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【第17話:ラウマの手】

誤字修正です、お騒がせしました。

 村をでて翌日の夕方。

往路で払っていたので、枝や草が邪魔をしない。

それほど辛い復路ではなかった。

ユアがアミュアを気にするので、トータルでは来た時ほどペースは上がっていない。

特に大きな戦闘もなく、魔物が出てもカーニャかユアが瞬殺しつつ進んだ。

 日が傾く前に、目的地に着く。

 ラウマ像の泉だ。

すこし柔らかくなった日差しが葉を透かし、きらきらと降り注いでいる。

ゆるく吹き渡る風は、順番に葉を揺らし届く。

泉が近いせいか、ひんやりとした湿った空気だ。

 先頭で進んで来たカーニャが、泉前の小さな広場で荷物を降ろす。

「今日はここまでね。キャンプの準備をしてしまいましょう」

昨夜来カーニャの口調は柔らかい。すっかり仮面は成りを潜めていた。

 その横に同じように荷物を降ろしたユア。

アミュアのバックも半分担いでいるので、大荷物だ。

「なんだか、ついこないだ通ったはずなのに。随分立った気がする。」

しんみりユアが告げた。

「そうですね、いつも泊まるばっかりなので、今度ゆっくりしにきたいです」

 ユアと少し距離をつめたアミュアの口調も、少し大人びてきていた。

「……よかったら。キャンプは私のを使わない?見張り立てるだろうし、二人ならこれ一つで済むと思う。」

言い出すカーニャの頬が少し赤い。

来たときはちょっとツンツンしていたことを思い出しているのか微笑ましい。

「助かるな!結構出すのも仕舞うのも、面倒なんだよねこれ」

「さんせいです」

自分たちのキャンプをつつきながらユア。

顔のよこに掌をたてたアミュアも賛意を示した。

「じゃあ手分けしてやってしまおう!」

元気に右手を上げたユアに賛同して二人も答える。

「おー」

「おっけー!」

カーニャの片目をつぶった綺麗なウィンク付きOKサインは、ひどく魅力的だなとユアはこっそり思った。




 夜半。少し夜ご飯で騒いだアミュアとカーニャは、すぐ横の赤い縁どり付きキャンプで寝ている。

規則的な寝息が静かなデュオのように囁いていた。

ちらりとそちらを確認してから、ユアは音もなく立ち上がる。

辺りの気配も確認してから、ちょっと離れた所にある白い祠へ向かった。




数段の階段を越え、ラウマ像の前に来たユア。

じっと像を見つめてから話しかける。


「ラウマ様そこにいるんですか?」

しばらく身じろぎもせず待つ。

像は月明りを受け、白く輝いて見えた。


「いないよね?」

もう一度声をかけて、待つ。

ユアはラウマの差し出された手を見る。右手だ。


(あの右手からでたすごい攻撃…あれはラウマ様の力なのかな?)

じっと見ながら考え込むユア。

ふいっと反対のラウマの手に視線が移る。


(左手のあの力は間違いなくラウマ様の力だ)

すっと表情を消し、ラウマの左手に自分の右手を重ねてみる。

特に何も起きずに、ただ石の冷たさが伝わってきた。

ユアはそのまま目を閉じ祈った。

かつて絵本で読んだラウマの民達のように。

どうかラウマ様が元気になりますようにと。



 それほど時間は立っていないだろうが、ふいにユアの顔がゆがむ。

すこし辛いことを思い出したようだ。

涙はこぼさないが、少し手が震えていた。

目を閉じたラウマの優し気なほほえみが、亡き母の面影を思い起こしたのだ。


ーーーラウマ様はすごいがまんづよいんだね!

過去の己の声に微笑む母の面影。

最近は不思議と母の声を思い出さないが、自身の声を聴く母をよく思い出す。


ーーークスン…どうしてあたしにはおとうさんがいないの?

そうしてわがままを言うと、決まってすこし困ったような微笑みを浮かべる。


ーーーおねーさんだって悲しかったら泣きたいよ!

ユアが泣くと決まって、抱きしめながら優しく言うのだ。


「おねーさんは泣かないんだよ…」

今この瞬間に、その呪文は呪いでも義務でもなくなった。

あれほど苦労した気持ちの吐露が、静かに吐き出せるようになっていた。


すっと涙が流れた。苦しい涙ではない。

ただ悲しさを洗い流す、澄んだ涙だった。

少しだけ嗚咽が漏れるが、声を上げるほどではなかった。

今や両手でラウマの手にすがるユアは膝を落とす。

そうすると胸の前に差し出すラウマの手は、少し遠くなる。

ちょっと姿勢がつらく立ち上がったユアが、はっと気づいた。

(そうか…ラウマ様の手が高い位置にあるのは、膝をつかずに顔を上げろと言ってくれているんだ)

 ほんの少しだけ、優しさと励ましがある高さなんだと。

一人で納得してにっこり笑った。

(ラウマさまやっぱりやさしいな!)

そう思ったユアの目は、まだ赤かったが、もうあふれ出す悲しみはそこにはなかった。




ほぅほぅと夜泣き鳥の声が染み渡る。

月はただただ白い光を地上に降ろしていた。

迷わないでね、と。


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