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【第41話:雪月行路】

 ルメリナとミルディス公国の国境には、雪月(ユキツキ)山脈と呼ばれる高山の連なりがある。

通年雪に覆われ、頂では空気も薄くなるその白い山体は、人々に畏れ敬われてきた。

 麓の最後の村を出て、2日経つ。

いよいよ道は登りになり、先行きへの不安を煽るのだった。

「ねえカーニャ。この馬車って峠越えれるのかな?どこかに置いていくの?」

車内でカーニャとユアが話していた。

「そうね、もし進めなくなるようなら、道をはずれたところで隠蔽結界で隠して置いていくかな」

カーニャの答えは、後半すこし眉を下げ困り顔。

「オフィスで聞いた話では、夏なら小型の馬車は越えられるっていってたよ。問題は雪かな?」

「そうね…まあこの馬車は車輪が大きいから、最悪短距離なら押してでも行けるかな」

「あたし頑張って押すよ!」

もうユアの中では頑張り始めているのか、鼻息が荒い。

ちらとカーニャが前の窓をみれば、アミュアが座っているのが見える。

特に道行には問題ないようだ。


 今日は朝からアミュアが馬車の操縦を務めている。

といっても殆ど自動で進路を選んでくれるので、アミュアはあまりすることがなかった。

「だんだん寒くなってる気がする」

アミュアはユア指定のもこもこコートとフードなので、最近使ってるふわふわミトンと併せて耐寒性が高い。

さむいのはほっぺくらいであった。

すこし赤くなっている。


 アミュアの目がすっと険しさを帯びる

同時に足元のペダルを離し、馬車を止めた。

直後に左右の扉が勢いよく同時に開き、ユアとカーニャも駆け降りてくる。

「どした?アミュア」

ユアには特別緊張感がないが、周囲への索敵には余念がない。

「獣のけはいがする」

言いながら馬車の屋根によじ登るアミュアは、影獣の気配に鋭い。

射線確保のため高所へ移動したのだった。

 左右で周囲警戒のユアとカーニャ。

カーニャは詠唱もしている。

「ディテクトエビル」

 いつも触媒にしている赤い宝石の指輪が一瞬光り、静かに呪文発動する。

最近何度かあった影獣の襲撃で、この魔法が効果的とわかったのだ。

範囲内に影獣が居なければ、それより遠くから呼び寄せることもない。

 ユアはアミュアが登り終わったのを確認し、自分も屋根に飛び上がりアミュアと背中合わせ。

少し狭いが戦い始めればユアは前に出る。

索敵のために上がったのだ。

「右手に反応2」

 魔法探知の結果を告げながら、カーニャは反応のあった自分の正面方向へ走り出す。

ユアもほぼ同時にカーニャの右手に飛び降りた。

アミュアは影獣に特効の光魔術詠唱を始め、金色に光りながらふわりと浮き上がる。

カーニャの体を金色の光魔法が覆う、得意の身体強化だ。

 並行して右手のエストックに魔力を通す。

かつて使っていたレイピアより重く刃はないが、その分刺突に限ってはこちらの方が威力が上がる。

カーニャの腕より少し長いそれに金色がまとわれていく。


 ユアが先に接敵する。

大きい。

かつて見た熊の獣に迫る大きさの4足獣。

馬車から見える位置だ。

細い木が連なっており邪魔になるので、腰のショートソードを抜いた。

クレイモアは防具背中の特殊な掛け金でつっている。

滑るように間合いを詰め、右から左のフェイント。

剣は影をすり抜けるが、切り抜けつつアミュアの射線を通した。

瞬間にユアを避けた極太の光線が四方から回り込み、収束し走り抜ける。

獣に4つの穴が開き、倒れ伏す。


 少し遅れてカーニャも接敵。

こちらは少し細いが、非常に早く利口な影獣だった。

ユアがアミュアの射線を出しつつ、カーニャ側に走り寄ってくる。

そちらを一瞥だけしてカーニャが突進。

こちらはユアと違って、魔力併用の突進。

宙を飛びながら獣へせまる。

影獣が無音でジャンプ、カーニャを超えようとする。

瞬間カーニャの剣先が跳ね上がり、獣の後ろ足を捉えた。

(あさいか…)

カーニャは少し悔しそう。

影獣が着地する寸前に、クレイモアに持ち替えたユアが上空から降ってくる。


ズン!

 渾身の力がこもった切り下ろしは、獣をすり抜けたように地面にめり込む。

刀身の半分以上が地面に入っている。

ペルクールの力をまとい輝く剣は獣を両断する。

ユアは剣を離し立ち上がる。

 当然のことのように左手を差し出し、獣の影を吸う。

カーニャももう見慣れた吸収である。

ユアの左手がちょっとだけ震えながら金色に包まれる。

今や触れることなくラウマの力を行使できた。


「くぅっ!」

背中側からアミュアの苦しそうな声。

カーニャは慌てず納刀しアミュアの方へ歩いていく。

「カーニャお願い」

ユアは短くカーニャにアミュアを託す。

自分はまだ儀式の途上だ、影は大分薄くなっていた。


(やっぱり声がでちゃう)

金色に光る左手を突き出しながら、アミュアが力を行使する。

左手を通り体の中心で痛みが溢れかえりアミュアの全身を震わす。

 あのスリックデンの奇跡以来、アミュアはラウマの力を使えるようになった。

ユアも最初はちょっと心配したが、アミュアの意思が固いと知り認めていた。

影を浄化し終わるころには、獣の中に魂がみえる。

すでに時間が経ちすぎたのか、人の形は保っていない。

しかし左手の力が、それを救えと言うのだ。

 アミュアは何とかすべてこなしたが、ふらっと倒れそうになる。

すっといつの間にか来ていたカーニャが支え、倒れることはなかった。

「お疲れ様アミュアちゃん、がんばったね」

にっこりするカーニャに笑顔を返したアミュアは、まだ苦しそうだった。

「ありがとうです」



 ここ2日で獣の襲撃は4度目、合計6匹目の影獣であった。

この戦闘と儀式の繰り返しは、間違いなくユアとアミュアを消耗させていくのだった。

カーニャは旅の行程と消耗の具合を、心の中で何度も検証しているのだった。

 山はどんどん険しくなり、道行には不安が見え隠れするのだった。

 サラサラと細い枝にわずかな葉を揺らし、冷たい風が過ぎていった。

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