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【第24話:妖精とひまわり】

誤字と表記ミスを直しました。本筋まったく変わりません。お騒がせしました。

「ゆるさぬ」

静かに宣したアミュアの瞳に水色の輝きが十字に宿り、眉がきりりとあがる。

全身をおおう寒々しい白氷の魔力が、アミュアの軽い体を持ち上げていく。

半眼になった氷の表情で高速詠唱、早回しのように正確に紡いでいく。

腰まである長い銀髪が魔力に流され、ふわりと横まで広がっている。

ルメリナでは既に知れ渡った「白銀の妖精」の二つ名、面目躍如である。

頭上では一本のアイスジャベリンが通常よりも冷たく、高速で回転している。

槍の周りの空気にまで魔力の干渉がおよび、空気との摩擦による冷気の損出を抑えている。

アミュアの切り札の一つアイスジャベリン(改)である。

「ちょ、マジそれ無理!しんじゃいますって!!」

ルメリナのハンターオフィス裏手の訓練場だ。

魔法戦訓練用的の後ろに隠れるのは、いつもの先輩ハンター。

最初の試験でユアと模擬戦をした彼だ。

「ちょっとユアちゃんとめてとめてぇ!!」

的の後ろから上半身だけ左右に振り叫ぶ。あわせて尻が逆に動くのがコミカルだ。

アミュアのよこでクスクスしていたユアに、最後の望みとばかり嘆願。

その的に隠れるすがたが面白いのか、もう跪いてばんばん地面をたたいている。

このままでは、まもなく転げまわるであろう。

そこで見ていられなくなったマルタスが、建物の窓から顔を出しアミュアをとめる。

「アミュアそのへんにしといてやってくれ、それ撃たれると壁まで壊れそうだ」

練習用的は誤射の可能性を考え、ハンターオフィスの建物に向かって設置してある。

「的とその間のゴミは構わないが、オフィスは伝統の建物だぞ」

あっさりと先輩ハンターは見捨てられた。

おそらくいかに頑丈な的でもこのアミュアの全力魔法には耐えられず、その後ろの建物にも被害が及ぶであろう。もちろん的と壁の間にいる人間など生存の可能性もない。

命の危機を感じ取りさらに高速で左右に動く先輩ハンター。

「アミュアもうゆるしてあげて~ばんばん~面白すぎてあたしが死ねるw」

しゅううぅぅぅ

恐しい速度で回っていたアイスジャベリンがゆっくり霧散していく。

逆立っていたアミュアの銀髪も降りてきて、そのつま先が地面を捉えた。

銀ロッドをおろしたアミュアはぷっくり怒り顔。まだ細い眉はおりてこない。

やれやれみたいな表情でマルタスが言う。

「いったい何があったらこんな殺人現場になるんだ?」

やっと立ち上がったユアが説明していく。

「なんだか綺麗にアミュアのヘイト取っていったんだよね~先輩」


ことの発端はこうである。

①いつものチャラ先輩が、ユアをからかって「さいきん発育よくねえか~」やら「カーニャさんもすごかった」などと、女性の一部分をなんども強調して話した。

②ユアが「いやいや下着も高いから、あわなくなって大変なんだよ」や「走るとき重心が~」

などと、また女性の一部分にかかる問題点を提示。

③二人の視線がアミュアの特定部分にむいた辺りから雲行きがあやしくなり。

④「まだアミュアちゃんには早いおはなしでしたかねw」

などと先輩ハンターが煽った結果なにかが、ぶち切れる音がした。

結果があれである。

先輩ハンターにとって不幸だったのは、先日まさにその下着問題で深い傷をおっていたアミュアの心に気付けなかったことであった。


 ちなみにユアの二つ名は「ひまわりアウトブレイク」であった。





翌日ルメリナのハンターオフィス。その受付。

今日はマルタスが不在なので、対応に当たっていた新人所員さんに呼び止められるユア。

「あ、ユアさんお手紙きてますよ。スリックデンからですね」

何気に優秀なこの新人、そつなく業務をこなしながらも、同じ時期にオフィスに来た二人とは仲がいい。

アミュアと目を合わせてから振り向きユアが受け取りに戻る。

「スリックデンだとカーニャかな?」

受け取った手紙の裏書を確認するユア。

覗き込むようにアミュアも手元をみた。

「やっぱりカーニャだ。喫茶店いって読もう!」

にっこり笑うユアにつられてアミュアも微笑み。

「そうですね。近況ほうこくですかね?」

話しを途切れさせず出ていく二人を、無意識に笑顔で見送る所員達であった。

スイングドアの向こうはすっかり冷え込んだ冬空なのに、オフィスにはほんのり暖かい空気が流れていた。


オフィス横の喫茶店に入る二人。

ルメリナには多くのハンターがいて、女性のハンターも少なくはない。

しかしこのハンターオフィスの周りで、ユアとアミュアを知らないのはよっぽどの出不精くらいである。

行く先々になんだかほんわりした空気をふりまく二人を、嫌う人はなかなかいない。

「いらっしゃいませぇ!あ、ユアちゃんいらっしゃーい。アミュアちゃんもおひさ!」

大抵のお店では名前が知れている。

「こんちわあ!奥のボックスでもいいかな?ちょっとこっそりですよ!今日は」

最近上手になってきたウィンクを披露し、奥に勝手に入っていくユア。

横を通り抜けながら「こんにちわ」と頭を下げるアミュア。

ユアはアミュアの手を自然に引いていく。

「いいよいいよーまだ空いてるから。注文あったら言ってね」

と、すっかり店員とも仲良しである。

カウンターの渋い壮年マスターもにっこりが伝染していた。

この店は大通り沿いで周りにオフィスも多いので、利用客がいつも多い。

季節によっては外のオープンテラスまで満席ということさえあった。

今日はまだ午前早めの時間、客はまばらだ。

喫茶店にしては大きめの店舗は、手前にカウンター席と少人数用のテーブルセット。

奥には6人程度座れるボックスが幾つか並んでいる。

圧迫感少なくプランターなどで仕切られていた。

やさしい温度が店内に満ちていた。

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