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忌日

作者: ひぐまびっち

「うわぁ、出たぁ!」


 少年は悲鳴を上げた。

 その声に心底驚いたのか、老人はしばらく少年を見つめてから。


「あ……、ああ、驚かせてすまない」


 辛うじて声を出したのだった。


「ううぅ、お爺さんごめんなさい。ここ、めったに人が来ないものだから、てっきり僕……」


「てっきり幽霊にでも出くわしたのかと?」


「お爺さんは……違いますよね?」


「ははは。私はまだかろうじて生きてはいるよ」


「ごめんなさい! 幽霊なんているはずないのに」


「いいんだ。そんなこと、もう気にしなくてもいいんだよ」


 少し気まずい空気の中で。


「そうだ僕、弟を探しているんです。お爺さん、この辺で僕の弟を見ませんでしたか?」


「キミの弟……」


「はい。あいつ僕が目を離すと危なかしくて」


「ああ……、その子ならさっき会ったよ。たぶん今頃は家に戻っているんじゃないかな」


「よかったぁ、安心しました」


「もう遅いから、キミも帰りなさい。キミのお父さんとお母さんもきっと心配しているから」


「そうか……、ああそうでした。僕はもう帰らないと……、じゃあお爺さん、さよ……な……ら……」


「待って! 本当は言いたいことがたくさんあるんだ!」


 老人は、誰もいない虚空に叫んだ。


「溺れた私のことを助けてくれてありがとう、ごめんなさい、お兄ちゃん、ああ、お兄ちゃん、大好きだよ……」


 老人は貯水池のほとりに花束を置くと、毎年この日にそうするように、手を合わせて亡き兄の冥福を祈るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 老人という状況から、霊の兄との年齢差。そして長い期間の月忌、年忌のいずれにしろずっと兄の冥福を祈っていたことが伝わります。老人の年齢による脳機能の衰えによる幻覚の可能性も考えられますが、い…
[良い点] 感動。 いい話ですね~。
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