勇者(仮)クエストから帰って来た時の話
街へ戻ってきた俺たちは、いつものようにギルドへと足を運んだ。
泥だらけの俺の姿を見て、周囲の冒険者たちがヒソヒソと話し出す。
「うわ、また失敗組か?」
「あれで何人目だよ……」
……うるせぇな。黙っとけ。俺たちを失敗組と一緒にすんな。──まあ、今の俺の見た目じゃ、そう思われても仕方ないけどさ。
「ねぇ朝日、トイレに行っていいかしら?」
「俺も我慢してたんだよな……」
そう言って正晴と栞が連れ立ってトイレへ向かうのを見送り、俺は受付へ向かった。受付嬢に冒険者カードを差し出すと、受付嬢がカードを機械に通し、端末に情報が映し出される。
「……えっ!? 巨大サメの撃破記録が……!」
その一言で、ギルド内が一気にざわついた。
「おい、聞いたか? あのサメを倒したらしいぞ」
「マジかよ、すげぇな……」
ざわめく声を背中で感じながら、俺は少し得意げに口を開く。
「報告があります。今回討伐したサメの腹に、変な紋章が刻まれてました。──例のやつです」
そう言って、事前に描いておいた簡単なスケッチを差し出す。
受付嬢はそれを受け取り、じっと目を細めた。
「このマーク……最近、王都の勇者たちからも報告されているものと一致します。皆さん、お疲れさまでした。報酬は隣で受け取ってください」
俺たちはそのまま報酬カウンターへ向かった。──なぜかって? タキムラさんじゃないと報酬を出せないんだ。この世界、妙に厳しい。
案の定、タキムラさんは隣の受付嬢と話していた。
「タキムラさ〜ん、報告終わりましたよ〜」
声をかけると、タキムラさんがこちらを振り返った。
「おお、坊主たちか。なんかさ……あのサメ、ただの大型モンスターじゃなかったらしくてな。報酬は30Lに引き上げられたんだ。最初は20Lだったが、紋章付きってことで加算されたらしい」
「……え? マジで?」
思わず声が漏れる。1L=1万円だから、日本円にして約30万円ってとこだ。
その時、奥から別の受付嬢が駆け寄ってきた。
「あの、すみません。朝日さんですよね?」
「え? あ、はい。俺ですけど……」
「以前のゴブリン討伐で、朝日さんは“紋章付きのゴブリン”を倒されています。その時はまだ報酬加算制度が始まっていなかったので、今回追加分として10Lをお支払いします」
彼女は紙袋を差し出しながら続けた。
「今回の報酬が30L、以前の追加が10Lで、合計40Lです」
──40L。つまり、約40万円。今回の遠征、かなりの成果じゃないか。……よし、豪遊できるぞ!
――――
報酬を受け取ったあと、ふと自分の冒険者カードを確認すると、見慣れない項目が追加されていた。
《メモリースキル》
気になって開いてみると、リストが表示された。
・体に電気を纏う
・速く泳ぐ
・一時的なパワーアップ
・一時的な魔力増加
・一時的な防御力アップ
・水中滞在時間が延長
それぞれに詳細ボタンがついている。どうやら、倒したモンスターの戦闘経験や特性がスキルとして記録されていく仕組みらしい。
……今まで知らなかったけど、冒険者カードってこんな機能まであるのか。
「すみません、これってどうやって使うんですか?」
「はい、メモリースキルですね? これは頭の中で念じると使えます。慣れてくると、ほとんど無意識でも発動できるようになりますよ。頑張ってくださいね」
「なるほど。ありがとうございます」
すると、後ろからののかちゃんが声を上げた。
「すごい……“体に電気を纏う”なんて! 朝日さん、もう向かうところ敵なしですねっ!」
ののかちゃん、いい子……いや、違う、俺はロリコンじゃない。
「ま、まあな」
ちょっとカッコつけながらカードをしまった。
そのとき──
「朝日さん」
振り返ると、ミナセさんが立っていた。
「はい、どうしました?」
「朝日さんがまた紋章付きモンスターを倒したって聞いて来たのよ。……すごいじゃない!」
……なんか、いつもより距離が近い気がする。
「あ、ありがとうございます」
「それでね、この紋章……王都から派遣された冒険者たちの報告によると、魔王軍幹部の仕業かもしれないらしいの」
「魔王幹部……ですか。まあ、俺には縁がない話だな」
「そんなの、わからないわよ?」
「やめてください! 今の、完全に死亡フラグですよね!?」
そう言うと、ミナセさんはくすっと笑いながら手を振って去っていった。
――――
正晴と栞がトイレから戻ってきたのを確認したタキムラさんが、ぐっと拳を握り上げる。
「よし! 全員そろったな! 坊主ども、今日は俺が腕によりをかけて作ってやる! うちで晩飯だ!!」
「「「「おおぉぉぉ!!」」」」
こうして、俺たちの長い一日が、うまい飯と笑い声で締めくくられた。




