【第25話:そうだ、東へ行こう】
先ほどの店員さんがトレーにカップを二つ持ってくる。
いつものサービスクッキーはちょっと大盛だ。
配膳されたホットココアとハーブティを受け取り、にこにこお礼を言ってそれぞれ一口。
最近はカーニャリスペクトか紅茶にこっているユアは、おねーさんぶって片手を添えて飲む。
カーニャの真似である。
残念ながらあふれるのは気品ではなく、微笑ましさだったが。
店員が離れてから封を切り手紙を読みだすユア。
アミュアも半円のシートをするする近づいて隣に来た。
「ふむふむ、あ…なんか難しい文字いっぱいだよ」
「もぅ、貸してください。わたしがよみます。ちゃんと本読みしてましたか?毎日」
ルメリナに来てから判明したユアの国語力の低さは、アミュアからの宿題として課題をもらうこととなっていた。実際には随分上達し、文章も読めるようになっていたが、本格的なカーニャの手紙はさすがにまだ無理だった。
アミュアに手紙を渡しながら、喉が詰まったような「うぐぅ」と声をもらすユアであった。
ふんふん言ってよくわからないユアを置き去りに、一旦最後まで読むことにしたアミュア。
自然と下がる視線とまつ毛の長さに、ちょっとドキっとするユア。
手紙よりも整ったそのアミュアの表情に見とれていた。
ーーーなんかずるいよな。どんな表情しててもかわいいなアミュア。美人は得だ
自分のひまわりアウトブレイクは棚に上げて羨むユアであった。
「どうやら、一度スリックデンの自宅に来てほしいそうです。妹さんのようだいが好ましくないそうです」
「え!大変だ。どうしちゃったのかな?心配だね」
取り作ろわないユアのまっすぐな答えと表情に、こうゆう所なのかなアウトブレイク?と思うアミュアは続ける。
「一度妹を紹介したいというのと、可能ならユアの奇跡にすがりたいと。多分神がかりのあの力ってことですかね?」
腕組みで考えだすユアが漏らす。
「…むしろ左手の力の方が役に立てそうだけど…ラウマ様のめぐみの領分だよねこれ」
「そうですね、カーニャさんに秘密にする理由まだありますか?」
いつものように鋭い問い。この手の質問をするアミュアは真剣な目でユアを見る。
とてもごまかすのが難しいのだ。
おそろしく透明な鏡を覗き込む気分。
「いや、特にはないよね」
うんうんと腕組みしているユアを見てアミュアは思う。
(まただ、ラウマ様の御力にからむといつも?)
ほんとうに些細な声色や表情の変化がアミュアには筒抜けであった。
一旦飲み終わったカップを置き、相談は続く。
「スリックデンは汽車があるので1日で移動できるきょりですね」
静かなアミュアの宣言。
「そうだね、ちょっと急ぐようだし今日の便で早速行こう」
本当はルメリナにいて、公都エルガドールを偵察に行っているアイギスの連絡を待ちたいのもある。
これはハンターオフィスに頼めば、スリックデンにも一日遅れ程度で転送してくれるだろう。
そこにはもう断る理由が残っていないと気づいたユアが、活発なその本領を発揮し即応を提案する。
スリックデンほどの都市ならば一日2便以上運航しているはずだ。
午後発の便ならば、明日の午前に着く。
「もんだいありません」
アミュアも賛意を示し、スリックデンへと急行することとなった。
出てきたばかりのハンターオフィスに逆戻りの二人。
おやっと言う雰囲気で職員のみなが見る。
それは否定的なものではなく、心配したり少し嬉しそうにしたりと、あたたかな視線であった。
「どうしました?さっきの手紙の件ですか?」
優秀な気配りを発揮する、先ほどの新人職員さんがカウンターで手招く。
迷わず進み顔を合わせるとユアが、スリックデンに急遽行くこと。
アイギスから連絡があったらそちらに転送してほしいこと。
しばらく依頼が受けられないことなどすらすらをお願いした。
「了解しました。そのようにお手配いたしますね。スリックデンのオフィスに常宿の申告をしたら、そちらにも連絡届きますよ」
スムーズに受け付けた上に、提案までもらえた。
「ありがとう!お土産買ってくるね!」
と、どこか旅行気分でいうユアの朗らかな声に、カウンターの周りに笑顔が咲いた。
スリックデン行きは一日2本あり、次の出発はわりとまもなくであった。
慌てて切符を求め、手荷物だけで乗り込む二人。装備等のかさばるものは後ろの貨物車に預けてきた。
「ふぅまにあったね!」
にっこり入口ステップの上から手を出すユア。
ちょっと引っ張ってもらい乗り込むアミュア。
「お弁当があんなに高いとは‥‥」
思ってた以上の価格にちょっと悲しそうなアミュアが、右手の袋に入ったランチボックスを見て言う。
お昼は先ほど駅内で食べてきたが、車内に食事のサービスもあるが外で買って持ち込んだ方が安いとハンターオフィスで教わっていた。
それでもなお街で食べる食事より割高なお弁当に眉を曇らせているのだ。
「きっとお値段以上においしいよ!列車の中で走りながらたべるんだよ!たのしそうだね」
指定の席を探しながらも会話は途切れない二人。
ユアの能天気な明るさに助けられ、いつのまにか自分のなかにもわくわくする気持ちがあることに気付いて微笑するアミュアが返す。
「あすのあさは列車の食堂で食べるので、それもたのしみです」
お弁当は夜の分だけで、あすの朝食は車内のサービスでと決めていた。
車両は夜半に一度停車し貨物列車に追い越されるそうで、乗客は気付かないかもと言われていた。
列車のシートは少し硬いが、これもハンターオフィスで勧められ厚手の毛布を一枚持ち込んでいた。
昼はいくつか折りたたみクッション代わりに、夜は包まって眠るのだ。
突然出かけると言ったのにアドバイスを皆がくれる。
あたしは本当に周りに恵まれているなと、感謝の心をもつユア。
それはきっとアミュアの瞳に自分を写し、ひるんだのと同じことなのだ。
ただユアの笑顔に皆の気持ちが優しくなる。
それだけの事だと、まだユアには判らないのだった。




