勇者(仮)クエストに行ってきます!3
俺たちはなんとか丘まで退避し、息をついていた。草の上にへたり込み、みんな口々に文句を言いながらも、生きてることにほっとしている様子だった。
「……はぁ……まじで死ぬかと思った……」
正晴が全身くったりと草の上に寝転がる。
「心臓止まるかと思いました……」
ののかちゃんも膝に手をついて、はぁはぁと肩で息をしている。
「……やばすぎ……あれ、ほんとに中級?」
栞はまだ腰が落ち着かないのか、地面に座り込んだまま、顔をしかめていた。
そのとき。
タキムラさんが、湖をじっと睨んで言った。
「……戻ったな。全部、水の中へ戻っていった」
確かに、湖はさっきまでの荒れ狂った姿が嘘のように、また静かになっていた。
「よし……今だ」
俺は立ち上がり、刀を抜き、空へと掲げた。
「朝日!? な、なにする気!?」
栞の声が背中に届く。けど、俺は集中を解かなかった。
「……このまま帰ったら、意味ねぇだろ」
雲がざわつき始め、さっきまでの快晴が徐々に陰りはじめる。
俺は刀を湖へと向け、振り下ろす。
「――雷轟!!」
ズガァァァン!!!!!!
空気が震え、雷が一閃。
その刹那、湖面に巨大な電流が走った――!
バチバチバチバチッ!!!
「……やったか?」
水面が泡立ち、バチバチと雷の余韻が広がる中――
「わっ! あ……上がってきた!!」
ののかちゃんの声に振り返ると、
サメ! ワニ! またサメ!
水面に腹を見せて浮かんできたモンスターたちが、次々とぷかぷか浮かんできた。
「や、やった……やったのか!?」
「朝日さん、すごい!!」
「はっはー! 見たか、これが俺の雷魔法!!」
そう言いながら、俺は念のため、湖の縁にしゃがみこみ、両手をズブッと突っ込んだ。
「もう一発!! 雷閃!!」
ズドンッ!!!
水面が再び震え、今度は泡と一緒にモンスターの死骸がさらに追加で浮いてきた。
「……これで、仕留めきったか」
タキムラさんが頷いた。
「……よし、飯にしよう」
◇ ◇ ◇
湖の近く、倒したモンスターたちを少し離して埋めたあと、俺たちは持ってきた弁当を広げた。
「なんか、あんな恐怖した後なのに、ご飯って……最高に美味しいわね……」
「はい、いつもより、10倍くらいおいしく感じます」
「……いやほんと、雷魔法すげーな。俺なにもしなかったわ」
「知ってる」
「そこは否定してくれよ……!」
ののかちゃんが湯を沸かして温かいスープを配り、栞はパンを切り分けてくれる。タキムラさんも持参の干物を炙ってくれた。
「いや~、生きててよかった」
「ほんとにね……」
穏やかで、ほんのりあったかい昼のひととき。
風は気持ちよく、空は高くて、あの恐怖が嘘みたいに感じられる。
「じゃ、帰るか」
俺が腰を上げ、荷物を背負いながらそう言った瞬間だった。
――バァン!!!!
爆発にも似た音が、湖の方向から響き渡った。
「っ……!?」
全員が、恐る恐る振り返る。
……湖の中央。
静かだったはずの湖面が、泡立ち、盛り上がる。
「な、なんだ……?」
「嘘……まだ、いたの……?」
ドボォォン!!
水柱が上がり、その中から――
ありえないサイズのサメが現れた。
腹には、はっきりと“奇妙な紋章”が刻まれている。
全員、言葉を失う。
「…………あ、終わった」
「…………」
「…………なに、あれ……」
「…………」
「なんじゃありゃ………………」
目玉が飛び出しそうになる、とはこういうことかと、全員が思った。
「「「「「えぇーーーー!!!???」」」」」
そして――
「う、うそだろ……終わったんじゃ……」
デカいサメは、ゆっくりと湖の中へ――そのまま、すっと潜っていった。
「……な、なんだよ、行ったのか?」
「よかった……もう出てこない……?」
みんなが肩の力を抜きかけたそのとき、
「なぁ、兄ちゃん」
タキムラさんが口を開いた。
「……あれ、まだ湖にいるうちは報酬払えねぇぞ」
「…………」
いやいやいやいや。
「え、ちょ、待て!? あんなに倒しただろ!? サメもワニも!! ごっそり!!」
「ボスが残ってちゃ意味ねぇんだよ」
「いや、もういいだろ!もういいじゃん!? 金だけは払おうよ!?」
「安心して魚が獲れるまでは、支払いもできん」
「……」
「…………」
「…………」
「クソがああああああああああああああ!!!!!!」
俺は天を仰いで叫んだ。
「もう無理ーーーー!!!!」
そして、サメのいた湖を恨めしそうに睨みつけながら、草の上に大の字になった。
もう無理!!!!!




