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【第21話:すみれ館にて】

 朝の支度が一段落したころ。ユア達の宿にアイギスが訪問した。

「少しあちらでお待ちください!お呼びしてきます!」

 対応したのは、ルメリナハンターオフィス推奨の宿泊施設『すみれ館』の店員セリナだ。

薄い赤毛のボブ、妙齢の女性だ。ユアとアミュアとも気安い。

入口の右手にある食堂のオープンテラスを示し、店内に戻っていった。

女性専用を売りにするこの宿は、オープンテラス以外男子禁制である。

 アイギスの異国情緒漂う整った顔に興奮したのか、セリナの鼻息は荒かった。

見送ったアイギスは慣れた手つきでさっと、頭から紫の装飾バンドと黒いベールを外し、少し長めの黒髪をさらす。ゆるくウェーブした髪は眉毛を隠し襟足は肩に届いた。ゆっくり歩いてテラスに移った。

 テラスのガラス屋根を通す日差しは優しい。



ほんの僅かの時間で、バーンと玄関を開けユアが現れる。

「アイギスにいさん!」

久しぶりの知人の登場に、うっすら涙を浮かべたユアが顔をゆがめ駆け寄る。

立ったまま待っていたアイギスに勢いのまま抱き着く。

そのままアイギスの服を握りしめ嗚咽を漏らすユア。

優しく髪をなでおろしながら、言葉少なに労わるアイギス。

「事情は聞いている。辛かったなユア。」

そのちょっと不愛想だが優しい言葉が、アミュアに似てるなと思い微笑まで表情を戻すユア。

「うん、いっぱい泣いちゃったけど。もう平気だよ」

ユアはちょっと照れくさそうに、離れながら拳で涙を拭いた。

サラリと揺れたアイギスの亜麻布が少しユアの涙を吸ってくれたのか、ユアの涙は思っていたほど溢れなかった。

 ドアの前にはユアを追いかけてきて、ふんふんと訳知り顔で頷くセリナと、無表情に首をかしげるアミュアがいた。



セリナがお茶を持ってきて3人に配る。テラス席は男女に開放されていた。

まだ午前も早い時間。他に食事客はいなかった。

アイギスとユア、そしてアミュアはテラス席で話をしていた。

「こちらが村でもお世話になっていたアイギスにいさん」

黒いゆったりした東方の巡礼服を指しユアが紹介する。

「それで、この子がアミュア。わたしの大事な妹」

「妹ではないですがよろしくです」

すぐにアミュアに否定されるも気にしないユアが、アイギスにも紹介した。

「…仲が良いのだな。よろしくな。」

短く答え無表情のアイギス。

もちろんユアの母エルナとも、ユアとも長い付き合いのアイギスは、ユアに妹がいないことは知っていた。

同じくほぼ無表情のアミュアが、じっとアイギスと見つめ合う。

手早くクッキーも、サービスで持ってきてくれたセリナまでユアは紹介する。

「んでこのお姉さんが、いつもお世話をしてくれている宿の店員さん。セリナさんだよ!」

「ごゆっくりどうぞ!」

言葉少なに下がっていくセリナ。ちょっと顔まで赤くなってきている。

外で話し合うには少し寒い季節だが、今日は天気も良く風も弱かった。

「シルフェリアに行ったのか?ユア。」

 いたわりの視線で確認するアイギス。

「うん、アミュアともう一人応援のハンターの人と行った。調査依頼だったの」

 アミュアが静かにうなずく。

そのしっかりとした二人の表情から気持ちの整理を汲み取ったのか、目元を少し緩めてアイギスが告げる。

「俺も弔いにシルフェリアへ行こうと思っている。」

すっと雰囲気を引き締め続けた。

「お前もくるか?ユア。」

ちょっと考えてアミュアを見るユア。

「あたしは行きたいな。アミュアも来てくれる?」

「もちろんです」

 即答しうなずくアミュアに、ほっとした笑みを浮かべるユアだった。




 昨日今日とオフにする予定だったユアとアミュアは、時間がゆっくりあったのでお昼近くまで3人で話し込んだのだった。

 シルフェリアには明日立つこととなった。

 アミュアとアイギスは言葉少なかったが、その分ユアは元気いっぱい話していた。

お互いの近況を伝えあい、マルタスと話した内容も少し確認した。

 ユア達はラウマの力については伏せ、アイギスもまたマルタスと話した一部は伏せたが、十分に意思は通じた。

「アイギスさんはどこにいってたの?」

唐突にアミュアが問う。

「南西部辺境だ。団の安全保障のため単独遠征していた。」

ちらりとユアをみて視線を戻す。

「残念ながら無駄になったがな。」

 アイギスは辺りを自然に見て、人気がないのを確認した。

「二人とも影の獣を知っているな。マルタスに聞いた」

 アミュアとユアはさっと互いを見る。

 黙って心配そうに見るアミュアの頭に、ぽんと手を載せユアが答えた。

「かつて2度出会い2度撃退したよ」

 アイギスを見返した瞳に宿るのは戦士の視線。

 その力強さに満足したのか、静かにアイギスがささやく。

「俺が追っていたのも獣の足跡だ。」

 思わぬところで繋がった話に二人はまた目を合わせる。




「明日迎えに来る」と短く伝えアイギスが去った後、引き続きテラスを占領していた二人は続きを話していた。

「アイギスさんもあたしよりずっと強いから、安心してアミュア」

 うなずき問い返すアミュア。

「ユアの左手の力は話さないの?」

 思いがけない問いに固まるユア。

「村で使ったってカーニャさんに聞いた右手の力は?」

 いつも核心をつくアミュアの質問に、ユアはちょっと考えうつむいた。

「…アイギスにいさんは、あたしが小さい頃から面倒見てくれた人なの」

 ほんの少し考えたユアが答えたのは、別の事であった。

 話しが続くと思っているアミュアはじっと待っていた。

「ゆっくり考えてみたい。きっと難しい問題だ」

 うつむいままのユアをじっと見つめアミュアは黙っているのだった。

(いつもと違う。何が違うかはまだわからないけど)

(これも尋ねることではない、気づかなければ)

 アミュアはそっと心にメモをするのだった。

 もう過たないぞと。

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