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【第36話:日々のおわりに】

キュイィィ!

 鋭い声をあげグリフォンが降りてくる。

あれはおそらくルインだな。

アミュアは降りてくるグリフォンの姿勢で、個体識別出来るようになっていた。

麓の町から度々食品などの物資を持ってきてくれるのだ。

真っ白な羽毛と薄茶色の毛がコントラストで美しい。

伏せたルインに近寄り喉を撫でるアミュア。

ルインも嬉しそうに目を閉じる。

 グリフォンからは二人の客が降りてきた。

先頭の騎手がゴーグルを降ろし顔をだす。

母親ゆずりの柔らかな栗色の髪と、大きな瞳。

年のころは16才前後か。

「ひさしぶりシャリアげんきでしたか?」

「もちろん元気です、お久しぶりですアミュアさん」

その後ろから懐かしい影が降りてくる。

「ひさしぶりですマインさん」

以前のように身軽さは感じられないが、落ち着いた足取りで静かに近づく。

「こんにちわアミュアちゃん、変わりないようね」

初めて会ってから、どれくらいの月日が流れたか。

マインはすっかり母の風格を宿していた。

祖母が亡くなってからは毎月のように来てくれるマインだ。

最近は娘のシャリアが来る方が多かったが、時々は来てくれる。

 母と話すアミュアをこっそりのぞき見ながら、荷下ろしをしているシャリア。

栗色の髪の間から大きな鳶色の瞳がのぞく。

(ほんとうに変わっていないなアミュアさん)

シャリアが初めて母に連れられ、ここを訪れたのは8年前だ。

その頃はシャリアの方がアミュアより背が低く、泣き出しておぶってもらったこともある。

(初めて会った時のままだ。お母さんが初めてあった頃から変わらないって言ってたけど…)

マインとアミュアの世間話しもそろそろ終わるようだ。

「シャリア終わったの?そろそろ帰りますよ」

マインが娘を呼び、アミュアは少しだけニコとシャリアを見た。

(すごいかわいいな、アミュアさん)

ちょっとだけ頬が熱くなるシャリアであった。




コンコンコン

 ソリスの寝室をノックするアミュア。

届いた荷物は片づけ終わり、マインとシャリアも帰っていった。

「アミュアか?はいっていいぞ」

ドアを開け、するりと中に入りソリスを探すアミュア。

「こちらだ」

 寝室の続き部屋にソリスの研究室がある。

ここの所ずっと、何か研究しているようだ。

アミュアは特に気にならなかったので聞いていなかった。

 研究机にはよくわからない道具も多く、ごちゃごちゃした印象であった。

部屋自体は良く片付いているので、アミュアが机まで行くのは特に苦労はしなかった。

「ししょう、このあいだくれた本のまほうは全部おぼえた」

最近はまた研究が忙しく、アミュアへの指導は滞りがちであった。

 しかし優秀なアミュアはついに、基本術式だけであろうとも最上級の各属性魔法に届いたのだ。

これはもう宮廷魔導師長や魔法師団師団長クラスの戦力だ。

保有魔力に技術が追いついたともいえる。

「ほほう」

厳しい顔で机に向かっていたソリスが振り向きアミュアを見る。

わかりにくいがその眼差しには確かな喜びがこもる。

「そうかそうか、ついに私の知る最上級の魔法も学び終わったか」

それは皆伝の慈しみ。

学び終えた弟子への祝福であった。

「よくぞ学び終えた。魔法の深淵に届いたなアミュア」

じっとアミュアを見るソリス。

アミュアはなんだか理解できていない風だ。

「意味が解らないか?アミュア」

こくりとうなづき、答えるアミュア。

「よく考えたら、別にまほうをおぼえたかったわけではない?」

一瞬だけ目を見張り、大笑するソリス。

「わっはっはっは!これは愉快だ!名もなき賢者の秘術に価値を感じないのだな!お前は」

「お前ではなくアミュアです」

即答で返すアミュアを見ながら、ソリスは笑いが止まらない。

「くっくっく。本当に変わらないようで、すっかり変わったなアミュア」

「かわったのししょうでは?」

その無表情の中に、明らかな照れ隠しがあり、ソリスはにっこりと笑うのだった。

「本当に興味深い」

 そんなほんわかした時間が突然引き裂かれる。

突然椅子を蹴倒し、ソリスが立ち上がる。

未だかつてアミュアが見たこともない厳しい顔。

建物の入り口方向をにらんだ瞬間詠唱に入り凄まじい魔力が噴き出す。

魔力に押し出され、アミュアが部屋の隅に転がっていく。

虹色に見える、4色ほどの混合した魔力が瞬く間に建物中に浸透しこれも虹色の結界を貼る。

結界完成直後に衝撃。


ゴッゴゴゴゴゴゴゴォ!

恐ろしい地鳴りとともに、家中が大きく揺れた。

窓の外を逆巻くマグマの滝、まるで噴火する活火山の火口のような炎の乱流。

黒い煙に覆われ、正しく地獄のような光景が広がっていた。

 あちこちにぶつかりながらも、なんとか玄関まできた二人は結界越しに外を見る。

よく晴れた空をバックに巨大なシルエットが浮いている。

大きすぎるのか、近すぎるのか、全体が視界に収まらない。

バッサバッサとはばたく蝙蝠のような羽、長大な尾はバランスを取り左右に振られている。

逞しい手足には悪意ある鋭い爪、真っ黒な大きな鱗。

長い首の先にある頭部は禍々しい肉食獣のような口の端から炎がいまだ漏れている。

何本ものねじ曲がった角と真紅の光を宿す狂眼。

漆黒の巨大な竜がそこに飛んでいたのだ。

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