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ギガントレリクス ~機動兵器は天より堕ち、石の巨剣を得て竜を討つ~  作者: MUMU
第六章 深淵の求道者、暗がりの竜、剣を巡りて闘争す
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第二十八話





その日のうちに旅支度を整える。

と言ってもシャッポが用意していた荷物をベーシックに背負わせるだけだ。木の骨組みで補強された背負い袋であり、数日ぶんの食料に水、キャンプ用具に医薬品などいろいろ入っている。


「しっかり行っといで、こっちは基地の警備体制を整えとくよ」


ココはといえば、彼女もいくつかの種族と話をしていた。会議をしていた人々と比べると大柄で強そうな種族が多い。


「それにしても、この星には知的種族がたくさんいるんだね……」

「そうかい? よその星のことは分からないからね」


断片的に聞く限りでは、ヒト族が最も多くて七割ぐらい。そのほとんどは中央に住んでいて大都市圏を形成しているらしい。それ以外の種族は人間とかかわりが深い者もいれば、存在すら知られてないのもいるとか。


星皇銀河ではいわゆるヒト族以外をほとんど見なかった。この違いは何なのだろう。


淘汰だろうか? 星皇銀河ではヒトが際立って成長し、それ以外の知的種族を保護対象として惑星に閉じ込めるか、あるいは殲滅してしまった。

心苦しい想像ではあるが、この惑星もやがて同じ運命を辿るのだろうか。

ヒト族以外がやがて殲滅される……それは恐ろしく、悲しく、それゆえに僕の中で現実感を結ばなかった。


「ナオ、ベーシックにも武器がいるだろ、持っていきな」


と言って用意してくれるのは剣だ。

巨人の遺物ギガントレリクスではない。鉄を打ち延ばした剣のような鉄塊。長さは2メートルほど。人間が使うなら特大サイズだが、ベーシックには短剣である。


「不格好だけどね、ないよりマシだろ。それとそのパイロットスーツとやらはまだ着るのかい」

「もう軍のネットワークに繋がってないし、これは元のスーツに似せて作ったレプリカだよ。ドワーフたちに作ってもらった」

「ふうん」


そんなわけで僕たちは探索に出かける。


イオンスラスターをふかして断崖絶壁を降り、川の流れに沿って谷あいを進む。そして川が崖の下に入り込む場所があり、そこへ入って下へ下へと向かう。


「この洞窟はなー、「帰らずの水時計」って呼ばれてんねん」


同行するのは若き草兎族ラビリオンのキャペリン。あとなぜか背負い袋の上にドワーフが何人かいる。


「さらさらって水の流れる音がするやろ? どこにいても常に聞こえてる。でもどこに流れていくのか誰も分からへん。ここは水の墓場であるとも、死の国にそそぐ川とも言われてるわ」

「死の国ね……だけど、落ちていくにも限界があるはず」

「もうちょいしたら分かるで」


キャペリンは洞窟の中を飛び跳ねるように進む。一歩の跳躍で5メートルあまりも跳ぶが、背囊にくくりつけたカンテラはさほど揺れない。膝のクッションで体重を吸収しているのか。

全方位モニターはくっきりと周囲を映し出す。電気的に感度を上げてるからクリアな映像だが、本来ならもう真っ暗だろう。

しかし……洞窟というイメージとは少し違う。じめじめした印象がないのだ。

それというのも生命がいない。コウモリもいなければコケすら生えていない。

原因はこの水だ。簡易分析にかけたが、この水は有機物がほとんど含まれていない。鉱泉なのか地下水が湧き出しているのか、極端な貧栄養の水であるため生命が住み着かないのだ。


そして至る。

それは広大な空間。そして巨大な柱。


とてつもなく広い空間が開けており、太さがまちまちの石の柱が見える。表面が溶けているように見えるのは石灰質を含むためだろうか?


「広い……」


超音波による反響探査。深さは2000メートル以上。空間は中型戦艦が丸ごと入るほどもある。


驚くべきは、ここはすでに地下150メートルだ。ここからさらに2000メートル下るとなると海抜よりも……。


そこで気づく、まだこの星で海を見ていない。海がない星もあるからあまり気にしていなかった。


まあ海がある星でも、内陸ならば海抜がマイナスになっている地形は珍しくはない。僕は慎重にイオンスラスターをふかす。


「キャペリン、ここを降りてくならコックピットに乗ってくれ」

「わかったで」


キャペリンを収容し、ゆっくりと下へ。ライトが照らし出すのは海溝へ向かう深海探査艇のような眺め。下方に向けたライトは闇に吸い込まれ、帰ることがない。


「この底はヒト族の調査隊が調べたことがあんねん」

「この穴を降りたの?」

「いんや、坂道を下っていけるルートがあんねん。そのルートだとこの穴の底に着くまで三日かかったらしいな」


人間の執念というべきか、ろくなクライミング装備も無いだろうに大したものだ。


「それ以降は命知らずの旅人がたまに潜る程度やった。獣人の物好きなやつとかな。そのうちの二人か三人かがこう証言しとる。洞窟の底で剣の撃ち合う音を聞いた。何かが走り回る音がした。あれは巨人の幽霊だろうってな」

「……」


各種センサーで探知、大きな音や機動兵器の反応はないが……。


いや、地下に、何かが。


「こんにちはなんだよ」


突然声がかかった。

見れば柱の一つ。祠のように横穴が掘られており、そこに座ってる鎚妖精ミルドワーフがいる。イオンスラスターで髪の毛がなぎ散らされていた。


「君は……」

「調査中なんだよ」

「ガラクタを探すんだよ」

「上から落ちてきたんだよ?」


あちこちの柱から出てくる。すると、ベーシックに乗ってた三人が急に飛び降りた。


「あっ! ちょっと!」


50メートルほど落ちたところで、ばさ、と小さめの落下傘のようなものを広げて降下していく。


「あんなものを……というか柱にでもぶつかったら危険だよ」

「なんかぎょうさんおるで」


脇にいたキャペリンが指摘。センサーを硫化水素検知による小型生物探査に切り替える。全方位モニターがモノクロになり、表示されるたくさんの輝点。


なるほど鎚妖精ミルドワーフたちだ。彼らがいるのは一見するとゴミの山、大量の廃材の上にいる。


「君たち、ここで何してるの?」


穴の底へと着地。踏みしめるのは金属であったり木材であったり石材であったり。


形状分析にかける。群衆の中に武器を持っている者がいないか見つけるためのシステムだ。

どうやら、積み上げられているのは建築物を解体したもの、小型の船、用途不明の道具。そして……金属の板とか端材のようなもの。


「洞窟で集めてたんだよ」

「これとか芸術的な形なんだよ」

「シックでアーバンなスピリチュアなカルカチュアなんだよ」


なんか適当なこと言ってるけど、これは確かに文明の産物だ。


鉄材だけではない。何らかの合金や樹脂のようなものもある。この星にそんな文明が?


「キャペリン、あれを作り出せるような、優れた科学力を持つ種族がいるのか? それとも中央……竜都ヴルムノーブルでは普通のことなのか?」

「ウチも知らへんよ。堕天蝶フォールンってやつやろ」

堕天フォールン……?」

「知らんか? 古い遺跡とかに、その時代ではありえへんような複雑な仕組みの道具が出てくることがあってな。きっと天の国から堕ちてきたんやってことで堕天蝶フォールンって呼ぶんや」

「ああ、オーパーツのことか……」


……しかし、僕の知るそれは後世の人間の捏造であったり、単なる勘違いだったりする。例えばあるウミユリの化石はネジにそっくりに見えて、これを古代のネジだと勘違いされた例もあるとか。

稀に、本当に考古学的に画期的な発見だったりもするが……。


「ナオやんは地層って分かるか?」

「ナオやんって僕のこと? まあ分かるけど」

「大地っちゅうのは、少しずつ成長するんや。天から降るわずかな砂が降り積もってだんだんとカサを増してく。そして古い土地が地層となる」

「その理解は僕と少し違うけど……まあ、そうだね」

「だからこういう縦穴には大昔の大地が露出してる。ウチらの爺ちゃんの爺ちゃん、その何百代も前の爺ちゃん、そんな古い時代のものが出てくるんやな」

「……」


……違う。


すでに地上から2500メートルの深さ。この深さで古代遺跡が出てくるなどありえない。

僕の知らない星だからではない。仮にこの惑星で数千万年前に文明があったとしても、鉄や木材が残っているはずがない。


これは何か、もっと違う理屈でここにるのだ。


(……ストリングシフト兵器)


僕をこの惑星に飛ばした光。異なる銀河間を渡る扉。時空すら捻じ曲げる超常的な現象。


あれが関係しているのか? この惑星に過去に何度も物質を送り込んだ?


「なあナオやん、どしたん? ウチと一緒やからって変な気い出したらあかんよ」

「そういうのじゃなくて……」


その時、ブザー音が。


「?」


コックピットからじゃない。ゴミの山からだ。


「どうしたんだよ」

「何か鳴ってるんだよ」

「掘り起こすんだよ」

「! 待ってくれ、僕がやる」


ベーシックを使い、大きな廃材をどかしていく。

出てきたのは握りこぶし大のカプセルだ。全体が黒と緑の迷彩に塗られている。


「これは……無人機用の小型地雷」


青旗連合ブルーフラッグの無人機に反応して爆発する地雷であり、高高度から散布して使用する。


だが、これは磁気パターンがベーシックのそれに合わせてある。必要に応じて設定が変えられるのだ。


感知時の設定も爆発ではなく、ブザー音が鳴るように変えられている。もしこれにヴェルヌ火薬でも詰まっていたなら、この場の全員がコナゴナだろう。


そして、テープで固定された細長いものが。


「レコーダーか……」


星皇軍では個人的な記録を持つことが推奨されないので、僕はメモやレコーダーのたぐいを持たない。

だけど傭兵たちは持っていることが多かった。彼らは日記をつけたり、レコーダーにぶつぶつと何かを吹き込んでいたり……。


「ははあん、これってつまりナオやんへのメッセージやんな」

「え、僕に……?」

「ベーシックに反応して鳴ったんやろ、見つけてほしかったんやって、聞いてみよ」

「いや……ええと、これは軍事機密が記録されてる可能性が……一般人に聞かせるわけには……」


そんな言葉がこの星にそぐわないのは分かるが、僕を形成する根っこの部分だ。なかなか軍人としての自分を忘れることが出来ない。


それにこれは、メッセージを残した人間の意図も関係してくるし……。


「地下すごいんだよ」

「3番のルートやばいんだよ」

「なまぐささ大爆発なんだよ」


何やらドワーフたちが騒いでる。僕は胸部ハッチを開けて降りていく。


「どうしたの?」


というか最初に降り立った三人はどの子だろう? もう完全に溶け込んで分からなくなってしまった。


「ここから下で竜がたくさん死んでるんだよ」

「竜が……ここには生き物は住んでないって聞いてるけど?」

「たくさんいるんだよ」

「火を吐くのとか毒を吐くのとか」

「見たことないのもいるんだよ」


……。


巨人の亡霊。竜の死体。それは何か関係するのだろうか。

そして、この場所に集められてるガラクタの山。


もしかしてこの洞窟は、きわめてこの惑星の核心に近い部分なのでは……。



――戦う者たちの聖域、俺はこの場所をそう呼んだ。



「あ、こら!」


振り返ればキャペリンがレコーダーをいじってる。うまくスイッチが入ってしまって音声が流れ出したのか。


「だって聞きたいんやもん。大事な情報かも知れんやろ」



――この地には戦いを求めるものが集まってくる。


――正体不明のガラクタもな。強い重力があるんだろう。それに引かれて小人たちも集まってる。



「しょうがないな……どうも作戦行動に関することじゃなさそうだけど」


この声には聞き覚えがあるな、どこかで……。



――ハンマーを背負った小人たち。彼らは一つの意志を共有している。


――彼らは声なき声でやり取りをしている。電波でも音波でもない、あるいは重力子のように観測不可能な。


――いや、こんなことは俺の考えることじゃない。



何の話をしてるのだろう。鎚妖精ミルドワーフたちについてか?



――俺はただ戦い続ける。この体が動く限り、無数の竜と戦う。


――小人たちにこのメッセージを運んでもらう。だからこれを聞いた誰か。



「思い出した、この声はブラッド少尉」


ブラッド=ディル。

白兵戦のプロフェッショナルであり、戦闘訓練では無敵を誇った、あの男がここに……。



――どうか、俺を。




――俺を、殺しに来てくれ。



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[一言] ベーシックに捨てられて2年経ってもまだ軍規やらに縛られてる部分が残ってるのか
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