天井に穴が空いた時の俺の話
「よし、今日は拠点探しだ! 気合い入れていくぞー!」
「はいはい、無駄にテンション高いね」
「まぁまぁ、こういうのは勢いが大事なんですって」
三人が向かったのは、町外れにある少し古びた不動産屋。けれど中に入ってみると――
「いらっしゃいませ。こちらが最近空いた物件一覧になります。ちょうどいい物、ありますよ」
出迎えたのは、妙に商売っ気のない穏やかな老人。紹介されたのは郊外にある広めの一軒家。庭付き、魔物の気配もなし、価格も驚くほどリーズナブル。
「えっ、これ……安すぎない?」
「まぁ、以前住んでいた方が急にいなくなりましてな……縁起はともかく、建物に問題はありませんよ」
少し引っかかりはあったが、実際に見学してみると――
「広っ! キッチンも広いし、部屋もちゃんと使い分けられる!」
「陽当たりも良好ですね。弟さんにも喜んでもらえそうです」
「……もう、ここでよくね?」
「即決!?」
気づけばその日のうちに契約が完了し、夕方には荷物の運び込みまで終わっていた。
――普通はもっと時間がかかるはずなのに。
* * *
翌日の夜。引っ越し初日の余韻を感じながら、三人はそれぞれの部屋を確認していた。
「よし、これが俺の部屋で……栞のはこっち、ののかのは向かい側だな。ふー、いい感じ……」
その瞬間。
ドガアアアアン!!!
轟音とともに、朝日の真上の天井が崩れ落ちた。木片と砂埃が舞い散る中、現れたのは――
「……いっっっってぇぇぇ……! あいつら、絶対にぶっ飛ばしてやるからな……!」
「ちょっと!? あの音なに!? ……って、天井に穴!? 何してんのよ、バカ谷!!」
砂埃の中から立ち上がったのは、成人男性ほどの年齢で、ボサッとした雰囲気の青年。
「えーっと……あなた、誰ですか?」
「お前が聞くな!!」
見上げれば、天井には人型の大穴が見事に開いている。
「だ、大丈夫ですか!? どこから落ちてきたんですか……?」
「どこって……上からだよ。あー……でもこの世界、初めて来た気がするな……?」
「「はぁ? この世界って……」」
「転生者的なやつかな?」
「ねぇ朝日、また変なの引き寄せたんじゃないでしょうね」
――やばい、栞が怒ってる。これは本格的にやばいやつだ。
バタバタと階段を駆け下りる足音が響く。
「な、何かあったんですか!? 音すごかったし……って、天井に穴!?」
「いや、なんかこの人が上から落ちてきてな……」
男はきょろきょろと辺りを見回しながら、ふいにこちらに目を向けた。
「ねぇ君、君のこと見たことあるんだけど……名前は?」
「ほら、やっぱりあんたのせいよ、朝日」
「違うって! 俺はお前なんか知らないし。俺の名前は村谷朝日だ!」
「村……谷……朝日……ああ! 君か! 見たことあるわ君のこと!」
「俺はお前のこと知らねぇよ!」
俺は警戒しながら、荷物に結んであったナイフ(ちゃんとケース入り)をポケットに忍ばせた。ポケット破れるのイヤだしな。
「まぁまぁ、そんなに警戒しなくていいって、朝日くん」
「……お前、誰だ?」
「僕の名は……君の守護神、正晴。またの名を、遊びの神・コルスだ!!」
……何言ってんだこいつ。
「おい、その『こいつ何言ってんの?』って顔やめろ。お前に加護を与えて、やり直しのチャンスをくれたのはこの俺なんだぞ? 感謝しろよ」
ますますわからん。遊びの神って、なにそのふざけた設定。
「この世界の本で読んだけど、大人が神の名を騙ると天罰がくだるらしいぞ」
「私は聞いたことあるわよ。昔の文献に“遊び呆けてた神・コルス”ってのが……あったような、なかったような。やっぱりなかったような」
「いや、あったわ! 僕は本物だ!」
「朝日さん」
「ん? どうした、ののかちゃん」
「私、今どうすればいいですか?」
「うーん……じゃあ、この家の被害状況を見てきてくれる?」
「僕、神なんだけど!?」
「で? 神が天井壊してんのは事実よね?」
……完全に怒ってる。俺もついて行こうかな。
「いや、壊したのは悪気があったわけじゃなくて……」
「なら、責任取って直しなさいよ」
「…………」
自称神は天井を見上げ、手をかざす。
「修正魔法!」
すると――天井がみるみるうちに元通りに戻っていった。
「「…………」」
普通こういうのって、魔法が失敗してさらに悪化するやつじゃなかったっけ……?
「朝日、修正魔法なんて聞いたことないんだけど」
「俺が知ってるわけないだろ」
「ですよね~。さすが“期待を裏切らない男”朝日さん」
「おい、それどういう意味だよ」
「別に~」
「すみません、急に天井が直ったんですけど……」
「ん? あぁ、こいつが直した」
ののかが目を輝かせて近づく。
「すごいですね! どうやって直したんですか?」
「ふふん、俺は神だからな。なんでもできるんだよ」
「神様なんですか!? わぁ、すごいです!」
(……この子、純粋すぎる。かわいいな……いやいや、誤解されないように言っておくけど、俺はロリコンじゃない。マジで)
「そういや、お前落ちてきたとき“あいつら許さねぇ”って言ってなかったか?」
「ん? ……あー、言ったかも」
「誰だよ、その“あいつら”って」
「セットウって奴と、アキスって奴。あいつらのせいで俺は……」
――なんか聞き覚えある名前だな。でも思い出したくない気がする。
そのとき――
《ビジョン》
目の前に勝手にステータス画面が表示された。矢印が下を示してる。スクロールすると、「新情報をお届け!」の文字。タップしてみると――
⸻
勇者(仮)・朝日様へ
この世界のためにご尽力いただき、誠にありがとうございます。
さて、本日あなたの元に、我々が管理する神――正晴(通称:コルヌ)が転送されました。
ランダム転送ですので、可能であれば彼を仲間として保護していただければと思います。
彼こそが、かつてあなたに“神の加護”を与え、命を救った存在です。
感謝の意を込めて接していただけますと幸いです。
――セトウ&アキスより
⸻
「……マジかよ」
さらにその下に追伸があった。
⸻
追伸:本人確認方法は「アルミ缶の上に」と言って、「あるみかん!」と返ってきたら本人です。
⸻
「ふざけてるのか……?」
「おい、自称神。確認するぞ」
「自称じゃねぇけど、どうぞ」
「アルミ缶の上に?」
「あるみかんっ!!」
「……はい、本人確認完了。ようこそ、遊び呆けた神様」
「歓迎されるのはいいけど、その呼び方やめてくれない?」
「で、朝日? こいつどうすんのよ」
「まあ、こいつ……俺たちの仲間ってことで」
「え!? マジで!?」
「しょうがないだろ。こいつ、俺がいないとマジでやばいっぽいし」
「……何言ってるかさっぱりわかんないけど、まぁいいや」
「私は賛成です!」
「はい、満場一致で可決しました!」
「「「いぇーい!」」」
「勝手に決めるんじゃないわよぉぉお!!」
こうして俺たちは――遊び呆けた(でもたぶん本物の)神様を、仲間に迎えることになった。
「俺、魔法を覚えようと思う!」
「いいですね!何系にするんですか?」
「やっぱ雷魔法がいいな。カッコいいし」
「雷魔法? あんたバカなの? そんな博打みたいな選択やめときなさいよ」
「博打って……でも俺は転生者だし、いける気がするんだよ!」
「えっと、どういう話をしてるんですか?」
「ん? 雷魔法ってのはな、まず“電気魔法”を覚えるのが条件でさ。で、スキルが2つ揃ったタイミングで職業が判明するだろ?」
「電気魔法? 雷じゃなくて?」
「そうそう、まずは電気魔法。そのあとに、レア職業かユニーク職じゃないと雷魔法に進化しないんだよ。それも、レア職業の中でも“上位”じゃないとダメ」
「へぇ〜、初めて知りました!」
「ちなみに電気魔法って、世間じゃ“ネタ魔法”扱いなんだよな」
「それは聞いたことあります。なんか弱いって……」
「だから博打ってわけよ!」
「なるほど、勉強になります!」
「次回、『勇者(仮)、ネタ魔法を覚える』」
「……って、ねぇ朝日。次回予告にもう“ネタ魔法”って書いてあるんだけど」
「…………うるせぇ!そういうのは何も言わないのが普通なんだよ!」




