【第19話:ハンターオフィス会議】
ここから3章となります。
緊急調査依頼から戻った3人を、念の為と会議室へいざなうマルタス。機密に触れることも想定したのだ。昨日夕方に戻った3人に、疲れているだろうからと一度宿に行かせたのだ。
ハンターオフィス2階にある会議室。20人程度入れる作りだろうか?
中央に大きな長机、固そうなこげ茶の年代物だ。
両脇に8組16席。奥に今は2席。詰めれば3席行けるだろうか。
椅子もシンプルだが美しいカーブを取り入れた、艷やかな名品である。上ってきた太陽が秋晴れの陽光を浅く差し込む。チラチラとホコリが光る。
今はまばらに3人が座り、奥の2席は空だがその後ろで背を向けているのはマルタスだ。
何時もの地味なハンターオフィスの制服を、いつものように気崩している。
「そうか・・・・ご苦労だったな」
一通りの報告をカーニャがし、一部ユアとアミュアが補足した。
すっと振り返ったマルタスが続ける。少し沈んだ表情は成果の無さに嘆いたのか。
「まずは、しばらく休んでいるといい。追加で聞きたいことが出る可能性もあるから、カーニャも2~3日はいてくれるか?」
うなづくカーニャ。
「いい宿も紹介してもらいましたから、かまいませんわ」
ユアが続ける。
「本当にいい宿だよ!おいしいし!」
「それでは宿を食べてしまいますよユア、言葉が足りません」
すんっとしてアミュアが続けた。
おや?といった眼差しをマルタスはアミュアに向けるが、特にコメントはしなかった。
少し眼を細めて微笑が浮かんでいた。
「ところで、なんでタイミングよく獣は現れたんだ?大騒ぎして入村したわけじゃなかろう?」
正面の椅子の一つに座りながら、マルタスの疑問。
「あぁ…」
思い当たるアミュア。ちょっとあせり顔。
代わりにカーニャが答える。
「アミュアの探索魔法に反応した可能性も、確かにあるわね」
顎に拳を当てながら続ける。アミュアが俯く。
「ただ、わたくしもそれなりに魔法は使いますが、十分に隠蔽された術でしたわよ」
口調はハンターカーニャのものだが、少しだけ労りのスパイスが効いている。
肩頬だけにっと上げてマルタスが受ける。
「なるほど…まぁ色々あったんだろうな。火も剣も効かない魔物…一応可能であれば熊型獣?の詳細も報告書でもらえるか?」
色々の部分を少し強調してマルタスが閉める。
うなずくカーニャを確認し労う。
「3人共良くやってくれた、一旦解散だ。ゆっくり休めよ」
速やかに報告は終わり、会議室を去る3人であった。
ハンターオフィスそばの喫茶店。オープンテラスの席に座る3人。
ユアがお腹がすいたと誘い、入ったのだ。
「さっきの話。オフィス側が良いとなったら、本当に帰っちゃうの?カーニャ」
トマトのパスタを恐るべき速度で平らげたユアが尋ねた。少し寂しそうだ。
「妹にも会いたいし、スリックデンのハンターオフィスにも報告しなきゃなのよ」
3人だけになると、自然な会話が出来るカーニャであった。
カーニャは食事は無しで、花の香りの紅茶だけ飲んでいた。
「さみしくなります」
アミュアは言葉少なく返すが、表情がかなり雄弁になってきた。
カーニャは目元だけ笑いながら、アミュアに視線を送る。
ティーカップから口を離し、ユアに聞き返す。
赤い口紅が茶器に残った。
「二人は今後もルメリナで活動するの?もし東部にも来るなら声かけてね。」
すっと取り出したハンカチでティーカップを拭くカーニャ。
紅茶は飲み終わったようだ。
静かに目を伏せ続けた。
「スリックデンのオフィスに伝言してくれたらいいわ。協会の伝言便でもいいし」
ある程度の街間ではハンターオフィス同士で定期便があった。
手紙や荷物をやり取りしている。
少しだけ考えてユアはアミュアに問う。
「アミュアはどうしたい?行きたい所あるかな?」
「行き先はユアがきめていいよ」
無表情に答えるアミュア。
端から見たら素っ気なく見えるだろうが、ユアには伝わっていた。この顔は何か恥ずかしい時の誤魔化しなのだと。
「そうだね、もうしばらくはここで頑張ろう。貯金もしたいしね。ラウマ様の所にもゆっくり行ってみよう」
「そうです、貯金はだいじです」
また素っ気ない言葉が出るが、今度は表情を隠せてない。うれしそうだ。
これはカーニャにもわかってしまい、小さなほほ笑みを生ませたのだ。
にっこり笑顔のユアとほほ笑みカーニャの目が合う。
静かにクスクスと笑い合うが、「貯金貯金」とつぶやくアミュアには気付かれなかった。
随分とゆっくりになった日の出だが、流石に何時までも寝坊とは行かないようで、ゆっくりと東の空を赤くして行く。
ルメリナには貨物と客車用別々に駅がある。それぞれの線路は郊外で交じり、駅間の大部分を共有している。夜間が貨物の時間だ。
東方スリックデン行きの客車は、割と早い出発だった。
線路が3本入っているホーム一番奥、緩やかに蒸気を洩らし佇んでいる。
魔導蒸気車と呼ばれる赤茶色の木の列車は、3両の客車を牽いている。
朝一番の東部行きということもあってか、それなりの客でにぎわっている。
その綺麗に並んだドアの一つ。
大きな荷物は預けて、手荷物だけになったカーニャがいた。
武装もしていない、シックな深い紅色の洋装。
大きなフリルのついた帽子も決まっている。
「わざわざありがとう、朝早いのに」
見送る二人はアミュアとユア。
ユアは少し眠そうだ。
「うまく言えないけど…またお願いしますカーニャ。色々ありがとう」
ペコリと頭を下げるアミュア。
白い薄手のコートに水色のフードマントだ。
微笑み頷いた後に、そっとユアを見る。
「あたしからも、ありがとう。妹さん早く良くなるといいね!」
気遣いもできるようになったユアである。
おねーさんスキルはまだまだ強化可能なのだ。
すぅっと綺麗な笑顔になり、何度かうなづいたカーニャ。
その年相応の笑顔は、いつもより魅力が高かった。
「ありがとうユア。またね!」
最後は少し元気よくあいさつし、タラップを上がるカーニャ。
ユアとアミュアは軽く手を振った。
走り出した汽車は少しづつ速度を上げ、ルメリナを離れる。
コトンコトンと定期的に振動する音が、徐々に間隔を短くする。
窓の外に向けたカーニャの視線はひどく優しかった。
フィィっと短く汽笛がなり、列車は草原の果てをめざした。




