勇者(仮)、なにかの事件に巻き込まれる
「では、倒した時のことを詳しく報告してちょうだい」
「はい、わかりました。ボスは倒したあと、刀を抜こうとしたんですが、全然抜けなくて。栞と二人がかりで引っ張ってたら、急に“バシュッ”って音を立てて、煙を上げながら体が縮みはじめて……その拍子に、スッと抜けたんです。拍子抜けするくらいに」
「急に縮んだ……それは不思議な現象ね。本当に?」
「ええ。で、倒れたそいつの背中に変な紋章があって……これが、そのスケッチです」
職員の女性は差し出したスケッチをじっと見つめ、目を細めた。
「……これ、最近ほかの場所でも報告されている紋章と似ているわね」
「やっぱり、何かあるんですか?」
「まだ詳しいことは分かっていないけど……ここ一ヶ月で、各地の魔物の背中から“似たような紋章”が見つかっているの。しかも、倒したあとに急に体が縮んだり、崩れたりするケースが増えていてね」
「そんな話、初耳ですけど……」
「公にはしていないの。あくまでギルド内部の共有情報よ。あなたのように、証拠を持ってきてくれる冒険者は貴重なの。これ、預からせてもらってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ。……でも、あれって一体なんなんでしょう。魔法的なものなんですか?」
「正直、まだ“正体不明”ね。でも、“外部からの干渉”が入っている可能性が高いわ。つまり、自然発生した魔物じゃなくて……“何者かの手が加わった存在”かもしれないの」
俺は思わず息を呑んだ。
「作られた魔物……?」
「ええ。一から創られたというより、誰かが意図的に魔物に“刻印”を施しているのかもしれない。そんな仮説が本部で浮上しているのよ」
「つまり、黒幕がいるってことですか」
職員は真剣な表情で、小さく頷いた。
「たぶんね。詳しいことが分かったら、あなたにも連絡するわ。今後もくれぐれも気をつけて」
「ありがとうございます。では、これで失礼します」
俺が一歩踏み出したところで、彼女が声をかけてきた。
「ちょっと待って。最近、強力な魔物にもその紋章が確認されてるの。しばらくは危険なクエストを控えたほうがいいかもしれないわ」
「そうですか。了解です……では、失礼します」
そう言って再び歩き出そうとすると、彼女がさらに声をかけた。
「あとね、ここだけの話……王都から“勇者”が派遣される予定なの。さっき言った通り、紋章付きの魔物は普通の冒険者じゃ歯が立たないからって理由で。本部の判断らしいわ」
「……勇者が、こっちに?」
「ええ。私、一度でいいから本物の勇者に会ってみたいわ〜。あの伝説の鎧とか、実在するのかしら」
勇者って……結構ヤバい状況なんじゃないの?
ていうか、ちょっと待って。
俺も一応、勇者(仮)なんですけども。
(言えるかっ!ていうか(仮)ってなんか恥ずかしいんだけど!!)
「……まぁ、気をつけてね。また何かあったら報告してちょうだい」
「はい、ありがとうございました」
ギルドを出て、夜の空気を胸いっぱいに吸い込む。
ふぅ、と息を吐きながら、隣を歩く栞に声をかけた。
「なぁ、栞。報酬の20Lでさ、俺ん家でプチ宴会しない?」
「いいじゃない。今日はちょっと疲れたし、たまには騒ぐのもアリでしょ」
俺たちは夜空に照らされながら、俺の小さな家――という名の小屋へとプチ宴会をする為に歩き出す。
なにこれ、なんかロマンチック!!いい!!これいいよ、これ。




