勇者(仮)の小遣い稼ぎ
ギルドの掲示板の前で、俺と栞は並んで依頼書を眺めていた。
「うーん……魔物討伐、盗賊退治、薬草採取……どれも重そうだな」
「もうちょっと軽いのないの? せっかく街が落ち着いたんだし」
俺がぼやくと、栞が掲示板の隅に貼られた一枚の紙を指差した。
「これとか。『町の外にある村で、畑を荒らす動物を退治してほしい』。……報酬は、まあ……安いけど」
「おっ、それだそれ。動物退治なら良さそうだな」
「小遣い稼ぎ程度で依頼受けよっか」
そんな軽口を交わしながら、俺たちはその依頼を受けることにした。
村に着くと、あたりはのどかな雰囲気だった。
畑の向こうで作業していた老夫婦が俺たちに気づき、手を止めて駆け寄ってくる。
「おお、冒険者さんかい。いやぁ助かるよ。最近、夜になると畑の作物が根こそぎやられちまってねぇ」
「動物って言ってましたけど、見たんですか? あと、目星とかあります?」
「いや、見たことはないんだ。けど……朝になると、地面が小さな足跡だらけで……あれはどうも、ネズミの足跡にしか見えないね」
俺たちは案内されて現場を見せてもらう。
確かに畑の端には大量の小さな足跡。そして、噛み千切られた作物。
「ネズミ……ちょっと量多くない?」
栞がしゃがみ込み、土をすくって観察する。
「ネズミにしては群れすぎよね。普通こんなに大量発生しないわ」
「でも、実際いるんだし……」
「まあ、そうね」
日が沈み、夜の結界が村を包む。畑の周りにはたいまつが並べられ、ゆらゆらと炎が揺れていた。
俺と栞、正晴、ののかちゃん、そしてののかちゃんの弟・あきとの五人は、畑の端に身を潜めていた。
「……静かだな〜」
「もう帰って寝てるとか?」
「ネズミが寝るかよ」
「ほんとに来るんですか?」
「おねぇちゃん暇〜〜」
「ガキは帰って寝てろ」
「やだ、だって家誰もいないもん」
そんなやりとりをしていると、地面がカサカサと音を立て始めた。
「みんな、静かに」
暗闇の中、畑の隙間から無数の目が光る。
「来た……! ネズミだ!」
俺はネズミの方に手を向ける。
「風魔法〈風波〉!」
手から吹き荒れる風が数匹のネズミを吹き飛ばす。雷魔法は使えない。作物を焦がしたら大問題だ。炎も同じく封印。つまり、広範囲攻撃が使えない。
だが――それでも数が多すぎる。
「多っ……! これ、何匹いるんだよ!」
「これを相手にするのは大変よ……!」
正晴はというと怯えて座り込んだままこっちを見ている。
ののかちゃんは荷物とあきとを守るように後ろに下がっていた。
数十匹を倒したところで、残りのネズミたちは危険を察したのか、一斉に逃げ出した。
「追うぞ!」
俺と栞は三人を置いて、足跡をたどりながら森の奥へと駆け込む。
木々が密集し、ほぼジャングルのような中を走り抜けた。
「うぉ、うぇぇ、口の中に葉っぱ入った! 最悪!」
「静かに走れないの?」
「いいよな〜ネズミは。体が小さいから葉っぱとか口の中に入らないんだろうな」
「口より足を動かして。口の方が動いてるわよ」
「うるせぇ!」
木々の間を抜けた先、開けた空間の中央で、異様な光景が広がっていた。
無数のネズミが集まり、渦のように丸くなっていく。そして、形が変わり始め――やがてそこに現れたのは、人の姿。
執事のような服装をした青年。全身が深い緑色の装いで、どこか品がある。
その人物は静かにこちらを見た。
「まったく君たち……僕の食事の時間を邪魔しないでくれよ」
ため息を吐きながら、やれやれと肩をすくめる。
「まったく……君たちのせいで眉毛と爪が全部なくなっちゃったじゃないか」
そう言って前髪を上げ、爪を見せてくる。確かに――どちらもない。
「は! 知るかよ。だいたいお前が食おうとしたから止めただけだろ。自業自得だ」
俺は静かに刀を構え、栞が魔法陣を展開して構える。
「まあまあ、お二人さん。そんな警戒しなくてもいいじゃないか」
「警戒しないでって言う方が無理な話だろ」
「うんうん」
隣で栞がこくこくと頷く。
「あ〜そうでした。申し遅れました。私、コーラルと申します」
「知るか! お前はネズミ男だ!」
「あ、いや私の名前はコーラルなんですけど……」
「うるせぇ! このネズミ野郎!」
コーラルとやらが急に黙った。
「君たちと遊んでみたかったけど……また今度だね。じゃあね、お二人さん」
そう言って足元に魔法陣が浮かぶ。
「逃がすか(さないわよ)!!」
「抜刀!裂空!」
「岩槍墜星!!」
俺は刀を投げ、栞は土魔法の槍を二本撃った。
「じゃあね〜〜」
俺たちに手を振って、どこかへ消えていった。
刀と槍はコーラルに当たらず、刀は遠くへ飛んでいってしまった。
……取りに行くのめんど。
「じゃあ帰りましょ」
「いや、刀探しに行かないと……」
「…………頑張って」
「え!? ちょっと待ってよ! お願い!」
「無理よ」
「えーーーーーー俺一人じゃ見つけるの難しいよ!!」
「知らないわよ。だいたい投げたのあんたじゃない」
――投げたの俺だけど、探すの面倒くさーーー




