【第14話:ある日森の中】
ユアの弔いが終わり、一通りの調査を終えたのは午後も遅くなった頃。
まだ日はあるが、移動するには心もとない。日没まで少しゆったりした時間が流れていた。
風もなく雲も少ないのどかな午後であった。
「ほらアミュアきっと似合うよこれ!」
先ほど弔いにも使った白い花で、なかなか立派な花冠を作るユア。
アミュアの頬も少し赤らみ興奮を隠せない。
「すごいですユア、どうしてそんなの作れるの?」
アミュアのフードをずらし、花冠を載せるユア。ピッタリサイズであった。
「大丈夫、簡単なんだよ教えてあげる」
少し離れていつものティーセットを出し座っているのはカーニャ。
今日は比較的被害のない、ユアの実家に泊まることになっている。
キャンプの準備もないので、少し手持無沙汰であった。
小さな革表紙の手帳に、書き物をしている。調査依頼の報告書準備である。
時々ちらちらユア達を見ているのは、念のための警戒だ。
羨ましい訳ではなかった。おそらく羨ましい訳ではなかった。
すっかり満足し、花だらけのアミュアがユアと戻ってくる。
アミュアは頭・腕・首・指と豪奢な姿である。ユアの頭にも細い花飾り。
特にアミュアは、白と水色の服装や銀髪にとてもよく似合っている。
「ずいぶん賑やかになりましたわね、アミュアちゃん」
珍しくにこにこ顔のアミュアが、5本の指にはまった花の指輪付掌をくるくるして見ながら答える。
「とても満足です!」
言葉は少ないが表情としぐさが雄弁であった。余程気に入ったのか鼻息も荒い。
追いついてきたユアもカーニャの近くまでくる。
「どう、カーニャ?愛らしいでしょ?うちのアミュアは」
ぱっと視線をアミュアからそらし、慌ててカーニャ。
「べべ別に羨ましくなんてなくってよ!私にも実家に帰ればかわいいミーナって妹もいますし!」
「ほうほう、聞き捨てならんな?アミュアよりかわいいとでも?」
キャンキャンと妹談議に花を?咲かせる二人の横で、うっとり両腕の花腕輪をみているアミュアであった。
そんな和気あいあいの雰囲気の中、突然ユアとカーニャが立ち上がる。
遠くで様々な鳥たちが一斉に飛び立ったのだ。
一瞬で戦闘モードに入るユア。いつ抜いたのか短剣を右手にゆるりと持っている。
カーニャも立ち上がり腰のレイピアに手を添えている。
アミュアだけきょとんとしてるのが対照的。
「東南側、それなりの距離」
戦闘モードのユアは言葉少ない。
「あなたたちはここで待機。日没までに万が一私が戻らなければ、強行してルメリナに戻りなさい!」
カーニャも最低限の指示だけ出し外に向かおうとする。
「待って!迎え撃った方が有利。日没までまだ時間ある」
素早くカーニャの前にでたユアが真剣な顔で提案する。
ユアの後ろでは外した花飾りシリーズを、大事そうに片づけるアミュアがいた。
たしかに、この村の防御は高性能だ。櫓一つでも3人で立てこもれる。
「…わかったわ。あの門の近くの櫓を使いましょう」
一瞬だけ考えてから、出口に一番近い櫓を指さす。
入口の門を挟むように両側に建物の2階程度の塔だ。
時間を置かずユアの提案通りに櫓に陣取る3人。
向かって右にユアとアミュア。左にはカーニャが隠れた。
短剣の代わりに、普段あまり使わない小型の魔道拳銃を持つユア。
魔石を加工して弾丸を作り、成形された指先ほどのボルト(鏃)を飛ばす。6連発である。
アミュアはいつもの銀ロッドだ。
「ユア、へんです。イヤな気配です。魔力は感じないのに…」
アミュアの顔色は少し悪い。
「うん。まずはこちらは、気配をできるだけ抑える。アミュアもまだ魔力出さないでね」
気配のある方だけ見て、ユアが眉を吊り上げ答える。
「この嫌な気配、覚えてる。黒い獣だ」
ユアはきりっと歯を食いしばる。何かを堪える顔だ。
かつての強敵の名が出て、アミュアはさらに緊張を高める。
ユアがさっと一瞬だけ反対側の櫓を見ると、矢狭間のあいだから外を覗いているカーニャも確認できた。
すうっと音もなく横の森から、小道に黒い獣が出てくる。
かなり大きい。かつてユア達が対峙した相手の倍はある。
熊のようなシルエット。輪郭は黒い炎で縁取られている。
ここまで近づくとユアにも解った。ざわざわとする異質な空気が距離を詰めてくる。
動く音も声もなく、まるで幽霊のようにするする近づいてくる。
既にこちらを認識しているのか、視線はユア達の櫓を向いている。
あと少しで銃や魔法の間合い。計ったようにピタと獣がとまる。
経験上、銃や剣は牽制にもならないとユアは解っているが、手ぶらで対峙する気にはなれなかった。
右手の銃はまだ向けられていない。
動きのなかった獣がすうっと後ろ足で立ち上がる。
大きい。丸太の塀を超える高さにまで頭がくる。
ほの暗い赤い光が両目に溢れている。
虫や鳥の声も無く。静かな時間が流れた。
午後の日差しは少しづつ影を延ばしていく。




