勇者(仮)の進化
「おーい、もう昼過ぎだぞ。早く起きろよ、ツンツン」
「うるせえなぁ。人の練習用の木刀でツンツンすんじゃねぇ」
「じゃあツンツンじゃなきゃいいんだね?」
嫌な予感がして目を開けると、そこには木刀を振り上げた正晴が――
「チッ、避けたか」
俺はギリギリでその木刀をかわす。
「チッ避けたかじゃねえよ!! 人のベッドにめっちゃめり込んでるじゃねえか。おい、これどうするんだよ。このベッド高かったんだぞ!」
「知るか」
正晴が木刀を持ち上げると、ベッドには見事な凹み。嘘だろ……どんな力してんだよ、こいつ。
「知るかってなんだよ! これでも喰らえ! 電気ショック!」
「ぎゃああああああ!!」
……なんてうるさいんだ。ていうか、これ初期魔法だぞ? 耐性がないとはいえ、そんなに痛がるか? もしこれで上級魔法を覚えたら……強いやつとも戦っていけるかもしれない。
そのとき、ドタドタと階段を駆け上がってくる足音がして――
バン!
「何? 何があったの?」
「おいおい、お前ら朝っぱらからうるさいぞ」
「はぁ? 何言ってんの、あんた。もう三時よ、あと少しで三時!」
「はぁ? そんなわけ……」
部屋の時計を見ると、二時五十分……やばい、マジか。
「で? 何があったの? 正晴、白目剥いてるわよ?」
「いや、俺が電気魔法喰らわせたら、こうなった。それも初期魔法で」
「…………」
栞と一緒に考えてると、一つ思い出した。
昨日の夜――正確には今日未明。
俺は“電気魔法を雷魔法に進化させてほしい”って願ったんだ。
「まさか……」
「どうしたのよ?」
机の上に置いてあった冒険者カードを手に取り、俺はそれを栞に見せた。
「おい、栞、見ろよこれ」
「はぁ? それと何の関係があるのよ?」
冒険者カードを渡すと――
「…………あなた幻覚魔法でも覚えたの? 電気魔法じゃなくて?」
「いや、電気魔法のままだ」
「嘘でしょ? なんで? なんで雷魔法に進化してるのよ?」
「いや〜、色々ありまして……」
「それにあんたこれ」
栞が指さしたのは、職業欄。
「え? 嘘だろ」
「嘘でしょ?」
「嘘なわけないだろ。ほら」
俺は栞の頬に軽くデコピンしてみせた。
「嘘でしょ。なんで……なんで雷魔法に進化してるのよ。それに“魔導剣士”って……それ、レア職の上位でしょ!?」
俺も、なんで進化できたのかは分からない。
その時――
ピコン、と例の音。視界にビジョンが浮かび上がる。「新しい情報をお届け!」の横に、びっくりマーク。
朝日様へ
雷魔法についてですが、レア職業の上位職業でも進化が可能なので、魔導剣士はその条件を満たしていたため、電気魔法を雷魔法へ進化しました。
おめでとうございます。
――セトウ&アキスより
「……マジかよ」
職業名を改めて確認する。
魔導剣士。
なんか、なんか、かっこいいぞ!!
やばい、興奮する。厨二心をえぐってくる名前だ。
俺、負ける気がしない。勝つ気しかしないぞ。
「……ていうか、こいつどうする?」
栞が正晴を指差す。まだ白目を剥いて、ぐったりしてる。
「どうしよっか」
「「…………」」
俺たちの間に、気まずいくらい長い沈黙が落ちた。




