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【第12話:そこにとどいたとき】

一通り、カーニャは調査を終えた。

初めは3人で固まって一当りしたが、特に脅威はないと判断し、手分けすることとなった。

建物内をユアとカーニャが、外回りをアミュアが調査している。

(おかしい。いくら何でも作りがしっかりしている。)

例えば村の中心通路に沿った建物の作りがおかしい。

わざわざ互い違いに配置し、隠れやすく攻めにくい。

櫓の防御も、監視より迎撃を意識した作りだ。

(何と戦おうとしていた……?ん、あれは?!)

カーニャは本当に優秀で、訓練されたハンターだ。

単独行動時は、驚いても声を出さない。

その視線が村の中央にある、大きめの建物の中で止まる。

旗が貼ってある。青地に銀の刺繍でエンブレム。

(この紋章。ユアの短剣についていたのと同じ…思い出した。シルヴァ傭兵団!?気高き銀と呼ばれた…伝説の…)

近付き目を眇めて見る。小さな刺繍がある。

< Silva Mercenary  >

(なるほど…ユアが強いわけだ。元世界最強と言われ、消えた傭兵団)

カーニャはユアがいるだろう方向をにらみつけた。



ユアは自宅に戻っていた。

最初に来て、一度避けて他を回った。

最後にもう一度躊躇してから入ったのだ。

足音を出さないよう歩く。常に指導されていたことだ。

ーーー体幹を意識するのよ

優しい母の声が心に残っていた。

ーーー靴裏をすらないように

そんな何でもない普段のやり取りすら、ユアの心に刺さる。

ちいさな傷。

柔らかそうなソファー。

見るものすべてに、気持ちや言葉が残っている。

そして、家族しか知らないはずの秘密の扉の前に来た。

あの日、ユアを逃がした通路でもある。

(ちゃんとタンスが載せてある。おかあさん最後に閉めたんだここ)

腰高のタンスは衣服などが入っているはず。

小さくともそれなりの重量だ。

ユアは軽々と持ち上げ動かす。

これくらいなら身体強化は要らない。

タンスの置いてあった床に少し色の違う板が何枚かある。

木目のわずかな違い、隠し扉。

ユアはまた無表情のまま躊躇っていた。

(見なくては…いけない)

ユアの顔色はどんどんひどくなる、この先で最後に母を見たのだ。

扉が閉められていたのだから、ここに既にいるはずはない。

理性では解っているのだ。

パタパタと順番に板を外す。

ほんの小さな隙間だが、するりと降りたユア。

それなりに天井は高く屈まずにいられる。

降りながら、目を閉じていた。

そこに何があるのか、見たくなかったのだ。

少しの間のあと目を開き、顔を上げて左右をすっと見る。

もちろんそこには誰もいなかった。

最初から解っていた事だった。





アミュアはゆっくりとロッドを片手に回廊を回る。

革ブーツの踵が、ポクポク鳴る。

村の中の通路にはところどころ屋根がある。

(まるで木でできたお城みたい)

素朴な飾りのない作りだが、機能美のようなすっきりとした美しさがある。

建物の間を注意深く、見て回る。

大分時間をかけたが、元の入り口まで戻っていた。

(外には本当に何もない。ところどころ争った形跡だけ)

少しだけ立ち止まって考えていたアミュアは、だんだん不安になってユアの顔が見たくなった。

「ユア?どこにいるの?」

ちいさく呟き、また同じ道を回り始めた。

幾つかの建物を素通りし、ふと思い出す。

(そうだ、探索の魔法がある。魔力いんぺいしたやつなら…)

目を閉じロッドを額に当てる。

(よく知っている魔力ならすぐ見つけられる。)

ロッドが白銀の魔力を少し帯び、波紋のように村に広がった。




最後の建物を見ていたカーニャが、ぱっと振り向く。

(アミュアちゃんかしら?気のせい?一瞬だけ魔力を感じた。)

目を閉じ集中する。

カーニャも火炎系の魔法に適性があり、学んだのでそれなりに魔力に詳しい。

(あちらね…いったい何があったのか?緊急ではなさそうだけど)




魔法まで使い、ついにユアの家にたどり着いたアミュア。

外された板の隙間からひょこりと覗き込む。

長い銀髪がさかさまになって流れ落ちている。

板のはじを持ちするっと落ちた。

とんっときれいに着地。

両手を広げてバランスをとっていた。

「ユア…いますか?」

少し抑えながらもしっかり呼びかける。

右手に気配がした。

「アミュアです、そちらですか?ユア?」

今度は普通に呼びかけ歩いていく。

暗い地下通路は視界を妨げるが、ところどころヒカリゴケがあり真っ暗ではなかった。

奥の方まであと数歩でたどり着けそうなところに、魔石の明かりが見える。

魔道具であろう。

アミュアは慎重に歩いていく。

通路の高さは十分にあり、幅は狭いが圧迫感は少ない。

角を曲がるとユアの背中が見えた。

「ユアよかった、さがしたよ?」

アミュアは安心から、少し微笑み話しかけた。

「……」

ユアの返事は、ない。

それだけで、アミュアはハッと思い至った。

(なぜ気づけなかった…わたし)


 …そんなの初めてだった。

  わたしが呼んでユアが答えなかったことなど

  いちどもない。

  あの笑顔のおくにずっとかくれていた影。

  この村は故郷だと昨日やっと言った。

  お姉さんぶるときほど気持ちをごまかしていた。

  財布をみるとどこかさみしそうな気配があった。

  ほんとうにたくさん見てきた。

  なのに気づけなかった。


立ち尽くしているユア。


立ち尽くしているアミュア。

(…ユア、手がふるえている。)


それは恐ろしいほどの力で握りこまれ、爪が皮膚を破り数滴の雫となって落ちていた。


ーーーおねーさんは泣かないのよ!

かつてのユアのセリフが、アミュアの耳の奥に残っていた。


 アミュアの視線が下がる。

痛ましくてとても見ていられなかった。

アミュアの胸が締め付けられ、抑えきれない涙がすっと流れ出す。

「ユア…」

 いつものように優しくユアの左手にふれるアミュア。

拒むように握りしめられたユアの拳。

(だめだ…足りない……とどかない)

 手だけではユアに届かない。

アミュアは気付いた。想いは、手だけでは伝えることが出来ない時があると。

 どうすればいいか考える前に体が動いた。

涙をながしたままゆっくりユアの前にまわるアミュア、手はユアの左手に添えたままだ。

少し背が足りなかったが、思い切ってユアの首を引き付け自分の胸に押さえつけた。

「ユア…泣いていいんだよ…わたしがここにいるから」

 アミュアに引かれ、自然と膝をついたユアも、ついに堪え切れず涙があふれる。

まだ声は殺したまま、拳も開けない。

震えるユアを必死にかかえこむアミュア。

(まだ…まだ足りない)

 ユアはいつもよりずっと体温が高く、その熱さえもがアミュアの胸を締め付ける。

両腕に出来うる限りの力を込め、ユアの頭を胸に押し付ける。

「もういいんだよ…ユア…我慢しなくていいんだよ」

震える声で腕の中のユアに、必死に伝えようとするアミュア。

「う……う…うあぁわぁぁああぁあ!」

 ついに、いや。やっと己が感情を絞り出すユア。

あの日祠でアミュアにあってから、ずっと抑え込まれてきた悲しみ。

無垢な言葉に元気をもらうと共に、隠されていた痛み。

アミュアの細い腰にしがみつき、ようやく子供のように泣きじゃくる。

ささやくように耳元に言葉を届けるアミュア。

「わたしがずっといるから」

 ユアの泣き声だけが、陰々と悲しく流れる湿った通路。

しかし、アミュアはなぜか少し微笑むことができて力を抜いた。

やさしくユアの髪をなでながら、抱擁は解くことがなかった。

(やっと声にしてくれた)

(やっととどいた)

アミュアの心の声も、やっと力を抜けたのであった。


その日、互いの涙を初めてみたのだった。

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