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【第40話:そこには確かな成長】

 ルメリナ中心街のすみれ館。その食堂。

既に日は暮れ、気温も徐々に下がっている。

まだまだ冬の気配が残る初春の夜である。

 すみれ館にはシーズン通して宿泊客が多い。女性専用というこの街では珍しいコンセプトが人気なのだ。

少なくともここの所はハンターオフィス紹介の寮代わりにされているのもあり、安定的に客入りが確保されている。

 その一つしかない食堂には4脚の椅子が入ったテーブルセットが幾つかある。

今日は客が少なく、ユア達しかいない。

ミーナの提案で、テーブルを二つ使わせてもらい、それぞれ年長と年少組に分かれていた。

「アミュアは嫌いな食べ物ないの?」

「きゅうりがきらい」

ミーナとアミュアは日中の観光もあって、また距離を詰めていた。

4脚のテーブルに並んで座っていた。

椅子の距離も近い。

好き嫌い談議に花を咲かせつつ、楽し気に食事を進めていた。


「ほんとうに、元気になったみたいだねミーナ。あたしもうれしいな」

日中騒ぎすぎたのか、ちょっとだけしっとりのユア。

こちらは対面に座って目を合わせている。

「おかげさまだわ、二人には感謝してもしきれない…」

カーニャも静かに感謝をこめる。

ランプの揺れる灯が二人の腕の影をテーブルに描く。

ふとユアの手元を見ながらカーニャ。

「ユアも紅茶好きなのね?」

「…うん、最近好きになったよ」

ちょっとだけドキっとして答えが遅れるユア。

紅茶はカーニャの真似だとは、少し言いづらい。

急に髪を触りだすのは、ごまかしか。

「あの奇跡の力…もちろん口外してないけど。マルタスさんにも話してないのね?」

カーニャは断定し、確認の口調。

「うん…別に秘密にしなくちゃいけない理由もないだろうけどね。少なくともアミュアに目が集まるのはイヤだな」

眼をテーブルに落とすユアに、少し微笑みを深くしカーニャ。

「懸命だわ。前にも少し話したけど、あまり注目されるのっていい事だけじゃないから」

カーニャの言葉には経験の重みがあった。

ユアを見つめる瞳にも、少しだけまつ毛が影を落としていた。

 こうして静かな時間を持てることが、幸せなのだと4人はかみしめていた。

明日はカーニャの実家から迎えが来て、ミーナはスリックデンに帰るのだ。

カーニャは宣言通り、ユアとアミュアと3人でミルディス公国を目指す。

別れの夜でもあったのだが、ミーナにはかつての様な悲嘆はなかった。

アミュアとの間に揺らがぬ絆が、確かにあった。



 翌日の昼。

「ぱから!ぱから!ぱから!」

ユアが手綱?を振り、全力で進む馬車。

御者台のユアはノリノリである。

「ゆけーしるばー!世界の果てまで!あははははは!」

車体はあまり大きくはなく、赤いペイントのつやつや木造。

見た目より大分軽いのは、魔道複合材の成果だ。

 御者台?にすわるユアに、客室との間の窓を開けカーニャ。

「ユア…楽しいの判るけど、ほどほどにね。誰かとすれ違ったら恥ずかしいわ」

 こめかみに手を当てるカーニャであった。

カーニャの馬車には馬が繋がれていない。

そもそも馬を繋ぐように出来ていないのだ。

それは魔道モーター駆動の新型自走馬車。

曲線を描くなめらかなフォルムが人気の機種だ。

 ユアは手綱に見立てたただの紐を振っていた。

「すっごい楽しい~ありがとカーニャ!」

客車自体の構造は馬車の客車に見えなくもない。

乗り降りのドアは2枚で室内は狭く、詰めて座れば4人分のシートはあるが小さめだ。

一人が今のように前面外にあるシートに移ると二人と荷物で丁度よいスペースだった。

 車輪はこれも魔道複合材が使われ、衝撃吸収装置付きの客車は振動も少なく乗り心地抜群である。

こういった魔道化学の技術はスリックデンの得意分野で、国全体でみても先端を行っている。

カーニャの後ろでは荷物の間にはまり込み、毛布にくるまったアミュアが見える。

お昼寝中である。

「アミュアちゃん起きちゃうから、あんまりうるさくしないのね」

一言置いてカーニャは窓を閉めた。

 むふふといった顔で前を見据えるユアは、まだむずむずしている様だった。

ちなみに操縦は基本的に魔力制御である。

「でもた~のしー!」

手綱は降らなくなったが、手すりに捕まり前髪をゆらすユアはまだまだご機嫌で操縦するのであった。



 昼過ぎに一度エンカウント。

街道の外から飛んできた飛竜だ。

細かいうろこが濃い緑の光を反射するが、全体のイメージは黒い。

防御魔法を纏っているのか、少し緑の縁取りが光る。

飛竜は竜に似ている別の種類で、翼長で脅威度がCからBまで変わる。

竜との特徴的な違いは、前腕がなく翼になっていることだ。

 今日の獲物は中くらい、脅威度はC+であった。

「あれはカーニャいなくても何とかなると思う。任せてもらえる?」

ユアのセリフにはかつてにはない余裕がある。

ワイバーンとは何度か戦闘済みであった。

「もちろん。馬車だけみてるわね」

「いってきますです」

快く送り出してくれるカーニャに礼をいい、アミュアも戦闘準備。


 まもなく馬車に爪が届くかという手前で、アミュアの魔法が発動。

氷の槍がワイバーンの右翼を貫通していった。

オリジナルの強化版アイスジャベリンだ。

かつてより弾速が早い。

「ナイス!」

短く叫ぶユアは既にワイバーンの横で半回転していた。

アミュアの魔法に意識が向いた瞬間に螺旋に飛んだのだ。

うすい異能の赤を、ユアが全身にまとう。

身の丈の数倍ジャンプしていた。

 翼に意識が流れたワイバーンには、ユアを捉える事ができない。

最近新調したクレイモアがうなる。

ユアの身長に匹敵する長さの刃が、ワイバーンの首を抵抗なく抜ける。

うっすら刀身にまとうのは神なる雷。

金色の輝きは、注意しないと見逃すレベルに抑えてある。

切れ味は異常なまでで、固い防御魔法に守られているワイバーンをチーズのように切り裂く。

よく見ればワイバーンの切り口には粒子が滲んでいる。

切ったのではなく、滅ぼしたのだ。

 ユアの着地も見事に決まった。

街道をそれた場所で、かつ直近にワイバーンの死体は落下した。

その質量を地響きに変えて。


「おみごと」

カーニャに褒められて、にやにやのユアであった。

「出番すくなかったです」

ちょっとしょんぼりのアミュアには、にっこりカーニャのフォロー。

「完璧な場所に落としたね、アミュアちゃんの仕掛けタイミングもよかったよ。ブレス撃たせなかったのも凄い」

えへへとてれるアミュア。

(すごく自然に笑うようになったな、アミュアちゃん)

心の中でもにっこりのカーニャであった。

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