勇者(仮)新しい仲間が入る
あれからどれくらい経っただろう。あの、いつの間にか頼まれていたチョコパフェを食べた日から、もう一週間と少し経った。正確には九日だ。
「そろそろクエスト行かないと、お金なくなるわよ」
「ん?ああ、そうだな。クエスト行くか」
俺たちは準備をして、家のドアに手をかけた――その瞬間、急にドアが開き、俺はバランスを崩しかけた。
「こ、こんにちは。その……言われた通り来ました。この小屋、なんですね……」
「……誰、この子?」
「この子は希々花ちゃん。ほら、この前話しただろ?」
「え!? この子が? こんな可愛くて、いい子そうで、まだ若いこの子があんたを? ねぇ、どういうこと? お姉さん、手伝えることあったら言ってね。一応この人の仲間だから、いつでも“消せる”わよ」
「え、あ、はい……ありがとうございます?」
「ん?ちょっと待て、今めっちゃやばいこと言わなかったか?」
「え? 何のこと? 幻聴じゃない? 幻聴が聞こえるおじいちゃんは黙っててね」
「おい、ちょっと待て! 俺は28だぞ。それに幻聴じゃない、絶対に」
「もう28なんておじさんよ。幻聴ぐらい聞こえて当然ね。あら? ごめんなさい、現実を突きつけて。悲しかった? まぁ、私ほんとはどうでもいいけど、言っちゃった、ごめ〜んね♡」
こいつ、めっちゃウザい。それに最後、変な可愛いポーズしてきた。
「何そのポーズ。お前がやるとダサいな〜。それにお前と俺、そんな年齢変わんないから、お前もおばさんだぞ。よっ、おばはん!」
「あら? いいわね、その心意気。今ここでどっちが強いか決めましょうか」
「いいぞ、表出ろ! ボコボコのフルボッコにしてやる」
「それはこっちのセリフよ。ぺちゃんこにしてあげるわ」
「上等だ! 真っ二つにしてやる!」
「「あぁん?」」
「お二人とも落ち着いてください!! 私のために争わないで!!」
……え?『私のために争わないで!!』だと……何そのセリフ、男子も女子も一度は言ってみたいランキング上位のやつじゃん。俺もちょっと言ってみたいかも。
「あら? そうね、こんな奴と争うなんて時間の無駄だわ〜どうせ勝つし」
「あぁ? そんなわけないだろ。お前みたいなやつが俺に勝とうなんて百万年早いわ! 雑魚が」
「あら? 雑魚はどっちかしら?」
「「なんだと!? 雑魚はお前だろうが!!」」
「「あぁ!!?」」
「もう、お姉さんたちやめて!!」
「そうだわ、ののかちゃんに聞きましょう。どっちが強いか」
「いいぜ? 決まってんだろ、なぁ? ののかちゃん」
「そ、その……」
考えてるな。俺に決まってんだろ? 戦闘経験もあるんだし。
「その……どっちも強いです!! だから、ご、互角です!!」
「っ!?……」
俺たちは同時に目を合わせた。……この子、今ファインプレーをしたな。片方を選べば喧嘩になる、それを見越して互角って。なんて子だ。全て読んでいたかのように。
「まぁ今回はこれくらいにしといてやるよ」
「それはこっちのセリフよ! 命拾いしたわね」
ののかがホッと息をつき、俺たちはちゃぶ台の周りに座った。
「悪いな、これしかないけど。あっ、これ粗茶な」
俺はののかにさっき飲もうとして忘れていたお茶を出した。
「あ、お気遣いなく」
「ねぇ? 私にはないの? お茶」
「お前にやるお茶はない。……あっ、おい、ちょうどいいのがあるぞ」
「え? なになに? 何があるの?」
「じゃあ手ぇ出して」
「え? あ、うん」
差し出された手に、さっきまで抽出してたティーバッグを水の入ったコップに入れて渡した。
「……ねぇ? 一応聞くけどこれってもしかして」
「ん? どうした? 多分その“まさか”だと思うよ」
「……死になさい、重力魔法!!」
「のぉ!? やめろぉぉぉ!!」
しおりがまさかの重力魔法でティーバッグを俺の目に押し込んできた。……やばい、めっちゃ染みる。壁に押し付けられてるから動けない。くそが……。
重力魔法が解け、俺は壁からズルっと落ちた。
「……っくそ、染みる……ティーバッグは目に入れたらダメって常識だろ……」
しおりはニヤニヤ笑いながら腕を組んで見てくる。ののかはオロオロしながらタオルを持ってきてくれた。
「だ、大丈夫ですか!? あの、タオル……」
「おお……ありがとな、ののか。お前、いい子だな……誰かさんみたいなクソ野郎と違ってな」
「あら? 誰のことかしら?」
「安心しろ、言われてる本人が一番わかってるって」
「そうなの? なら私じゃないわね」
「へぇ〜君はそう思うのか。まぁ、認めたくない気持ちは俺もわかるよ」
「あら? それってどういう意味かしら?」
「どういう意味だと思う?」
「あの!!」
ののかちゃんが俺たちの間に割って入ってきた。……悪い、居心地悪くしちゃったか。
「どうした?」
「えっと、その、この前の話の答えを……」
「そうだったな。じゃあ教えてくれ」
「はい、その……」
「ちょ、ちょっと待って」
「なんだよ。どう考えても今いいところだっただろ。どんなクソ野郎でもわかるわ」
「あら? ごめんなさいね、気づけなくて」
「そうだったな。じゃあ教えてくれ」
「はい、その……」
「だ〜か〜ら〜、その話って何なのよ〜? 教えなさいよ」
「いや、この前この子と話したとき、最後に俺が『パーティに入らない?』って聞いたんだ」
「え? そうなの? ののかちゃん、仮で入りなさい」
「いや、なんでだよ」
「だってあなたがリーダーでしょ? それに危険なんだよ? 子供なのよ? お金がなくてこの仕事しかないなら、できるだけ危険じゃないクエストにして、ちゃんと弟さんを養えるぐらいまで働いたら、この仕事から足を洗いなさい。それがこのパーティにおけるルールよ!!」
「まぁ、それはそうだな。……ていうか、まだののかが入るって決まったわけじゃないだろ」
「その、パーティに入らせてください!」
「え? あ、や、なんか……ごめん。言わせちゃった感じがするんだけど」
「いえ、別に。その、何でもします! 荷物運びでもしますので、お願いします!!」
「なら、これからお願いね。ののかちゃん、これ一応契約書ね。ここにサインしてもらうだけど……」
「けど?」
「ののかちゃん、今何歳?」
「えーと、16です」
「やっぱりそうか〜」
「それがどうしたの?」
「ほら、未成年じゃん。未成年だと親と一緒にサインしなきゃダメなんだよ」
「あ〜、なるほど」
「じゃあ、ののかちゃん。両親、今度連れてきてくれる?」
「……いないです」
「栞、この子、両親いないんだ」
「あっ、ご、ごめんなさい……」
「いえ、別に大丈夫です。慣れてますので……」
「…………」
どうしよう。親の許可なしにはできないし……。
「おい、栞」
「な、何よ」
「お前、この子の保護者になれ」
「え!?」
「え!?」
「どうして!?」
「俺よりもお前の方がいいだろ。第一、この空気にしたの、お前だしな」
「ま、まぁそうね。わかったわ。私が戸籍上、この子の保護者になるわ。それでいいかしら? ののかちゃん?」
少し考える仕草を見せた後、ののかは小さく笑った。
「……いいんですか? 栞さん」
「いいわよ。でも私、そんなにお金持ってないし、食事代とか生活費は割り勘になるわ。それでもいい?」
……なんだこいつ。生活費とか言ってるけど、子供にお金払わせる気か。でもまぁ、俺も割り勘になってたかもしれないな。育ち盛りの子供二人は結構お金かかるし。
「なら、俺もお金出すよ。少ししか出せないけど」
「あっ、お二人ともありがとうございます! 私、頑張ります!!」




