短くユアにたずねるカーニャ。

「あの崖から、視線を感じた。気のせいではないと思う」

ふたりがよく見ると、ぼんやり月の光に浮かぶ崖になにか不自然な影がある。

いまの月明りではそこに影ができるはずがない。

見間違いでなければ、黒々と洞窟が開いているかのよう。

もちろん夕方確認したときに、そんなものはなかった。

「あたしが単独偵察にでる?」

ユアはカーニャに、ここを任せて調べに行きたいようだ。

「ごめん、少し心配すぎるから、アミュアちゃんも起こして3人で行きましょう」

とはカーニャの慎重論。

「…わかった、起こしてくる」

少しだけ考えて、先ほどの自分の気持ちをなぞってみるユア。

逆だったら絶対カーニャを行かせないなと、思い直したのだ。

そして行かせないと言ってくれたカーニャの判断がうれしかった。

思いがけないトラブルだが、不思議と嫌な予感はないユアだった。

叢雲が時々月を横切る。

少し暗いがユアには問題ない月明り。

風もおだやかな深夜、まだ今夜は長くなりそうだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ