勇者(仮)の朝出来事
朝――。
鳥のさえずりと共に、俺は気持ちよく目を覚ました。
正晴(自称・神)が廊下で腹を掻きながら豪快ないびきをかいている……が、それは見なかったことにしておこう。
階段を下りて、まずは朝刊を取りに玄関へ。
「うわっ、まぶしっ……!」
ドアを開けた瞬間、元気すぎる朝日が目に飛び込んでくる。
朝刊を手に取り、リビングへ戻る。
「おっ、誰もいない。俺が一番乗りか。みんなのんびりしてんな」
時計を見ると、まだ6時ちょっと前。まぁ、早すぎたか。
とりあえず椅子に座って新聞でも――と思った、その時。
「うわっ!?」
ズデンッ、と見事に尻もち。
「いてて……」
起き上がって椅子を見ると、あきと(ののかの弟)がニヤニヤしながら椅子を抱えていた。
「やーい、引っかかった〜!」
「あきと! こら! 今日こそ許さんぞ!」
朝っぱらからあきとと鬼ごっこ。毎回俺の方が先にバテる。ガキの体力、無尽蔵すぎん?
「はあ、はあ、はあ……」
「ぷぷ、もうバテてやんのー」
「うるせぇ! ガキは元気でいいな!」
「俺はガキじゃない!」
「はいはい、ガキガキ」
「このっ! ガキじゃないって言ってるだろ!」
「次は俺が追いかける番か!」
俺とあきとは走り疲れて、床に寝転がる。
「まったく、お前のせいで疲れたじゃねーか」
「ふん、疲れる方が悪い」
「おいおい……」
階段から栞が降りてきた。
「朝からバタバタうるさいわね……。そんなに騒いでたら近所迷惑になるわよ」
「へいへい」
「はーい」
「はぁ……本当にわかってるんだか」
「皆さん、おはようございます〜……」
ののかちゃんも階段から降りてきた。
「お姉ちゃん、おはよ!」
「あんたほんと早起きね……」
「栞〜、朝飯〜」
「はいはい、わかりました」
栞がキッチンへ向かい、俺とののかちゃんたちはリビングのテーブルに座った。
「お姉ちゃん、はいこれ」
「なにこれ?」
「学校のプリント」
「なになに……」
ののかちゃんの顔がどんどん青ざめていく。
「どうしたの? ののかちゃん?」
俺が首をかしげると、ののかちゃんはプリントを俺に差し出した。
「なになに……授業参観のお知らせ。10月27日(月)に授業参観を行います……」
「…………」
「…………今日じゃん」
「あきと、これいつ渡されたの?」
「えーとね……二週間前」
「えーーーーっ!? もぉー最悪! 私いまクリーニングに出してて、部屋着ぐらいしか持ってないのよ!」
「部屋着で行けばいいじゃん」
「そういう問題じゃない!」
ののかちゃんが頭を抱えて考え込む。
そしてハッとした顔でこっちを見てきた。
「朝日さん! 私の代わりに授業参観に出てください!」
「え? 別に行かなくていいんじゃない?」
「いえ、その……あきとを監視してほしいんです。前の授業参観で、授業中に周りの子と暴れ出して、先生に注意されて……私、すっごい恥ずかしかったんだから!」
「なるほどね……」
俺があきとの方を見ると、あきとはものすごい勢いで首を横に振っていた。
「いいよ。どうせ今日ヒマだったし。ちゃんとあきとを監視しとくよ」
「すみません、ありがとうございます!」
「いいってことよ」
授業参観の話をしていたら、栞が朝ごはんを運んできた。
「ほらほら、冷める前に食べて……」
「ん?」
「なに?」
「いや、別に……」
テーブルに並んだのは、牛乳、ヨーグルト、りんご一切れ、そして――まだ焼いていない食パン。
……冷めるもの、ひとつもないな。不思議だ……なにを見て“冷める前に”って言ったんだか。
「じゃあ、手を合わせて」
パンッ。
「「「「いっただきまーす!」」」」
その十分後――
ようやく起きてきた正晴が、ひとりぼっちの朝食を楽しんだそうな。




