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【第23話:雷神の継承】

《ペルクール》(Perkur)

名詞(固有名詞)

東方古代神話において雷霆を司る神。

「稲妻を裂く者」「裁く者」とも称され、戦場における加護を授けるとされる。

特定の血統に顕れる“雷の徴”は、この神の恩寵の証であり、強大な加護と戦闘能力をもたらすという。

古より、伝説的戦士の右手にその力が宿ったとされる。


ーーーーー


シルフェリアから戻る3人が、夜霧に騎乗し風より速く駆け抜ける。

本気の走りと違い、騎乗されている夜霧の歩幅は控えめだ。丁寧に走っているように見える。

これが本来の獣の走り方なら、どれほどの速度がでることか。

「あそこで休憩しよう」

行きには通らなかった川沿いの道で、少し広場になっている小さな滝をみつけアイギスが止めた。

徐々に速度を落とし停まると、ちょっとほっとしたアミュアがアイギスに抱き上げられ降ろされる。

ユアも降りてアイギスの降ろしていた荷物を探る。

そろそろお昼なので、食事の準備だ。

「ここいらには、白い『ピアシングヘェア』がでる。強敵だが、肉が旨い。」

初耳のアミュアはふむふむと頷く。ユアは村でよく狩に伴われた記憶がある。

「あ~あれおいしいよね!じゃあフリットにする準備しておくね、そこいらで野草も摘んでおくよ」

よだれをたらしそうな力の抜けた顔のユアが続けた。

「アミュアは一緒に来るか?」

狩に使う手投げの槍を準備しつつ、誘うアイギス。

アミュアが料理は手伝えないと知っていた。

「おともします」

両手を胸の前にしっかり握り意識表明のアミュア。

ちょっと楽しみなのかふわっと笑う。

「白いうさぎですか、かわいいんですねきっと」

あーといった顔で目を合わせたアイギスとユア。

そっと目をそらした。




「くすん…うさぎコワイ…」

案の定しょんぼりしてるアミュアをそっとなでなでするユア。

アイギスが抱え降ろしたウサギと言うには大きすぎる大型犬のような体躯。

すでに血抜きされ、首はなかった。

『ピアシングヘェア』それも白い上位種は特に大型で凶暴だ。

額の角は素材になるが、ねじ曲がった白い螺旋は悪意の塊だ。恐ろしいほどの速度で突進し、うっかり近づいた旅人を串刺しにする。赤い瞳には濃厚な殺意が宿るという。

ほほえましいアミュアに意図せず口元が緩むアイギスであった。


思ったよりも肉が獲れたので、食べきれない部分は夜霧にもおすそ分けして綺麗になくなった。

お腹いっぱいになり眠くなったアミュアは、横すわりのユアの膝枕でむにゃむにゃしていた。

焚火をはさみ反対側に座るアイギスの横には丸まった夜霧もいる。

アミュアを見てゆるんでいた表情を引き締め、ユアに告げる。

「ユアに話しておくことがもう一つある。」

真剣なアイギスの表情を見て、ユアも少し姿勢を正す。

「父上のことだ。」

少し寂しそうな瞳の色からアイギスの父への敬意を受け取り、ぐっとおなかに力が入る。

「ラドヴィス様は特殊な力をお持ちだった。」

アイギスの言葉には若干の東方異国のなまりがある。

こちらの言葉を発音するのは少し苦手なのだ。

「右手に宿る聖なる雷で邪悪を撃つ。影獣を退ける強い力だ。」

短い言葉の連なりだが、丁寧に伝えようとする誠意がうかがえて、ユアも真剣に辛抱強く聞いた。

もともとシルヴァ傭兵団は南西辺境のとある神殿にて発足された騎士団であった。

奇跡の力は発足前から団長の右手に宿っていて、その力をあてにした神殿のテコ入れであった。

新興のラドヴィスたちを面白くなく思い、追い出そうとする勢力も神殿には居た。

一時は穏便に去ろうと、シルヴァ傭兵団として独立した彼らだった。

だが一部神殿の敵対派閥が伝説の悪意ある影を招き入れ、ラドヴィスを打とうとした。

影獣たちの王は人の形をしていて、人語を解し悪魔の獣と恐れられていた。

長い戦いの果て王を討ち果たしたラドヴィスは、自らも致命傷を負った。

その命の最後にラドヴィスが愛おしそうに添えた手から、エルナのお腹に祝福のような光が移った。

その後のエルナには変化がなく、おそらくその力はユアに継承されたのではと、秘密を知るエルナとアイギスは考えていた。

すべて話し終えたアイギスがユアに問う。

「そういった力に覚えはないか?」

短く問うアイギスに真剣な目で答えるユア。

かつての村で戦った熊の獣を思い出していた。

「一度だけ…村に初めて行ったときにでた影の獣に使ったのだと思う。」

すこし自信がないのはすぐに気を失い、記憶が曖昧なため実感がないのだ。

カーニャからも説明は受けたので、今では自分の行ったことと認識している。

「雷かどうか判らないけど、すごい光が出たのは覚えている」

じっと見つめたアイギスが告げる。

「できるなら今後は簡単に使わないことだ。ラドヴィス様は命を削る技ともおっしゃっていた。」

 一度瞬きして続けるアイギス。

「使えば身を削る。だが――あの方は、己の命が尽きるまで戦った。」

 目を伏せると、わずかに眉が揺れるアイギス。

「数回で影響はないとは思うが慎重にな。神の御力はみだりに振りかざしていいものではない。」

 少しだけ力を抜いたユアは、そっとアミュアの髪をなでながら答える。

「アミュアが怪我をして、かっとなったあたしの右手から金色の力がでてきたの」

アミュアのおでこに降りてきている銀糸の人房を、やさしく耳にかけ、続ける。

「たぶん普通には使おうとしてもできないと思う。心配してくれてありがとうにいさん」

視線をもどしたユアは、かつて村で後ろをついて回った頃のようにアイギスを呼んだ。

ふと思い立って懐から封筒をだすユア。

大事そうに開いてアイギスに渡す。

「おかあさんからの手紙。村で起きたことを端的に書いてあった。」

受け取りゆっくり読み下すアイギス。

末尾の方の私信のような部分には触れず、内容を覚えこれも壊れ物を扱うかのように丁寧にユアに返す。

「ありがとうエルナ様ののこしてくれた情報、無駄にはしない。」

ふと思いついて、ユアに尋ねた。

「ユアは団の暗号を習っているか?」

はてなはてなのユアをみて、アイギス。

「いずれ機会があれば教えるが、その手紙にはいくつか暗号が織り込まれている。」

はっとするユア。

「名前と方位。おそらく街の名前だ。」

それ以上は語らないアイギスとユアの視線が鋭くなっていく。

「そこに敵がいるのね。どこなの?」

言葉少なに尋ねるユア。

「ミルディス公国の公都エルガドールだ」

しんっと空気が緊張を帯びる。

今日も晴れた秋空に静かに高い雲が流れていた。


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