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【第15話:右手の意味】

挿絵を追加しました。(そして修正してまた更新しましたゴメンナサイ)





 巨大な影が立ち上がった瞬間、カーニャが叫ぶ。

「ユア!ヘイト右回り!」

 獣の注意を引くようユアに指示。叫びながらくるりと身軽に櫓の屋根に上がる。さらに視点が上がったカーニャは獣の頭部を見下ろしながら、最初から全開の魔力を練る。アミュアの全力よりも高く浮きあがり、吹き出す魔力は真紅の炎でカーニャを包む。

「了解!」

 短く答えて影の右側、カーニャと逆に飛ぶ。ユアの体には薄く身体強化の異能が纏う。

アミュアも遅れて詠唱に入る。以前効果のあった光魔法だ。

 ゆらりと影獣がユアに近付く、大きすぎてゆっくりに見えるがかなりの速度。

ユアは櫓と地面の途中で、あてにしていた門柱を蹴る。

ほとんど音がしないのはバネと技術を感じさせる。

くの字に曲がり影を交わしながらカーニャと反対側に着地。


 ゴゥゴゥゴゥゴゥ・・・

カーニャの周りの真紅は今や輝きで体をすべて隠すほど。半眼で小さく口の中で詠唱するカーニャ。

呪文詠唱には、段や章がある。強大な魔法ほど組立は複雑で、より長い時間が必要となる。

呪文の合間に区切りを入れられる瞬間も何回か来る。そこで意思疎通を図り連携するのだ。

 長い長い詠唱の果て、カーニャの魔法が発動する。

「ユア避けなさい!」

 ユアの身体能力は、ここまでの旅で把握していた。

この魔法は見せたことがないが、集まっている魔力量から規模を読み解けるはず。

獣の周りで右へ左へかけつつ、何度も銃撃するユア。

 パン!パン!

 二発ずつ打つのは傭兵流。

 パン!パン!

 急所にあたる確率を上げつつ、銃の反動をコントロールしやすい。

意識して獣との距離を置くのは、さすがのユアでもサイズ差からくるリーチに脅威を感じているのだ。

 カーニャの声と同時にくるりと、先に見つけておいた巨木を回る。カーニャの射線だけでなく、完成間近のアミュアの光線も射線確保。


 チュン・・ゴオオオオゥ!!

 カーニャの伸ばした右手から赤い光線が走る。火属性の中では早い弾速の魔法『カルテットフレイム』細い光線は3本の螺旋が絡み合っている。着弾と同時に天高く黄色の極太螺旋円柱が立ち上がる。大木を挟んだユアにまで熱波が届く。地上に小さな太陽が生まれる。

 直後にアミュアの光線、音は高くないが光量がすごい。カーニャの太陽の光を圧して突き抜ける。

獣にアミュアが通り抜けられそうな穴が開き、ユアの近くの地面を沸騰させる。

魔法戦では高さが地味に重要だ。射線が取りやすいのだ高いほど。

また、味方を範囲に入れない調整もし安い。

 ドンッ!!

 炎柱が収まる直前に、獣の後ろにカーニャが着地。右手には囂々と魔力を纏うレイピア。体ごと貫通して降り立った。

 二つの大穴を開けられ、高熱にあぶられた影獣。足元の地面はマグマのように沸き立っている。

大地竜や地巨獣でもここまでで倒せそうだ。

ユアは油断せずカーニャと獣の間に擦り入る。地面が慣らされていないのに、頭の高さが変わらないのはさすがの技量。目線は一度も獣から切らない。

 「さすがに行けたかな?」

 フラフラになり矢狭間の間から覗くアミュア。

 その瞬間大熊の右手が翻る。アミュアのいた櫓が頭の部分だけ吹き飛ぶ。

飛び去る破片の中にアミュアを認め、全開の身体強化でユアが飛ぶ。

何時もの比ではない速度。真っ赤な流星のようにアミュアに向かう。

奥の通路にたたきつけられる寸前にユアが追いついてアミュアを包むように抱きしめる。

 ガラガラガラガラ!

土砂崩れのような轟音をあげ、櫓の破片ともどもたたきつけられる。

(まったく動きが衰えてない)

 あせりを滲ませ、穴の開いた前衛を埋めに行くカーニャ。

体にも金色が纏い身体強化も併用している。

「無事ぃ?!」

二人に叫びつつ、獣の前でくるりと斜めに回る。剣先が3倍ほどに伸び輝く。

金色の断線で右前足の先を裁たれた獣だが、リーチの損失以外に戦力の低下は見られない。

(痛みを感じていない!)

ついに表情を苦しくするカーニャ。

(まずい…それほど続けられないこんなペース)

 大熊の左手が斜めに落ちてくる。

カーニャ渾身のバックステップ。わずかに届かず剣で受けるが、その威力は高くカーニャは村の中まで飛ばされ、着地も乱れた。

 片膝をつくカーニャの横に、すっと人影が立った。

ユアだった。

「ユア、無事だった!?」

 どこか安心したように微笑みかけるカーニャ。

前衛が戻れば、自分は全力の一撃に魔力を絞れる――そう思った。

 だが。

「……」

 すっと、ユアは無言で一歩前に出る。

 そのわずかな動きでも滴るほど血まみれだ。

 獣への視線には、燃えるような怒り。

 次の瞬間、咆哮があがった。

「よくも……アミュを傷付けたな!!」

 大気が震えるほどの怒声だった。ユアの茶髪が逆立つ。

 カーニャが思わず振り返る。

 そこには――

 血に染まり、崩れかけた櫓の瓦礫の中に横たわるアミュアの姿があった。


 ユアの右手には短剣。いつもの直剣だ、だが。今その右手には短剣を基部にユアの身長ほどの金色の光。カーニャのそれと似ているが、ジンジンと響いてくる神性が違う。荒ぶる大滝に顔を背けたくなるような圧力を伴っている。

(ま、まだこれ程を隠していたのユア?!)

カーニャはアミュアを試し、助けながら目を剥いた。


ドドドン!

村の入り口たる門をバラバラに吹き飛ばし、獣の巨影が突きこんでくる。揺るがないその進路が、恐るべき重さを示している。

すれ違わず、真正面から立ち向かうユア。

(正面はまずい!!)

カーニャのこころの声はとどかず、影とユアの光がぶつかり合う。

パンッ!!!

一瞬理解できない光景。逆立つ天使の梯子、金色の光が天に昇っていった。

「そ…そんな…」

カーニャの唇から思わず声が漏れた。


 まだ赤赤と燃えている地面と舞い散る黒い粒子を背に、こちらを向いたシルエット。

爛々と、影の中で両目が紅く輝いている。

 荒ぶる神。

その後ろには先ほどまであったはずの質量がない。

一瞬で消滅したのだ。チリチリと上昇気流に吹き散らされ獣は消えていった。


パチパチと飛び火してはぜる生木の音だけが、時間を表していた。

ユアが右手の奇跡を初めて使った日だった。



挿絵(By みてみん)

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