ゴブリン退治にレッツゴー!!
朝のギルドは、意外と静かだった。
木の床を踏む音と、カウンター越しの受付嬢の声だけが響いている。
俺は壁の掲示板をぼんやり眺めながら、背後に誰かが立つ気配を感じて振り向いた。
「おっ、栞。早いな」
「……あなた遅いわよ。時計の針、ぴったり8時ちょうどよ。私はてっきり寝坊してくるかと思ってたわ」
「俺が寝坊なんかするわけないだろ」
「はい、これ」
「なにこれ?」
渡された紙に書いてある内容は――
【討伐依頼】
魔物名:ゴブリン(多数)
場所:東の森・旧鉱山跡付近
条件:最低3体以上の撃破と報告
備考:過去に複数の新人パーティが全滅。油断せずに行動すること。
「今日はその依頼を受けるわよ」
「……え? ゴブリン? いきなり雑魚からスタートか?」
「バカにしないほうがいいわよ。この辺りのゴブリン、でかくて手強いって評判よ」
「は? ゴブリンって、こう……チビで緑で、ナイフ持ってワー! みたいな感じじゃないの?」
「それ、絵本の話ね。現実はもうちょいマッスル寄りよ。人間より一回り大きいし、群れるし、しかも知恵もある。石投げてくるわよ」
「それもうゴブリンじゃなくて…なんか別の生き物じゃね?」
「ゴブリンよ。“ここの”ね」
受付嬢が俺が来たことを確認して、地図と証明書を手渡してきた。
「お気をつけて。あのあたりの群れ、最近ちょっと活性化してるみたいですので」
「うっす、行ってきます。大丈夫、俺強いから」
「それ、なんか死亡フラグってやつに感じない?」
「いやいや、死亡回避フラグだよ。主役は死なないって相場が決まってんのよ」
栞が肩をすくめて笑った。
そのまま、俺たちは小さな荷物だけ持ってギルドを後にした。
⸻
◆東の森・旧鉱山跡 昼過ぎ
歩くこと2時間半、俺たちは問題のゴブリン出没エリア――「旧鉱山跡」に到着した。
岩場にぽっかり空いた大きな洞窟。まるで口を開けてる怪物のようだ。
「ここか……なんか雰囲気やばくね?」
「音がしない。鳥も鳴いてないわね。いるわよ、絶対中に」
「こっからどうする? 突っ込むか? それとも一回……なんか作戦的な?」
「まずは入り口付近の足跡確認して、それから――」
パキッ
――枝を踏む音がした。
俺たちは同時に振り返る。
……森の奥から、2本の影がこちらに近づいてくる。
「来たわよ。構えて」
「了解。さて、こっちの“ゴブリン”ってやつ……見せてもらおうか!」
俺たちの前に立ちふさがったのは、ゴブリン。
……いや、ゴブリンにしては、でかすぎないか? それになんかマッチョ。
「……図体、でけえなあ。これで“最弱”かよ」
そいつは二足歩行の化け物で、肩までの高さが俺の胸くらい。
筋肉が無駄に詰まってて、手には骨の斧。動きも鈍重じゃない。目もギラついてる。
「来るわよ!」
栞の声で我に返った瞬間、ゴブリンが突進してきた。
速い。が、直線的。読める。
「俺がいく!」
前に出る。足元の草を蹴り飛ばしながら、一気に距離を詰めた。
「脚、もらう!」
横薙ぎの一閃。狙うのは足首――そう、動脈でも関節でもない。ただ「動きを止めるための一撃」。
刃が肉を裂く感触。鈍い悲鳴。ゴブリンの体勢が崩れる。
「栞、今だッ!」
「いける……! 土魔法《岩槍墜星ロックランス・フォール》!」
ズドン、と音がしたかと思えば、足元から突き出た岩が、ゴブリンの腹を貫いた。
「……が、あ、あ……」
崩れ落ちる巨体。静寂。血の匂い。風が葉を揺らしている。
「……ふぅ」
「連携、バッチリだったわね」
振り返った栞が、ほんの少しだけ笑ったように見えた。
俺は剣を振って血を払いながら、息をついた。
「……最弱モンスター、なめてたら死んでたわ。あぶねえ」
「ふふ。これでまだ“普通のゴブリン”だもの。上位種が出たら死ぬわね」
「やめてくれ……マジで笑えねえから……」
「でもこの世界の最弱モンスターは、ゴブリンじゃないらしいわよ?」
「まじかよ。なら、早く中に入ってゴブリン倒して帰ろうぜ」
「まだ一体いるわよ」
「ん? あぁ……」
出てきたのは、さっきのより少しだけ細身だが、目つきが鋭いゴブリン。
片目に傷がある、やや小柄なやつで、ナイフをカチカチ鳴らしている。
「今度は多分スピード系だわ……厄介ね」
「なら、今度は俺がやる。後ろは任せた!」
突っ込んだら、相手も同時に突っ込んできた。
今度は読みづらい、不規則なステップ。雷みたいにジグザグに走る。少しめんどうだな。
速いけど見えないほどじゃない。……俺の方が速いな。
そんなにスピードに自信があるなら、勝負してやる。
ゴブリンが斬りかかってきたのを避けて、少し距離を取った。
本気で走り、ゴブリンの背後に回り込む。
「もらった!!」
俺はゴブリンの首を切った。
「ふぅ……これで二体目か」
俺は剣を振って血を払いながら、息をついた。
「……最弱モンスター、なめてたら死んでたわ。あぶねえ」
「ふふ。これでまだ“普通のゴブリン”だもの。上位種が出たら死ぬわね」
「やめてくれ……マジで笑えねえから……
でもな栞俺はな死ぬ時はねぇよ」
「それ言いたいだけでしょ?」
バレたか。




