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ギガントレリクス ~機動兵器は天より堕ち、石の巨剣を得て竜を討つ~  作者: MUMU
第九章 電影の巨匠、雷火の街、竜の武人と相争う
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第五十話


巨木の森か円柱の並ぶ地下道か、縦長の構造体で視界が制限されている。一つ一つの高さは80メートル以上はある。


「なんだこれ……外から見た時は何も……」


そして気づく、この現象には見覚えがある。


「ナオ様、眩光竜ジャナンダです。その場所の周辺一帯を隠していたようです」


シャッポの声。光をねじ曲げ、無味乾燥な映像を映し出す竜、そいつの仕業か。しかしこのビル群は……。


「……? これ、ビルじゃないぞ、それらしく削ってある岩だ」

「ビルってなんだい?」

「えーと、ビルディングの略、石でできた高層建築物だ。中に人が住むスペースが必要なので、中空の構造になるんだ」


この岩のビル。おそらく元々は岩山だったものを、何らかの手段で複数の直方体に削り上げたのだ。ある一面が格子模様に掘り込んであるのでビルに見えるが、細部はやたらと荒削りである。


「名もなき巨人よ、ご苦労だった」


声が響く。機体を向ければ、ビルの壁面に片腕片足だけで取り付いている人型のシルエット。


「お前は! 衛竜ヴリトラのアイガイオン!」

「やつの光術には手を焼いていたところだ。囮になってくれたことはねぎらわねばならんな」


人を見下した調子で言う。後をついてきてたのはこいつだったのか。しかもココの言によれば、他に何体も。


「……何が目的だ」

「ここにいるのは竜使いの裏切り者」

「何だって」

「竜都ヴルムノーブルの工房にて竜をつくっていた男だ。数年前に脱走したまま行方知れずだったが、ここへきて北方辺境で動き出したことが確認された」


アイガイオンは僕の方を見ずに言う。それは何かしら義務的な様子だった。僕たちにそれを聞かせる必要があると判断したのか。


「やつが最後に創っていたのは光の息を吐く竜、光条竜ザウーラである」

「光の息……? まさか、あれはKBハドロンレーザーだ、あれを生物が使うというのか」

「ふ、矮小なる乗り手よ、少しばかり機械に通じるからといって、世のすべてをったつもりか」

「ぐ……」

「あやつは光条竜ザウーラを生み出したが、量産は難しかったと聞く。いざというときの竜都の護りとして配備されていたが、やつはそれを奪って竜都から消えた」


竜都を護る竜……数キロの距離から大出力レーザーを撃てるならば、確かに途轍もない怪物だ。戦略的価値もあるだろう。


「この暖気もその竜のせいなのか」

「違う、これは「太母」だ」

「太母……?」

「北方辺境のどこかにいる、熱を操る竜である。天然の竜使いはそやつに出会って竜を預かる」

「天然の……?」

「名もなき巨人よ、此度は見逃してやろう、くこの地を離れよ」


アイガイオンはビルの向こうに消えてしまう。


「ココ、太母というのは?」

「ああ、そういえば昔、あたしらの集落に来た竜使いがそんなことを言っていたな」


ココはビルの影に身を伏せ、油断なく周囲を警戒している。


僕もそれに習う。周辺警戒はセンサーによって半自動化されているので、肉眼で警戒する兵士はあまりいない。だが戦いならばココのほうがベテランなのだ、その動きを真似ておこう。


「そいつは徴税官でもあるから無下にはできなかった。酒ぐせの悪いやつでね、強いやつを山ほど飲ませたら太母の話をしたのさ。本来の竜使いは太母から竜を預かる。太母の言葉を得て竜を操る。なんかのたとえ話だと思ってたけどね」


……。


太母、言葉をそのままに受け取るならば、竜たちすべての母とでも言うのか?


それは熱を操り、竜使いは太母に通じている。


ココはゆっくりと移動を開始する。このビル街のような地形、身を隠すのに向いているが、長時間同じ位置にいることを嫌ったのか。


「竜使いには天然とか人工とかがあるのか?」

「さあねえ、だが確かに竜皇の抱えている竜使いは多すぎると思ってたよ。何らかの手段で数を増やしてるのかねえ」


レーダーには影が見え隠れしている。どうも反応が曖昧で判然としないが五体以上はいる。この入り組んだ地形でドップラーレーダーは期待できないが、温度も音波もごく僅かだ。衛竜ヴリトラたちの隠密技術が高いということか。


「竜を操る技術があるってことか」

「そりゃあ、あるだろうさ。竜は人間には手懐けられない。甲竜ベガントがぎりぎり家畜化できるだけさ」


そうだ、ある。


僕はそれを見ている。シールの使っていた巨人のまじない。


その名をかざせディ・ダムル・ぬもエル・のは伏せよエイビス


名前を持たぬものを操るまじない、あれはまさに竜使いの技ではないのか? 


だが竜使いは巨人のまじないを知らなかった。竜使いには彼らだけの世界観があり、彼らだけの魔法があったのだろうか。


(……あの石板の街で聞いた話)


(あの無数の石板は一つの生命体であり、自己を癒やす力を持っていた。巨人族ザウエルは、それをまじないの言葉に変えた……)


(では巨人族は、竜を操る技も……)


「太母とは……二つの力を持つのかな。熱を操って熱圏を生み出し、竜を操る」

「別におかしいことじゃないさ、人間だっていろいろ特別なことができるだろう。長く歩けるとか、石を投げられるとか、他の動物じゃあなかなかできないよ」


まあ確かに。


カメレオンだって保護色、全方位に動く目玉、伸びる舌という能力を持つ。能力が一つの竜に一つという決まりがあるわけでもない。


「熱を操る……」


何だろう、その言葉は妙に気になる。熱力学第二法則に矛盾するからだろうか。しかし竜たちの驚愕の能力はさんざん見てきた、今さら驚いてはいられないが」


「ナオ、何か来るよ」


ココが言い、僕は身構える。背中から剣を抜いて正面に構える。


ここには風はない。24度という適度な暖気だけがあり、よく見れば地面には草まで生えている。


そして数十メートル後方には極寒の猛吹雪。現実感を喪失しそうになる眺めの中で、何か、迫るような、気が……。


のっそりと現れる、ビルの隙間から、頭部が。


火蛇竜サラマンドラにも似た、棘と角を放射状に生やした頭部、奇妙な遅さで認識される。


それは高さにして10メートル。口腔は頭の端から端まで伸びている。ベーシックに噛みつけそうな大きさのそれは。青い宝石のよう。


その角と言わず、牙と言わず、鱗と言わず全てがブルーに包まれている。


角は水晶のように透き通っておりマリンブルーを内包する。


鱗は青みがかって青磁器のよう。


口の端からのぞく牙は氷山のような淡い青、美しいカーブは由緒ある宝剣のごとく。


この世のものとは思えない美しさ。極上の美術品のような。


僕の視線がそいつに吸い込まれる。青一色の極彩。あらゆる青が、美しい鋭角が、僕の意識に食い込んでくる感覚。


そいつは僕たちを見て、喉を青く光らせる刹那、がぱりと口を開き。


「ナオ! 跳べ!」


意識が急浮上。レバーを引きつつペダルを一杯に踏み込む。右側に倒れ込むような姿勢になる一瞬、脚部が爆発するような衝撃。ほぼ真横に飛ぶ、元いた空間を青い光が薙ぐ。地面が爆散する。


「ナオ! 大丈夫かい!」

「だ……大丈夫だ。やつは首を伸ばしてきた。全体はかなりの大きさのはずだ」


全身が総毛立つ。今の一瞬、ココの声がなければ死んでいた。


今、僕はあいつに意識を呑まれた。

美しかったからではない。ヘビに睨まれたカエルのように金縛りにあったのだ。


他の竜とは違う。何かしら非生物的な恐ろしさを感じて硬直したのだ。


くそっ……! 竜に怖気づいてどうする、今までも数え切れないほど切ってきただろう!


ビル群の中を走る。どれもこれも巨大なものだ。小さいものですら軽く地上30階ほどの高さがある。


区画は……これを町のジオラマだとすればだが、かなり入り組んだ作りになっており、直線的に見通せる場所が少ない。敷地の幅が広いビルや三角地のビルもあり、上空から見れば無秩序さを感じさせるだろう。


やつの首が見えた、青白い鱗のある首がビルの隙間を横断している。


あらゆるヴァグラン・竜をエル……」


破砕音。

無意識が反応する。剣を引きつつ足を前に出し、首の下をスライディングで抜ける。

背後からの青い閃光。


数棟分のビルを竜の閃光が吹き飛ばしたのだ。立ち止まって斬りつけていたら半身を吹き飛ばされていた。


スラスターをふかし素早く反転。

そして見た。首が三つ。


長大な首がどこからともなく伸ばされ、その先端に宝石細工のような、荘厳なる竜の首が。


「――回避を!」


イオンスラスターを全開にして飛翔。ビルの隙間に潜り込む瞬間に青の閃光。基部を吹き飛ばされたビルが破滅的な重量をともなって倒れ、隣のビルにもたれかかる眺め。


「ココ! 竜は少なくとも三体いるぞ!」

「違うよナオ、あれは一体の竜だ、首が複数あるんだ」

「何だって!? そんな生物がいるはずない!」

「間違いない。あいつらは同じ個体だよ。呼吸というか、生物としての間の取り方が同じだ」


ココはそんなことを観察したというのか、あの短い時間で……。


「ナオ、やつらはサーモセンサーでは捉えられない。首を一つ二つ斬っても意味がない。本体を探しな」


なるほど、この熱源反応が分散してる感じ、竜が長大な首を張り巡らせているからか。この見てくれだけのビル街に。


音声データを見れば、あちこちでビルの倒壊するような音が生まれている。


衛竜ヴリトラたちも戦っている……」


これはビルに似せた岩塊だから、本来のビルよりずっと中身が詰まっている。

簡単な加工ではないはずだが、この半径500メートルの熱圏にいったい何棟のビルがあるんだ。


いや、待てよ、そうか熱圏の形状は円形なのだ。


「シャッポ、熱圏の中央に向かう。こちらからは熱圏の全容がモニターできない、シャッポから指示を出してくれ」

「分かりました、衛竜ヴリトラたちにも気をつけて」


そして視界にいくつかの首が見える。頭部の一つが僕を見つけ、喉の奥を光らせると同時にビルの影へ踏み込み真上に跳躍。ビルの基部が貫かれ、ビルの側面を蹴って飛ぶ。


「ナオ様、熱圏の範囲はおよそ530メートル。内部にある建造物に似た岩塊はおそらく120以上です」


いったいどこの誰が、なんの意図でこんなものを……。


そして万が一、ビル街から上に出れば即座に狙い撃ちされるだろう。この熱圏に接近する時、狙撃がだんだん打ち下ろしになった理由がわかった。ふところに入ってしまえば狙撃できないのか。


左方に気配。


岩塊を突き破り現れる竜の頭部。宝石のような牙を突き立てんと迫る姿。


あらゆるヴァグラン・竜を断つ光をエル・ソルズレイ!」


抜き放つ光の剣。横薙ぎにする向こうで竜の頭を、青白い首を、ビルディング数棟分の岩塊をまとめてぶった斬る。斬られた岩塊は横滑りして落ちていき、凄まじい破砕音が伸び上がってくる。


だが血は出ない。竜の頭部は水晶ともガラスともつかない質感。こなごなに砕けて落下していく。


「何だこれは……やつは無機物でできているのか?」

「ナオ、まじないを使ったかい?」

「ああ、だがCエナジーを浪費した。あまり無駄遣いできない」


Cエナジーはいつもと同じくブロックに分けて隔離してある。一撃で使い果たすことはないが、ほんの数回しか撃てないだろう。


竜の首はいったいいくつあるんだ。熱圏の中央に向かうほどに数が増えるように感じる。


「名もなき巨人よ! 止まれ!」


声がかかる、それは衛竜ヴリトラ、アイガイオンか。


他のビルよりやや低い棟の屋上にいて、すらりと立って僕に声を飛ばす。


「立ち去れと言ったはず、この竜は我らの獲物だ」

「お前たちの命令など聞かない! それにベーシックにはもう名前がある、探求者アグノスだ!」

「ほう……」


がし、と岩塊に掴まる影がある。それもまた衛竜ヴリトラ。次から次と、アイガイオン以外に五体が僕の視界に現れる。


「これほどの数が……」

「アグノス、貴様の新しい名に免じて機会をやろう、この私と一対一で立ち会え」

「何だって?」


アイガイオンは腰の後ろから獲物を抜く。銀色に光る偃月刀、以前より装飾が増えて禍々しい印象になっている。

確か、あの偃月刀はベーシックの浸潤プレートにも傷をつけるはず……。


「断る、そんなことをしている余裕はない」

「竜の首は我らの部下が相手をしている。だが本体は攻めあぐねていてな。お前の横槍は邪魔なのだ」


攻めあぐねる……本体にも何かあるのか? 口ぶりからして、こいつらは既に本体を見つけているようだが……。


「さあ降りてこいアグノス! そして巨人の乗り手よ! 武人の端くれならば誇りを見せろ!」


そして僕は――。



A、いいだろう! 一騎打ちでも何でもやってやる!


B、断る! 軍人のやることじゃない!


さあ主人公の答えはどっちなのか

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― 新着の感想 ―
[一言] ロマサガ味のある選択肢、ナオ君ならBBBBBB  でもサシャの旦那が怒っちゃうかな。
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