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ギガントレリクス ~機動兵器は天より堕ち、石の巨剣を得て竜を討つ~  作者: MUMU
第八章 数多の獣人、孤高の賭博師、精神の果てを追い求む
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第四十三話


「ふむ、聞いていたとおり石板ばかりだな、奇っ怪な眺めだ」


レオは特に一枚一枚を調べることもなく歩き回っている。調査は自分の専門ではないと暗に示すようだ。


「うーん、獣人の言語との類似もあらへんなあ、なんかただの波線に見えるんやけど……」


キャペリンと数人の草兎族ラビリオンは石板を調べている。一人は精巧にスケッチを取り、一人は一部を砕いてサンプルを集めていた。


「キャペリン、この星に考古学者とかはいないのかな」

「おるで、でも趣味でやっとる人ばっかりやな。ヒト族はあまり辺境に出てけえへんし」


かつて西方辺境にあったシールの村、あのようなヒト族の開拓村はかなり特殊な存在らしい。あの村には石の剣が伝わっていたから、村を形成する程度の人が居付いたのだろうか。


もちろん竜皇の徴兵のこともあるだろう。男手が取られては竜のうろつく辺境には住みにくい。この50年余りで、ヒト族はどんどん大陸の中央に固まっていったらしい。


「……竜皇は何がしたいんだ。人の版図をどんどん狭めて、竜都ヴルムノーブルだけに集めて」


いや、今はそんなことを検討している時ではない。作戦行動中だ。


「キャペリン、僕の方でも調べてみる。竜が出たらインカムで呼んで」

「了解やで」


全センサーを展開。偵察用装備は積んでないので最低限のものだが、さまざまな機械の眼が周囲を観測する。


電磁波観測、磁気探査、サーモスキャン……。


「ん?」


遺跡の一角から青い柱が立ち上ってる。冷たい空気が上昇しているのだ。


「何かある。レオ、君の位置から西へ25歩」

「む、敵の隠れ家か」


レオは指定した位置へ移動し、積み上がっていた石板を軽々とどかす。青い柱の勢いが増す。


「これは……地下があるぞ。穴が空いている」


レオのつけたインカムから映像が来る。なるほど確かに穴だ。石板が積み重なって階段のようになっている。穴の上から石板を積んで隠していたわけか。


地下は温度が安定しているので、暑い土地に深い穴を掘ると冷気が出てきたりする。周囲の気温と1、2度の差だが、赤外線を捉えれば見えるのだ。


「穴は直径5メートルほどだ。何百枚もの石板で埋まっている。これから掘り起こす」

「レオ、それなら船にミニクレーンがあったはず。数が多いなら爆薬で吹き飛ばすことも考えないと」


石板が飛び出す。

重量35キロの石板が次から次へと放り投げられ、みるみる穴が深くなっていく。数人の獅子頭サジャがどんどん放り投げているのだ。


「ちょ、ちょっと獅子頭サジャの旦那さん、危ないで、頭を守らんと!」

「要らぬ心配だ! 我らのタテガミは大鎚の一撃をも跳ね返す!」


さすがはライオンの獣人……すごい眺めだ。噴水のように石板が出てくる。


「さらに地下があるぞ!」


インカムからの映像でこちらも確認できた。地下空間だ。穴はある深さから階段になっており、さらに下へと伸びている。

ベーシックのスキャンで見つけられないのは深さもあるが、この石板のせいだ。X線を当てると分かるが、この石板は土中にも埋まっている。様々な角度で存在してるので、ちょうど電波暗室のように電磁波を拡散させるのだ。


「レオ、階段の直径はどのぐらい?」

「およそ2メートルほどだな。左右に石板が積んであって少し狭いが、歩くには問題ない」


2メートル……ベーシックでは入っていけないな。


「地下を調査する! 者ども行くぞ!」


レオはずんずんと降りていく。後からは獅子頭サジャの獣人が二人ほど続いた。


「あ、レオ待ってくれ、まず十分に調査をしてから」

「そんな暇はない! こうしている間にも竜皇の軍勢が来ぬとも限らんのだ!」


デル・レイオ渓谷で竜皇軍を撃退してから2日も経ってない、そこまで焦らなくてもいいと思うが……。

しかし現場での指揮官はレオなのだ。僕に命令権が無い以上、どうしようもない。


「お姉ちゃん、どうしたらええんやろ」


キャペリンが上空の戦艦に指示を求める。


「百年以上は経っている遺跡ですからそうそう崩落はしないでしょう。念のためベーシックはうかつに動かないでください、レオ様の報告を待ちます」


と、レオの視界を表示していたウインドウにノイズが走る。信号が減衰しているのだ。


インカムの大きさだと超光速通信シグナルパスが積めないので電波通信だ。やはり減衰が早いのか。

キャペリンがインカムをとんとんと叩く。


「ナオ、なんかざざざって音が混ざってきたで」

「ベーシックの頭脳を使って補正する。他の調査隊にはベーシックを中継した音を送るよ。だけど本当に長い階段だな、すでに30メートル以上の深さか」


通信はデジタル信号であり、ベーシックの頭脳は絶え絶えになっている信号を補正して補完して、意味のある情報へと変換する。


「地下の様子が知りたいな……。せめて軽粒子ニュート探査スキャンが使えれば」

「できるんだよ」


ウインドウが割り込む、ドワーフの一人だ。


「できるの?」

「さっき見つけて取り付けといたんだよ。権限付与コードも見つけたからナオの機体に送り込むんだよ」


多環境戦闘用機動兵器であるベーシックにはデバイスが豊富だ。それはアイカメラも同じであり、あらゆる局面に応じてアイカメラを載せ替えることができる。


金額で表現するなら、一般兵の機体に装着されるカメラアイが20万クレジットほど。隊長機や強行偵察兵(テクトスカウト)などが持つハイエンドなものは8000万クレジットを超える。


機体を確認。カメラアイのグレードが二段階ほど上がっている。素粒子の衝突をとらえる軽粒子(ニュート)探査スキャンが使えるようになっていた。


「よし、これでかなりの深さまでスキャンできるぞ」

「なんや便利やなあ、そんな良いカメラやったら最初からつけとったらええのに」

「一般兵は装備を制限されてるんだ。できることが増えすぎると小隊行動に乱れを生むからね」

「……ううん? そうかなあ」


キャペリンは納得いかないようだが、これは星皇軍で培われたノウハウだ。超光速時代シグナルエイジ以前の軍隊に例えるなら、前線の兵がフルの電子装備を積んでいても重くて歩けない。兵士には身軽さが必要なのだ。それは重量という意味だけではない。


さて、そんなことはともかくスキャニングだ。太陽から降り注ぐ無数の宇宙線、電磁波、陽子、あるいは物質それ自体が放出している自然放射線。それはほとんどは大地を貫通して宇宙に散らばっていくが、少数は石に当たって光に変わる。

そのわずかな電磁波を捉える。4次元的に、演算補正をかけて……。


「何だ……これ」


それは地下の街。


ドーム状の空間にビルが立ち並んでいる。大きなもので15メートル以上ある角柱状の物体だ。


詳細な形状は積み上げられた石板。まさか、このビルの一つ一つが石板の塔なのか。


「妙な場所に出たぞ」


レオが言う。補正をかけてもだいぶノイズが走っている。

映像の方はと言うと、自動で補完しているために絵画のような質感だ。ビルに似た構造体は積み上げた石板にも見えるし、本当にただのビルにも見える。一コマごとに書き換わっているのだ。


「何だこれは、石板が積まれている」

「レオ様、何かあります」


部下の一人が声をかけたようだ。レオの視界が振られると、そこに石板で作られたテーブルと、手のひら大の機械が置かれている。機械は灰色の弁当箱にも見える。補正しなければほとんどモザイクにしか見えない映像だろう。


「ヒト族のナオよ、妙な機械を見つけたぞ」

「持って帰ってくれ、調べてみる」


機械……ということは、この地下空間に小隊の誰かがいたのか? あるいは機械を作れる誰かが……。



――ああ失敗した。もう俺は何百年ここにいるのか分からない。



音声が。これは僕たちの言語だ。


「む、どこかのボタンを押してしまった、止め方がわからん」

「レオ、ちょっと静かに、音声を聞かせて」


この声は……。



――来る日も来る日も石板を削ってる。それに何の意味があったのか忘れちまった。いや違うな、覚えている、明確に覚えているんだ。考える気力もある。だが意味が失われてる。俺はなぜここにいるのかな、何かを言い残さないといけないんだが。



これは、ブルームだ。

ギャンブル好きの破滅主義者、よく仲間内で賭けをしては負けていた男。彼がここに?



――どうも駄目だ。満たされ・・・・ちまってる・・・・・。こんな記録を残す意味も感じないんだ。俺は賭けに負けたのかな。それとも勝ち続けているのかな。ああそうだ、忠告だ、聞きにくいのは勘弁してくれ、これを残すだけでも何百回しくじったことか。



――これもたぶん撮れてないだろうな。複製機で作ったテープがいくつかある。他のを聞いてみてくれ。ああ何だっけ、そうだ俺は無限に挑んで、敗れて、いやそうじゃなくて……。



ブルームは何を言っているんだ? 喋る言葉は脈絡がなくて迷走している。しかし朦朧としていたり、疲れ果てている感じではない。何か、とても面倒なことを行っているという印象だ。


「ヒト族のナオ、何か聞こえ」

「ちょっと待ってくれ、もう少しだけ」



――に、気をつけろ。



ひどいノイズの、混ざった声が。



――永遠を、司る、竜に、気をつけ……



それ以上聞けなかった。レオが機械を放り投げたからだ。


「おのれ怪物め! 獅子頭サジャの頭領が相手になるぞ!」

「レオ様! ここは我々が!」

「何だこいつ、こんなものが……」


怒号が乱れ飛んでいる。レオの大だんびらが振り下ろされる音。石板の柱が雪崩を起こす音。何かの・・・咆哮。


「レオ! どうしたんだ! 何かいたのか!」


ばきん、と音がして通信が途絶する。レオのインカムが外れたのか。あるいは邪魔に感じて自分で引きちぎったのか。


地下から轟音。大深度スキャンはずっと続けているが、何かもやもやとした映像しか見えない。


「ナオ! 何かスキャンできとるんか!?」

「何かいる……だが像が見えない。4次元的に粒子の挙動を観測する軽粒子ニュート探査スキャンは動体を捉えるのが苦手なんだ」


だが、この大きさは、おそらく10メートル近く……。


何もできない。

ベーシックが動いては落盤が起きる危険がある。救援を送るにしても遅すぎる。


やがて、スキャニングが安定を見せる。


地下の空間には、少し崩落を見せた石板の柱。地面に散らばるいくらかの石板。


それ以外には何もない。



動くものは、一つも映っていなかった。



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