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ギガントレリクス ~機動兵器は天より堕ち、石の巨剣を得て竜を討つ~  作者: MUMU
第一章 若き乗り手、運命の巫女、時空の彼方にて邂逅す
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第五話



「なっ!?」


火球だ。超高温を示す火球が迫る。逃れようとする瞬間、全方位モニターに民家が。


かわす。脇を行き過ぎる灼熱。脚部サスペンションを最大にして民家を飛び越える動き。

そのときに流れる警戒警報。無意識の操作でチェーンガンを離断パージ。ガンベルトに装填されていた25ミリ成形炸薬弾が誘爆する。


衝撃と熱量。各部の駆動系が緊急除熱を行う。背後を見れば森の一部が猛火に包まれている。おそらくは着弾地点から5メートル隔てた生木すら燃えだす熱量。


「ば……馬鹿な。今の火球は2500度を超えて」

「ナオ様!」


はっと気づく瞬間、全方位モニターに踊る影。竜の長大な尾が見えた瞬間。モニターにノイズが走って凄まじいGが全身にかかる。


村を囲む柵をなぎ倒し、立木を根本からえぐり返して吹き飛ばされる。意識が消し飛びそうになる。


だあん、とトラック数台分の土砂を撒き散らして背中に強い衝撃。ダメージメッセージがモニターを埋め尽くす。


「う……ぐ、そんなことが、2.4トンあるこのベーシックを……」


視界に赤が見える。流血だ、どこかで頭を打ったか。

膝の上に倒れていたシールを見る、息を荒くしているものの無事だった。僕は駆動系を再起動させてベーシックを立たせようとする。


「ぐ……しかしどうする、チェーンガンはもうない。他に使える武装もない。格闘でやつに勝てるか……」


そのとき、視界にひらめく影。

あの剣だ。巨人がもたらしたという石の剣。こんなところまで飛ばされたか。


「……」


いいだろう、何でもやってやる。

ベーシックがその剣を掴み、台座から引き抜く。台座の石が削れて石粉がこぼれる。


形状を詳細分析、側面はかなり鋭角だが、刃がついてるとはとても言えない。


竜が迫る。僕はベーシックを立ち上がらせる。果たして、こんな長大な武器をベーシックで扱ったパイロットがいただろうか。

霊感にも似た感覚で機体を動かす。両足で地面を踏みしめ、剣を下段腰だめに構える。下から斜めに跳ね上がる軌道。迫らんとしていた竜の鼻先をはじく。


「むっ……巨人の剣か、くだらぬ、ただの石造りの剣で竜と戦うか」


悔しいがやつの言うとおり、だが人間の乗ってる竜だ、さすがに距離を取った。


とことんまでやってやる。首が斬れなくとも、この剣が砕けるまで……。


その時、全包囲モニターの視界が数メートル下がる。

ベーシックが膝をついたのだ。次いでモニターが何段階も暗くなる。


「! どうしたベーシック!」


とっさに剣を杖として耐える。各部の駆動系もエマージェンシーを上げている。


そして気づく。それは戦いの最初からずっと表示されていた警報。燃料減少ローエナジー


「……Cエナジーが、0.00%」


……。


万事休す、か。


竜はまだ剣を警戒しているのか、近づいてはこない。だが向こうには攻撃手段があるのだ。


竜の喉がふたたび膨らもうとしている。内部に熱をたくわえる気配。もはや赤外線センサーも機能していないが。


「ナオ様……」

「ごめんよシール。君を助けたかったが、もうベーシックは動けない。すべての力を使い果たしてしまった」


無念だ。

何事も成せないまま、こんな星の海の果てで。


「……ナオ様、私は心の底から祈ったことがなかったのです」

「え……?」

「儀式の際も、いつも祈る真似ばかりでした。でも最後の最後は、あなたのために祈らせてください」

「……そうか。ありがとう、シール」


やるだけはやった。

戦いの果て、愛した女性と死ねるなら、それはそれで……。


「……何だ?」


気付く、急に音が止んだ。エマージェンシーコールの大半が鳴り止んでいるのだ。燃料減少ローエナジーの主警報までも。


「Cエナジー充填率、3.5%……!?」


全方位モニターは回復している。火とともに竜が吼える。迫りくる灼熱の滅び。


「回避!」


ベーシックが動く。自分で自分を飛ばすような薬圧サスペンション跳躍。村から離れる方向に跳ぶ。


「うまくよけたか、次は外さん」


これは。


シールは目を閉じ、一心に祈っている。彼女が関係しているのか? なぜこんなことが。


(……巨人族、ザウエルの伝説)


巨人は祈りに応じて来た。


そして竜を滅する武器と、不思議な術の数々を残した……。


「! 野良の竜を倒した日だ! あの日の会話ログを表示!」


三度みたび、巨竜は火を吹かんとしている。


撃ち出す。これまでで最大、最速の一撃。僕は外部スピーカーを起動させ、叫ぶ。


炎の厄災ゼルド・は盾の前に散るアシュ・ヴァーニス!」


瞬間、ベーシックの腕を包み込む光。竜の火球を受け止め、一息に握り潰す。


「なんだと!?」


竜使いは驚愕。そして隙を逃さずベーシックが走る、これ以上一手たりとも行動させない!


あらゆるヴァグラン・竜を断つ光をエル・ソルズレイ!」


光が。

石の巨剣を包み込む光。それは闇の世界に生まれた裂け目にも似て、彼方から無限の光が溢れ出るような輝き。


振りかぶる。竜が動くより早く、驚愕に目を見開く竜使い。



一閃。



竜使いの影を絶ち、火蛇竜サラマンドラの巨体を煙のように斬り裂いて。


そしてオーロラのような光の波が西の彼方、東の彼方へと突っ走る、世界そのものを斬り裂くかのように――。





「ど、どうか……命だけは」


村長、カンヴァスは平身低頭、体を丸めて怯えている。僕はどんと土を踏みつけて言う。


「あの竜使いはこの村に来なかった」

「ひ、ひい……」

「あの石の剣は崩れてきたので、砕いて捨てた。誰かが来たらそう報告しろ。全身全霊で偽り続けるんだ」


村の広場にて村長を囲む女性たち。村長が僕を殺そうとしたことを知った彼女たちは、しかしまだ素朴さを残していた。苛烈な怒りは持たず、ただやるせない視線を村長に向ける。


「村の女性たちにも、お前の味方は一人もいない、そう心得ろ……」

「は、はい、何とぞ……」


竜使いを倒してから二日。


僕はベーシックを使い、起きかけていた山火事を消し止め、破壊された村を直し、ベーシックや火蛇竜サラマンドラがここにいた痕跡を消した。


完璧とは言えないが、まあ、あの竜使いを誰かが探すとして、その人物のやる気次第だろう。


そして僕とシールは空を飛ぶ。眼下で村の女性たちが手を振るのを見て、向こうから見えないとは分かりつつも手を振り返す。


竜皇を止めなければ、またどこかで不幸が繰り返される。

ベーシックで戦える相手かは分からない、だけど行動しなければ。軍人として、戦士として。


「シール、まずはあの竜使いの本拠地に行く。村の男たちもそこにいるなら解放するよ」

「はい、ご案内できると思います」


やはり姿勢制御用のイオンスラスターでは速度が出ない。機体を支えるために出力の多くを割かねばならないからだ。


「それと……ごめん。君が乗ってないとCエナジーが補充できないみたいで」

「いいんです。お役に立てて嬉しく思います」


他に場所がないとはいえ、ずっと膝の上というのは色々な意味で良くない……。コンソールを整理して彼女の座る場所を作らねば、なるべく早急に。


なぜシールの祈りがCエナジーとなるのか。


巨人の残した術はどのような原理なのか。


巨人の遺物ギガントレリクスは他にもあるのか。


そして竜使いたちの王、竜皇とは……。


考えることは多く、探すものは多そうだ。大変な旅になりそうだけど、シールがいれば……。


「見てください! 竜です!」


シールが指差す。その先には空を飛ぶ竜の群れ。エイのような姿をした赤に緑に青に紫まで、色彩豊かな群れが飛んでいた。


「すごいな……あれは何ていう竜?」


「え……さ、さあ、たぶん、幸運の兆しの虹竜コアルドか、雲を食べる彩雲竜シエルトリム、それとも回遊竜フェバーユでしょうか……」

「そうか……長いこと目が見えなかったからな、竜を見た経験はあまりないのか」


僕はシールを見て、明るく笑ってみせる。


「じゃあ僕と同じだ」

「……あ、そうですね! 同じです!」



旅が始まる。

戦いの旅か、探求の旅か。



それとも、まだ見ぬ竜に出会う旅か……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ピンチからの大逆転など、王道且つ熱い展開や石の剣やシールの目など張られた伏線の解消も素晴らしかったです。 [一言] 某掲示板のスレでさらさらされていたところから来ました。 ガンガンティアや…
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