勇者(仮)転移魔法で飛ばされる
俺は気づくと、土の匂いがする場所に立っていた。周りを見渡せば、どこまでも続く荒涼とした荒野だ。わずかに木々や草木が生えているだけで、先ほどまでいた体育館の床とはあまりにも違う。
「……ここは、どこだ?」
そして何よりも、体の中を巡る感覚が違った。重く、淀んでいた感覚がない。学校の魔力封印装置の影響圏外に出たのだ。
(使える……!いつものように魔力が使える!)
俺の全身に、失われていた……いや、抑え込まれていた力が満ちている。魔力がない状態でも体術を磨いておいて良かったと、心の底から思った。
目の前には、俺を連れ去ったネズミ野郎が、壇上と同じように余裕の笑みを浮かべて立っていた。
「やぁ、朝日くん」
「てめぇ、何が目的だ!なんのつもりで学校なんか占拠したんだ!」
「目的?さあね。いずれわかるさ。ただ、今の僕は君の全力と戦いたい。それだけだよ」
ネズミ野郎は肩をすくめた後、ニヤリと口角を上げた。
「もう一度名乗っておこう。僕はコーラル。魔王の二十本指の一人だ。まあ、君と戦うのは、もののついでだがね」
「魔王の……幹部だと!?」
「驚いた?」
俺は刀を抜き、魔力を集中させた。刀身に青白い雷光が走る。
「うるせぇ!お前が何者だろうと関係ねぇ!お前をぶっ飛ばして、帰る!」
「できるのならね」
ネズミ野郎は静かに頷き、その手を前に出した。ブワッと皮膚から毛が生えてきて、手が黒く硬い獣のに変化する。
ゴオオオッ!
俺は雷を纏った刀を正眼に構え、ネズミ野郎と真正面から衝突した。
キンッ!ガギンッ!
激しい金属音が響き、俺の刀と獣の爪が火花を散らす。ネズミ野郎は爪で俺の攻撃を防ぎながら、もう一本の獣の爪で側面から切り裂こうとしてきた。
(くそっ!手が二本あるから、攻撃と防御を同時にやってきやがる!)
俺は左足を後ろに動かし、体をしゃがませながら回り、爪の攻撃をかわしながら、雷を纏った刀でを斜め下から斜め上にかけて刀を振る。
「水蓮!」
俺はネズミ野郎を切った――かのように見えた。
「ん?」
手応えがない。俺が驚いた瞬間、背中に強烈な一撃が叩き込まれた。
「グハッ!」
俺は吹き飛ばされ、荒野の地面を転がる。痛みが全身を襲う。
「ふふ、残念だったね。残像だよ」
「マジかよ……」
ノーモーションだった。なにか裏があるな。おそらく、俺の雷の魔力を応用した**雷泳**のようなものだと考えられる。
そうなると、スピード勝負になるな。
俺はすぐに立ち上がり、全身に雷を纏わせた。
「残像なんか俺だって作れるわ!舐めんな!」




