勇者(仮)が居なくなった学校内の話
体育館に響いていた激しい衝突の音と、ネズミ野郎の嘲笑が、一瞬で消えた。朝日と、彼を連れ去った魔王幹部の姿は、壇上からもフロアからも完全に消え去っていた。
「……消えた」
元冒険者の先生は、その静寂の中でまず安堵の息を漏らした。だが、すぐに頭を切り替える。今は戦いの幕間、最も重要な行動を起こすべき瞬間だ。
「皆さん、動ける方はいますか!今です!」
先生はまず、関節を外し、縄を解き元冒険者の親たちと教員たちの縄を解いていく。縛られていた手足が自由になった大人たちの目には、戦意が宿っていた。
「松本先生!校長先生が持っていた鍵を持っていますね!あなたは解除班を率いてください!」
「承知しました!」
松本先生はすぐに頷き、機材に詳しい教員と足の速い生徒数人を集めた。
「人質の保護は私とあと三人の先生で引き受けます。それ以外の元冒険者だった方、私の戦闘班に!」
元冒険者の親や教員は、迷わず先生の周りに集まった。彼らは魔力こそ使えないが、その目つきは、長年培った戦闘経験を物語っている。
「目標は校舎内に残った十数人の敵の制圧です。そして**『不殺』**を貫きます。朝日のように、四肢や関節を狙い、確実に無力化する。武器はこれだ」
先生は床に散らばった木刀と、朝日が敵を縛るのに使った縄を手に取った。
「戦闘班は索敵を開始!解除班は放送室へ急いでください!私たちは、君たちが装置を止めてくれることを信じて、ここで時間を稼ぐ!」
先生の言葉に、戦闘班は力強く頷いた。体育館には見張り役の先生が三人と、隅で身を隠す生徒や親たちが残り、戦闘班と解除班は木刀や縄を手に、静かに体育館のドアから校舎へと散っていった。




