勇者(仮)使者を待つ
「おい、お前ら忘れもんねぇか? 予備の着替えとか持ったか?」
リビングは今、足の踏み場もない。ソファや床には、俺、正晴、栞、ののかちゃんとあきとの五人分の荷物が散乱している。
今回の目的地は「王都」。この物語の大きな山場になるはずの旅だ。テンプレ的に、絶対に王女が俺を好きになるはずだ。ということで、俺が王女に好かれるために、リーダーとして全員に指示を出し、ちゃんとした格好をさせることでいい印象を植え付ける。
「よし、準備万端だな。あとは10時半に来る王都からの使者を待つだけだ」
「栞ー、今何時?」
「えーと、10時20分」
「おし、あと少しだな……」
ピンポーン
リビング中にチャイムが鳴り響いた。
「お、来たか! ちょっと早いが、王都からの使者なら当たり前か」
俺は「王都からのエリート使者」を想像しながら、期待に胸を膨らませて玄関のドアを勢いよく開けた。だが、そこに立っていたのは……。
「……え? 誰?」
そこにいたのは、使者でも騎士でもなく、パンパンに膨らんだリュックを背負った見知らぬ少年だった。リュックの隙間からはポテチの袋やら遊び道具やらがはみ出している。完全に「遊びに来た小学生」だ。
「えーっと……おじさん、あきといる?」
(え? お、お、おじ、おじさん? どういう事だ? 俺は27歳だぞ。それに勇者だからか歳を取らないし、全盛期の体だからもっと若く見えるはずなのに、お、お、おじさん?)
俺が呆然としていると、奥からあきとたちがひょっこりと顔を出した。
「あれ? シュンちゃん、どうしたの?」
あきとの能天気な声に、シュンと呼ばれた少年が不満げに口を尖らせる。
「どうしたのじゃないよ! この前学校で『今度の月曜日、俺の家に来いよ』ってあきとが言ったから来たんじゃん」
「そ、そうだっけ?」
「そうだよ!」
俺はあきとの方へ首を向ける。
「……おい、あきと……くん?」
「あ、あはは……。あれ? そんな約束したっけ……?」
「今日から王都に行くって、随分前から知ってたよな?」
「う、うん……」
「楽しみにしてたよな? 予定入れるなって、俺、言ったよな?」
俺は静かに怒る。ひとまずシュンちゃんには事情を話して、(あきとが持っていくはずだったお菓子を全部持たせて)家に帰ってもらった。
みんなでリビングに戻り、俺はあきとに説教をする。
「お前なぁ! 俺は他人の子を家に呼んでいいなんて、一言も言ってねぇぞ!!」
「ごめん! まさか約束してたとは……」
「……ったく。さあ、気を取り出して出発の前の確認だが、お前ら誰も呼んでないだろうな?」
全員の顔を見ると、みんな首を振った。
「あきと! お前は首を振るなよ!」
俺は首を振っているあきとの頭を掴んで動かないようにした。その時だった。
ピンポーン
「今度こそ王都からの使者か?」
と言って玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは……。
「よう朝日! 正月は飲み足りなかったからな、続きやろうぜ」
一升瓶を掲げ、凶悪な笑みを浮かべた後藤さんだった。酒くせーな!!
一瞬、思考が止まった。後藤さんが入って来ようとしたので、俺の右腕が反射的に動いた。
バァァァン!!
全力でドアを閉め、鍵をかける。
「あ゙あぁぁぁあ!!鼻が!!!」
と外から後藤さんの悲鳴が聞こえた。
「な、何があったの?」
と栞が来た。
「ん? あ、いや、大丈夫。何も無かった、何も聞こえなかった」
「え? いや、悲鳴が」
「何も無かった、何も聞こえなかった」
俺は栞に無言の圧力をかける。
その時、ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンと鳴り続ける。
「お、おい! 朝日! なんかめっちゃ鳴ってるんだけど!」
「あ、朝日さん大丈夫なんですか? これ」
と、あきとののかちゃんがリビングから出て来た。
「あぁ、大丈夫大丈夫。すぐ収まるから」
と言って、4分程経ってやっとインターホンが止まった。最初の1分ぐらいはずっと鳴り続けていたが、だんだん遅くなっていき、3分ぐらいして静かになったと思ったら、また2回ぐらい鳴った。さすがにもう諦めて帰れよ……。
俺は玄関に行ってドアを開けて叫んだ。
「うるさいな! さっさとかえ……れ……え?」
「え?」
そこに立っていたのは、眼鏡をかけた女性だった。
「「え?」」




