【第18話:月夜の誓い】
ルメリナへ戻る3人の足取りは軽い。
消費した飲み物・食べ物の分荷物が軽いのもあるが、やはり気持ちが変わったのだろう。
昨日あたりでアミュア全快と判定したユアの判断もあるかもしれない。
旅にでてから日を追うごとに空気は冷え込んでいくが、3人のこころは仄かに暖かくなっていた。
「けん、けん、っぱ!!」
お昼の休憩をはさんで、小休止。ユアが率先して遊びを提供する。
地面に木の枝で書いた丸を、上手に踏み分けていくアミュア。
いまだ感情の薄い顔だが、息遣いが生き生きしている。
「うん!うまいうまい!アミュア」
仲良く遊ぶ二人を横で見て、お茶を飲むカーニャのほほも緩む。
季節柄弱まったとはいえ、天気のいいお昼の日差しに少し眼も細めた。
(アミュアの傷もしっかり癒えたようね)
静かにお茶を飲みながら、少し安心している自分に違和感を感じる。
(妹以外にこんな感情もったことなかったな)
すっとまつ毛がおりてきて、カーニャの微笑みを完成させるのであった。
前を歩く二人を見ながら、ふとユアは思う。
(アミュア、随分カーニャにもなついたな)
自然と笑みが浮かぶ。
初めて手を握った頃はやけに冷たく感じた顔つきも、今では照れ隠しを含んでいると知っている。
(あたしはきっと恵まれている。いい出会いをたくさんもらっている)
つまづいてちょっと態勢を崩したアミュアを、さりげなくカーニャが手を添え支える。
その”さりげなさ”が本当に凄いと、ユアは思う。
眼を放さないのではなく、気配りができているのだなと。
「ねーねー!カーニャっていくつなの?とし」
ふと思い立ってユアは訊ねる。
はあ?と言った顔でカーニャ。
「本当にいまさらね」
ため息とともに答える。
「18よ、妹のミーナはちなみに12才よ!お淑やかで可憐なんだから!」
妹自慢も忘れない。
ふむふむなになにと、3人の会話は途切れることがなかった。
村をでて2泊。3日目の夕方に遂に旅を終えた3人はルメリナに至ったのだった。
少し悲しくて、とても楽しい旅だったなとユアは笑顔で考えていた。
ハンターオフィスに報告後定宿に戻った。
「ごめんね、うちもそんなに部屋無いから助けてほしい。ね?」
いつもの宿である。ユアとアミュアに頼み込むお姉さんは、明るい赤毛の店員だ。
「しかたないね、他にも客が来ちゃったんじゃハンターオフィスで3部屋ももらえないよね」
カーニャにもこの宿を勧めたのだが、満室と断られたのだ。
答えつつアミュアをみるユア。
「別にテントでも一緒だったし、二人で一部屋でいいよね?アミュア」
「かまいません、ベットも一つしかないですか?」
最後は店員さんへと質問のアミュア。
「そうなの、アミュアちゃんとユアちゃんの部屋は一番大きいベッドの部屋にするから、それで許して~お値段据え置き、いえ宿泊費は少しサービスするわよ?二人で」
と、上手くまとめに来るやり手のお姉さんだった。
「せつやくです!ユアこれからはずっと1部屋でいいですね」
節約になると、やる気のみなぎるアミュアであった。
部屋に入り荷物を開いている二人。何時ものように会話は途切れることを知らない。
「まぁカーニャもここに泊まるから、あまり宿に迷惑かけれないよね」
とユアは唇をちょっと尖らせた。
「そうですね、ここは食事も雰囲気もいいですから、できれば今後もすみたいです」
「うんうん、おいしーよね~ここの食事」
終始朗らかに一日が終わるのだった。
その日の深夜。
すっとベッドから降りたユアが、アミュアの寝顔を確認した。
すやすやと落ち着いている寝息に、自然と笑みが浮かぶユア。
(よく寝ている)
部屋に付属のテーブルセットに近付き、窓の外を見た。
最上階の角部屋なので、折角の見晴らしをとカーテンは閉めていなかった。
綺麗な満月が窓越しに見える。
夜目の効くユアには、十分な光量だ。
ほとんど音をたてずに椅子に座った。
(おかあさん、あたしどうしたらいいんだろう)
十分に気持ちを整理できたユアは自然と母を思い出せるようになっていた。
まださらりとした喪失感はあるが、涙は流さなくなっていた。
(右手の力。獣の意味。左手の力…)
「ぅん…」
小さく声を出しながらアミュアが寝返りを打つ。
沈みかけた表情は自然とほほえみを浮かべる。
(今はアミュアのために生きて行きたいと素直に思える)
窓を透かして入る月光は、優しく二人の間の影を払う。
薄緑のその光が、あの地下道のヒカリゴケに似ていて、ふっとおかしくなったユア。
立ち上がりながらつぶやいた。
「わたしの大切なアミュア、あなたがもう少しだけ大きくなるまで」
左手を見つめながら続ける。
「この力はあたしがもっているね」
最後は静かな決意をにじませるユアであった。
ラウマは やさしくて、ひろい心をもっていたので、
たくさんの ひとの かなしい気もちを うけとめつづけ
ていました。 けれど——
ラウマは、じぶんのなかにたまった かなしい気もちを、
じぶんでは なくすことが できませんでした。
それでもラウマは、ずっと だれにも 何も いわず、
たいせつな だれかが すくわれるのならと、がんばっ
ていたのです。




