【第四話:ハンター試験(マルタスの憂鬱)】
2025/6/29少し説明の文章をたしました。お騒がせ申し訳ありません、大筋はかわっておりません。
「さあ、こっちに来るんだ。伝統のハンターオフィスへようこそ!」
ちょっとおどけた決め顔で両手を広げ、ハンターオフィスの案内を始めるマルタス。
隠し切れない長い歴史への誇らしさが、見え隠れする。
オフィスは近代ではめずらしい木造建築だ。一般には石造りや、最近ではセメント等を補強するのが流行りだ。高い天井に近い壁には、明り取りの小さな窓が並ぶ。伝統がにじむ見事な建築であった。
ハンターオフィス内を歩く二人が、わりと大きな声で話し出す。
「なんかぼろいよね?古いしカビくさい」
「そうゆう話は、職員がいないときにしましょう。ユア」
まったくコソコソしない陰口に、マルタスは苦笑い。
「まあ古いのは本当だぜ?なにしろ俺が生まれた頃からあるからな・・」
昔を思い出してか、少し寂しそうな横顔のマルタスは先へと進んでいく。
「おどろきました…それほど歴史あるたてものでしたか…」
「いや、職員いじるのは試験終わってからにしようよアミュア」
すでに陰口を超える口撃に、プルプルするマルタス。会話が成り立ってしまうことがダメージになる。
「わかった・・・スペシャルな試験で歓迎してやろうじゃないか!」
青筋をたてるマルタスに続き裏庭にでる二人は、どこか楽しそうでふんわりしていた。
ーーーマルタスと対照的に・・・
やたら気合の入ったマルタスが、裏庭にある訓練場で話し始める。
「・・・ハンター試験を始める。容赦は一切しない!いくぞ!」
「あたしから行くねアミュア。おねーさんの雄姿をやきつけるんです!」
無表情のまま見上げながら、アミュアは落ち着いて返答。
「ちょっとお花摘みにいってきます、どうぞはじめてください」
すん、と顔を背け先ほど見かけたトイレを目指した。
「えええ~ちょっとアミュー、アミュアちゃーん」
ユアの寂しそうな声にも振り返りはしなかった。
マイペースが過ぎるふたりに、またしてもプルプルするマルタスであった。
「・・・・合格だ」
あっけない試験の終了。合格を告げるマルタスの顔に、深い皺と悲哀が滲む。
あらゆる体力試験を軽々とクリアするユアに、最後の模擬戦でも先輩ハンターは歯が立たなかった。
「お前…あとでスペシャル訓練な!」
「イヤまじ無理っスよマルタスさん!あの子強すぎるって」
とばっちりの試験官ハンターも、泣きながら逃げていった。
そこにちょうど戻るアミュア。
ユアはアミュアに見てもらえず、端っこで拗ねている。哀愁ただよい、木枯らしの幻視すらその背にまとっていた。
ーーーひゅ~ひゅ~
「がんばったのにな…がんばったのにな…」
アミュアはちょっと空気がよめず、キョトン顔。
「おわりましたか?では次はわたしが?」
「・・・・オホン。魔法職だな?アミュア」
装備を確認し、たずねるマルタス。ゴゴゴゴという効果音をまとい説明を始める。
「くつくつくつ・・・魔法職でハンター試験はつらいぞ?まずはあの的を・・」
意地悪そうな顔でマルタスが指さす先には魔法戦訓練用的。なんだかうれしそう。
その後の説明をしようと口を開いた瞬間。
キュルルルルーーードドドドン!
轟音とともに空気が凍り、氷の槍が一瞬にして4発叩き込まれた。
それは無詠唱のアミュアが向けた銀のロッドから、高速で連射された氷の槍。
アイスジャベリンの魔法は、4本とも見事に的の中心に突き立っていた。
開いた口をさらに開きながら、零れ落ちそうな眼で的を見るマルタス。
自然体無表情のアミュアとは対照的だった。
ザワッザワッとどこからか湧いてきた観客ハンターたちが説明セリフを連発。
「ば…バカな・・中級魔法を4連射だと・・」
「おい?今詠唱していたか?」
「え?俺なんかまたやっちゃいました?」
「本来は中級魔法でも耐える強度を持つ的だぞ・・・」
「ハァハァ、萌があふれてる・・」
「なんだと・・・あの体であの威力」
ちょっと違うのも混じっていた恐れもあるが、説明が終わると去っていく先輩ハンター達であった。
最後に背を向け震えるマルタスがこう告げた。
「・・・合格だ・・・」
そしてユアの横にそっと同じ姿勢でしゃがみ、地面にのの字を書き始めるのであった。
ユアの背に吹き付けていたはずの風は、なぜか範囲を広げ二人を包み込んだ。
ーーー風がささやく、春は遠いと。
「つ・・次だ。まだバディ試験がノコッテイルゾ・・・」
なんとか立ち上がったマルタスが、だんだん無表情になりつつ続ける。
バディ試験は個々の戦闘能力だけではなく、連携・作戦・相性など二人の総合力が問われる。
「それなら大丈夫!おねーさんにおまかせよ!」
こちらも復活したユア。腰に手をあて自信満々。
「そうですね、少なくともソコは信頼してますユア」
少し含みがある半眼のアミュア。ソコ以外はあまり信頼が無いようだった。
”おねーさん”マウントはアミュアの好感度を下げ続けていると、気づくのはいつか。
ザワッザワッ
またしても先輩ハンター達。
「あの二人がバディだと・・・これは楽しみだ」
「あの異常な身体能力の前衛に、あの魔法・・・」
「こりゃあすごいのが見れそうだ」
「(*´Д`)ハァハァ」
すすすっと仕事を終え消えていくハンター達。最後のは通報されたようだ。
そうして試験は続いていったのだった。
「・・・ゴウカクダ」
もうやめてマルタスのHPは0よ的な表情で、ささやくように終わりが告げられたのだった。
「やったー!」「やりました!」
パチンとハイタッチを決めるニコニコの二人であった。
「おいわいですね…あ、でもせつやくですよ」
「イヤイヤきょうくらいいいでしょ!!」
「それここのとこ、毎日なんですが?」
「いいのいいの~これからバンバンかせぐよ!」
楽しそうにハンター登録証を手に去っていく二人。
カウンターに佇み見送るマルタスには、対象的に表情がない。
その横に並んだ先輩ハンター。先ほどユアの相手をしてボコボコの彼だった。
「マルタスさん・・・飲み行きますか?」
こうして輝かしい成績で、二人はハンターバディとなったのであった。