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ギガントレリクス ~機動兵器は天より堕ち、石の巨剣を得て竜を討つ~  作者: MUMU
第九章 電影の巨匠、雷火の街、竜の武人と相争う
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第五十一話


「一騎打ちはしない」


外部スピーカーで告げる、アイガイオンは露骨に肩をすくめたのが分かった。


「ふん、名を持ったかと思えば、武人としての心構えも」

「お前たちは信用できない」


やつのいる屋上部分に降り立つ。


「一騎打ちが完遂されるとは微塵も思えない。アイガイオン、お前が倒されそうになれば乱入が入るに決まっている」

「ふん! 武人たるものがそのような」

「お前たちに選択肢など渡さない」


どこまで行っても僕は軍人なのか。そう有りたいと願っているのか。

戦場を冷淡に、俯瞰して捉えたいと思っているのか。


「お前たちは僕を集団で襲うか、襲わないかの決定権を持つことになる、それは公平とは言えない」

「何だと? どうしろと言うのだ」

全員・・で来い・・・


ざわりと、壁面に張り付いている衛竜ヴリトラたちが反応する。


「貴様……!」

「僕は軍人だ、これが軍人の礼儀だ、互いの世界観を押し付け合うことこそ闘争。最大戦力でかかってこい」


かつてスモーカーとの戦いでも起きたこと、闘争とは世界観の主導権を握るためのもの。勝ったほうが摂理ルールを上書きする権利を持つ。


「どうした、踏み込めないのか、腰が抜けたか?」

「よく言ったものだ!」


アイガイオンが、他の衛竜ヴリトラたちが動き出す。


脚部の爆発的な伸長、薬圧サスペンションによって上方に飛び、イオンスラスターを最大にふかす。


「待てい!」


血気盛んな一人が追随する。ビルの側面を蹴ってイナズマのような跳躍、やつらの機動性もあなどれない。


「待て! ルドリール!」


そいつが僕に追いつく瞬間、ベーシックを反転。無重量状態になっているそいつの腕を掴み、真上に放り投げる。


狙いは完璧、やつの体はビル群の上をわずかに超える。


「なっ……!?」


そして青い閃光。ルドリールと呼ばれた竜が雪のひとひらのように消える。


「ついてこい!」


機動性はこちらが上、スラスターからイオンのジェットが吹き出し、ベーシックをビル街の奥へと突っ込ませる。


「おのれ!」


衛竜ヴリトラたちも追ってくる。体高8メートルはある割には身軽だ、岩から岩ヘと跳躍して追いすがる。

奴らのスペックを分析、重量はおよそ4トン。ベーシックよりも重いのか。手にした獲物は偃月刀シミターに棍棒に槍など、どれも300キロ程度か。

おそらく視力はかなりのもの、体幹も安定しているのだろう。鋭い爪を持つ足で的確に足場をとらえ、腿の筋肉でその身を宙に躍らせる。


「待て、迂闊に追うな!」

「隊長! やつはまだこの熱圏に入ったばかりです! 罠を張られる前に追うべきです!」


それは正しい。

僕一人ならな。


僕を追う人型の竜。軽鎧で肩と胸部などを守るは、いわば竜の獣人。

それが十字路に飛び出した瞬間に銀閃がひらめく。やつの首が飛ぶ。その身は遥か下方へ墜落していく。


「ナオ、うまく誘い込んだね」


いや、ココの位置は把握できてなかった、彼女がうまく回り込んだのだ。


「エウゼミルがやられた!」

「密集陣形を組め! 全方位に対応せよ!」


衛竜ヴリトラは残り4体、それがひし形の隊列を組んで高速で跳躍する。


「シャッポ、熱圏の中央を全方位モニターに表示できるか」

「はい、いま行います」


そして出現する、モニター上だけで存在する赤い柱、あの方角か。 


三次元マッピングが周辺の地図を作成している。それによれば熱圏の中央、やたらと開けた空間がある、あそこか。


飛翔、近づくほどに周囲に青いものが増える。水晶のような透明な構造物だ。それが細長く成形された岩をびっしりと覆っている。


「……?」


そして飛び出す。熱圏の中心、結界の最奥。


そこにいたのは青い球体。


四方八方のビルにガラスの橋のようなものを伸ばし、自身を空中で支えている。大きさは50メートルほどの球体だ。


その球体の下には衛竜ヴリトラたちが倒れている。武器や鎧を砕かれ、体を大きくえぐられている者もいる。


「あれは……? あれが光条竜ザウーラなのか? それとも「太母」……?」


球体は透明であり、中心に雲丹ウニのような星型の構造体がある。一個の細胞のようでもあり、レーザーの励起体のようにも見える、正体不明だ。


その球体の内部で何かが生まれている。三角形の薄片が組み合わさり、パズルのように細長い首を形成、さらに頭部を形成し、角や牙を形成し、竜の頭部が生まれ、そいつが音もなく球体を突き破って出てくる。


「なっ……」

「狙撃せよ!」


指示を飛ばしたのはアイガイオン。どこかに潜んでいた衛竜ヴリトラが動く。

ぐおん、とすさまじい音。大型の槍のような矢が生まれかける竜の頭部に突き刺さり、ガラス細工のように爆散させる。


だが本体と思しき球体には何の影響もないのか。次々と新しい首を生成し、球体の内側から伸ばしてくる。


よく見れば上方には首だけの竜が浮いている。ビル街の上を旋回しているのだ。熱圏の外を狙撃していたのはあいつか。


「シャッポ、あれも竜なのか、あれに似たものを見たことはないか」

「いえ、あれは生物の常識からかけ離れています。球体の中は完全な空洞に見えますが、その中で生まれています」


下方には砕かれたガラス片のようなものが散乱しており、それが不可思議な力で吸い上げられている。薄片は球体の中に戻り、また首だけの竜の一部となる。


「ですが、あれに似た現象ならば見たことがあります」

「何だって」

「思い出してください、シュヴァリスト理想図書館です」


理想図書館……あそこにいたのは確か、石板の怪物。


「……まさか!」


カメラを最大望遠に。下方に散らばった薄片を捉え、その形状を三次元分析する。

そして見つけた、表面に刻まれた文様を。


「あれは! 石板の怪物と同じ!」

「生えている首、あれが光条竜ザウーラだ」


アイガイオンが言う、彼の部下たちは球体を取り囲み、生えてくる頭に矢を浴びせ、ときに飛び掛かって武器で砕いている。球体を直接攻撃している者もいるが、かなり頑丈なのか、傷をつけられない。


「その身はすべて水晶であり、身に受けた光を一点に集めて撃ち出す怪物だ。その体には一滴の血も流れておらず、我らが知る生物とは全く異なるものであると」

「……あの竜を生み出した竜使いとは、いったい……」

「必要な情報は与えた、我らの邪魔はするな」


そしてアイガイオンは僕を放置して、竜の首と戦う仲間たちに合流する。


「いったい……あの竜は何なんだ、無生物のようにも見えるけど……」


「ずいぶんと察しが悪いな」


――!


これは、外部音声ではない、ベーシックの回線に割り込んできた。


「誰だ!」

「上官の声を忘れたのか? 部下たちには気を配っていたつもりだがな」

「お前は……マエストロ!」


僕の直接の上官。この星に転移させられる前、僕たちの部隊を指揮していた人物。


だが再開の喜びなど湧くはずもない、このタイミングで現れるとは。


「まさか……あの竜はお前が」

「その通り、私がつくった竜だ。竜都ヴルムノーブルの工房でな」


マエストロは竜都にいたのか。そして竜皇軍のおそらくは中枢に近いところまで達していたと……。


「お前は……」


感情が大きすぎて喉につかえる。お前はシュヴァリスト理想図書館にいたのか。ブルームを撮影していたのはお前か。竜皇軍で何を見てきたんだ。なぜ僕の救難信号を無視していた。お前は今どこに……。


球体の中、竜の首がこちらを見る。


「ぐっ!」


首が青い球体から出てきて、口腔から閃光を放つ瞬間に回避する。閃光はビルの側面をわずかにかして天へ抜ける。


「ナオ! ビルってやつを背にしな! こいつらはビルを撃てない!」


ウィルビウスが叫ぶ。なるほど、ここでビルを撃てば自分に倒れかかって来る可能性がある、だから撃てないのか。


「マエストロ! これだけの竜を作ってお前は何を企んでる! 竜皇に取って代わる気なのか!」

「竜皇か、あれは強すぎるのだよ」


マエストロはどこから通信に割り込んでるんだ。これは超光速通信シグナルではないから近くにいるはずだが、ベーシックのレーダーでは通信波を探せない……。


「時の彼方より来たれる星渡る竜、煌星竜エリジオン。あれは強すぎて悪役にも相応しくない。部隊の全機体を動員するには時間のずれが大きすぎた。あのお嬢さんには期待できそうだが、やや荷が重すぎる。しかも甘さを捨てきれていないからな。竜都ヴルムノーブルを戦場にする覚悟は無いようだ」

「何を言っているんだ……?」

「知っているか? 隊長機は他のすべての小隊機とリンクしている。お前の見てきたことはすべて私も見ている。お前が西方辺境で野良の竜を倒したことも。ベア少尉がこの星で土に還り、お前がその機体を受け継いだこともな」


……!!


ではこいつは、この星で僕らのことを。


いや、しかし、それではこいつは、何十年、あるいは何百年も。


「肉体の老化が気になるか? この星では大した意味を持たんだろう。ブラッド少尉のように不死に近づいた例もある」

「な、なぜだ、なぜただ見ていた。僕たち小隊機はいずれも無惨な屍を残していた。焼け焦げていたり、沼地に浸かっていたり、半身が失われているものもあった。モニターしていたなら、なぜ助けなかった」


竜の首は生まれ続けている。衛竜ヴリトラたちは生まれるそばからそれを斬ろうとするが、百戦百勝とはいかない。暴れる竜の首に噛み砕かれる者もいる。


何よりこいつは無尽蔵に生まれ続ける。矢は尽き、槍は折れつつある。ベーシックの持つ石の剣も、ココの持つ長柄の斧も首を飛ばすが、これではきりがない。


「屍が無惨であることは大した意味を持たんだろう。肝心なのは生き様だ。どいつもこいつも魅力的だったぞ。とある村を竜の群れから守った男もいた。この兵器ベーシックはこの惑星に相応しくないと、自ら機体を破壊した男もいた。尺としては短いが、まあなかなか感動的な短編映画だったな」

「お前は何を考えている! お前がこの星でやっていることは何だ! 一貫性のある動機があるのか!」

「肉体など、ドラマを生み出す小道具に過ぎん」


「ナオ様、見つけました」


シャッポからの通信、全方位にモニターに割って入る。


「建造物への電波の干渉から探しました。通信はあの球体の中から発せられています」


中だって……。


そういえば、何か見える。

水晶のくずが集まったように見える、半透明の星型球体。その中心部に、白い機体が……。


「私は魅力ある人間たちの生き様が見たかった。だから青旗連合ブルーフラッグとの戦争に志願したのだよ。それなりに迫力あるれたが、ドラマとしては今ひとつだった。それもそのはずだ、ある意味では敵など存在しなかったのだからな。我々は自己進化のために戦っていたに過ぎん」

「敵など存在しない……?」

「私に声がかかったことは天啓だったのだよ。お前たちは選ばれたのだ。ただ一度きり再現できた星渡る力の担い手として、竜の王を倒す勇者として、私の画題となるドラマの役者として、そして」


球体が、動く。


巨大な球体をさらに水晶片が覆っていく。無から湧いて出るかのように大量に、無数に、絡みついて形を成していく。



「この最強の竜の、星渡る物語の見届け人として、だ」



途轍もない異様。


雲が集まって形を成すように、数十億もの水晶片がやつに集まっていく。


竜の首、光条竜ザウーラはそれに巻き付いて砲台となり、熱圏はやつを中心に固定される。


成長を続ける。周囲のビルがなぎ倒され、さらに上へと浮かび上がる。全長は300メートル以上。

熱圏はさらに広がり、衛竜ヴリトラたちは半ば茫然とそれを見上げる。


あの姿は。

先端に衝角を持ち、複数の砲門を持ち、旧時代の戦艦のような形状、あれはまさか。


「……ユピテル級巡洋艦!」

「分かるかナオ少尉、お前が巨人のまじないと呼ぶ力だ。極めればこれだけのものを創れる」


マエストロ、やつはこの星でどれだけのものを見てきたんだ。どれだけの力を身につけた。竜の力も、巨人のまじないも身に着けたのか。


一つだけはっきりしていることは、こいつはもはや上官ではない。

その精神はもはや人間のものとも思えない。倒すべき敵だ。


そのたくらみが僕の理解を超えているとしても、僕はこいつを討たねばならないのだと――。


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