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勇者(仮)の俺の話  作者: モヒチャン


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勇者(仮)学校に戻って来た話

「魔力制御装置、停止確認!」

放送室から松本先生の声が響き、学校中を覆っていた不気味な圧迫感が霧散した。

体育館では、先生たちが残党を縛り上げ、ようやく安堵の溜息をつこうとしていた。その時だ。

体育館の中央、誰もいないはずの床に禍々しい魔法陣が展開された。

「なっ、なんだ!?」

先生たちが身構える中、まばゆい光とともに熱風が吹き荒れる。光の中から現れたのは、ボロボロの服を纏った朝日だった。

「朝日くん!」

先生たちが駆け寄る。朝日の全身からは青白い雷の火花がパチパチと漏れ出し、周囲の空気は異世界の荒野のような乾いた熱を帯びていた。

朝日は愛刀を持ったまま、気絶していた。

ーーーーーーーーーー

目が覚めた時、視界に入ってきたのは天井だった。

(……どこだ?ここ?)

起き上がろうとしたが、上手く動かない。完璧に動けない訳ではないので少し頑張って体を起こす。流石にこの反動はきついな。「雷身一体」で無理やり魔力を流し込んだ代償だ。全身の筋肉が悲鳴を上げ、神経が焼け付くような鈍い痛みが残っている。これぐらい少しすれば再生能力で治る。

少し、横に重みを感じてふと横を見ると、あきとが寝ていた。

スースーと規則正しい寝息を立てている。可愛い奴だな。

「……ふぅ、疲れた」

俺はそう呟き、再び枕に深く頭を沈めた。

ーーーーー

ガラッ、とドアが開いた音で再び起きる。入ってきたのは、元冒険者の先生だった。

「気がつきましたか、朝日さん」

「先生……学校は、どうなりました?」

先生は椅子を引き寄せ、短く状況を教えてくれた。

朝日が消えた後、先生達率いる「戦闘班」が元冒険者の経験を頼りに残党を次々と制圧したこと。そして松本先生の「解除班」が間一髪で魔力制御装置を止めたこと。

「あなたが敵をたくさん倒してくれたおかげで、犠牲者が出なかった。感謝するよ」

「いやいや。そんな……」

俺が、魔王の二十本指の一人、コーラルを倒したことを伝えると、先生の表情は一瞬で険しくなった。

「……二十本指を、たった一人でか? 朝日さん、それは単なる手柄じゃ済まないと思いますよ。二十本指を討ったとなれば、いずれどこかの国家機関が君を呼び出すことになるでしょう。そんなすぐの話ではないと思うので大丈夫だと思いますが……」

先生の言葉に、俺は自分のしでかした事の大きさを改めて実感した。

「おっと、私はそろそろ。どうやらお客様がいらっしゃる感じなので」

「え?お客様?」

ガラガラとドアが空き、

「よ!朝日!」

「正晴。お前か」

「なんだよ、俺じゃ悪いか?」

「いや別に……」

「帰るぞ」

「あぁ、起こしてくれないか?今あんまり体が動かないんだ」

「仕方ないな」

そう言い俺をベットから起こし、立たせてくれた。俺がふらふらだったから、肩を貸してくれた。

あきとを起こし、保健室を出ようとした時、

「さようなら、家に帰ったらゆっくりしなさい。あきとくんははしゃぎすぎてトラブルを起こさないこと。いい?学校が閉鎖中、ちゃんといい子にしてなさいよ」

「はーい」

とあきとが満面の笑みで答えた。

「ほら、帰るぞ」

俺達は家に帰るのだった。

メリークリスマス!

十二月二十五日の夕暮れ。 俺(朝日)は、近所のスーパーへと向かっていた。


「……腹減ったな。今日こそは豪華にチキンでも食って最高のクリスマスを過ごしてやる!」


俺の頭の中は、黄金色に輝くローストチキンでいっぱいだ。ブラック企業に就いて、クリスマスを祝えなくなって。転生してからも修行とかであまり楽しめなかったが、今回こそ最高のクリスマスにするつもりだ。


だが、俺は忘れていた。当日のクリスマスのスーパーの状況を。


スーパーの中に入り、惣菜コーナーに向かった。そして俺は、絶句した。


「……は?」


そこにあったのは、空っぽの陳列棚だった。 わずかに残っているのは、バラバラに散らばったパセリの欠片と、チキンの油が虚しく付着した銀色のトレーだけ。


「マジかよ……」


信じられない思いで時計を見る。十八時を少し過ぎている。 しかし、店内を見渡せば、買い物カゴに山盛りのチキンやシャンパンを入れた戦勝者たちがレジへと列をなしている。


朝日はふらふらと精肉コーナーへも足を運んだ。せめて焼肉でもしようと思ったのだ。 だが、しかしそこもまた「完売御礼」の札が虚しく並んでいる。俺と同じことを考えてる奴がいたか……


「チキン……唐揚げですら残ってねぇのかよ……」


クリスマス当日、しかも夕飯どき。 スーパーという戦場は、無慈悲だった。


「終わった……」


朝日はガックリと項垂れた。 雷速の動きをもってしても、主婦たちの「先読み」と「決断力」には勝てなかったのだ。


結局、何も買わず帰る。

「家にある物食うか」

外に出ると、街はイルミネーションでキラキラと輝き、どこからか楽しげなクリスマスソングが聞こえてくる。通り過ぎる人々は皆、大きなチキンの箱を抱えて幸せそうに笑っている。


「今年も……チキン食えないのか……俺……」


寒空の下、朝日はトボトボと家路につく。


「不老不死」の再生能力を持っていても、スーパーの在庫までは回復できない。

項垂れる朝日の背中は、冬の夜風に吹かれて、昨日よりも少しだけ小さく見えるのだった。


みなさんはこういう事がないように!メリークリスマス!

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