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金持ちの御子息は無能すぎて村から出されたみたいです。  作者: 勿忘 碧
第1章 とりあえず金は全てを救う
3/4

《episode 3》 二度とパーティーは組みたくない by妖精

「妖精殿!あいつ僕に向かって威嚇してない?」


 先程は思いの丈をじぃやとやらに叫んでおったが普通は今助けを乞うべきは確かに妾じゃろうな。

 それにしてもこの男......なぜ勇者などに選ばれた?


 この世の勇者はほとんどが村や街でもっと屈強で頑丈な大柄な人間か、しなやかで剣術・武術に長けている人間が選ばれるじゃろうに。

 もしやこやつ、勇者の称号もこの金貨で買うたのか?

 それならば納得がいくが......末恐ろしい男じゃのう。


 それにしても一体あの量の金貨はなんなのじゃ。

 もしや横に携えているあの袋の中身全て金貨ではなかろうな。

 そうだとしたらどんな種族とも簡単に契約できてしまう。

 あやつは頭が足りなさそうだからあの金貨の価値は絶対に教えてはならんな。


「聞いてる???妖精殿???

 助けてくれない?既に飛びかかろうとされてるよ!」


「お主勇者の剣を持っておるのだから切ればよかろう。

 ほれ、腰から抜いて首を狙うのじゃ」


 一応は抜いてはみるものの剣がまるで米俵三つほどあるかのように半分のところで元の鞘に戻してしまった。


「妖精殿......僕には無理だよ......」


「何を言っておる?切らぬと帰れぬと言ったのはお主じゃ」


「だってもうやだもん!帰りたいけど剣なんてほとんど練習してないし疲れるもん!」


 ついに駄々を捏ね始めたな。

 これだから成人もしてない坊主は嫌じゃな。


「もう!!!いつまでそこから見てるんだよ!!

 怪物なんてもう知らないし!さっさと帰ってくれない?!

 帰れ帰れ!!!!」


 怪物の方が可哀想になってきたが戦意がないとわかり去っていってしまった。


「お主、せっかく妾がおるのに怪物を切らんでどうする。

 村には帰れぬぞ」


「いーや、帰るね。帰って怪物が僕のことを恐れ慄いて逃げたって言えば名声もらえちゃうし」


 本当に頭が弱いのう......いいや、世間知らずなだけじゃな。


「たわけ、討伐というのは首を持って帰るということじゃ。

 それがなければむしろ村には入れてもらえぬと考えい」


 言葉の意味を理解すると坊主はいよいよ顔面蒼白になり慌て始めた。

 こやつ確実に村には数年は帰れんじゃろうなあ。


 ***


 妖精に何を言われているのかほとんど理解できなかったが、僕は村にすぐに帰れないことだけはわかった。

 こんなに怖い怪物なら村の誰かもついてきてくれればよかったのに。


「妖精殿はいつまで僕についてきてくれるのだ?」


「本当にこのまま討伐しないのだとしたら、せいぜい長くて1週間じゃ」


 1週間......僕の食料もたしか1週間分......。

 つまり1週間で僕は怪物を倒せると思われているんだな!

 じゃあ妖精との契約も1週間で十分だろう。


「よし、それでは怪物を討伐しに行くぞ!」


「待たんか坊主」


 意気揚々と出発する意思を見せたのにどうやら妖精は不満げだ。


「どうした?腹でも空いたのか?」


「違うわい。妖精は人間と違って食はそこまで重要事項ではない。

 そんなことよりお主、なんの鍛錬もなしにまた怪物に挑もうと思っておるのか?」


「もちろんだ。妖精殿がいるからな」


 妖精はいよいよ僕を睨みつけすごい速さの平手っぽいものが後頭部にヒットした。


「痛っ。これ痛いんだぞ!

 何をそんなに腹を立てているんだ」


「お主のその頭の弱さにじゃ!

 一緒にいる妾まで腑抜けたと思われかねん。

 金貨5枚分の働きくらいしてやるからとりあえず話を聞け」


 もしかして今から勉強が始まるのか?

 僕が半刻も起きていられたことのないあれを?


「妖精殿。僕は実践型だ。

 つまり___」


「黙らんか坊主が」


 突如低く内臓に響き渡る声がした。

 先程まで僕の手のひらほどしかなかった妖精は逃げた怪物よりも大きな四つ足の動物とになって僕を見下ろしていた。


「いいか。黙って聞け。

 一つ、話を聞かねばここでお主を殺す。

 二つ、逃げてもいいが今宵は満月だ。いつもより怪物が集まりやすく気が立っていることを忘れるな。

 三つ、お主は地図を持っておらぬからそもそも帰るには妾の魔法が必要。

 これでとにかく話を聞く気になっただろう」


 目の前の妖精はもはやその風貌のせいで妖精と呼んでいいのかすらわからない。

 ただただ姿に圧倒され、腰を抜かした僕はひたすら首を縦に振ることしかできなかった。


「よかろう。次に妾を小馬鹿にしたらこの足で潰す。

 夢夢忘れることのないようにな」


「......一つ、よろしいでしょうか......」


「なんじゃ」


「その姿を見るに妖精殿とは呼びにくいのですがなんとお呼びすれば......」


 一理あると呟き、静寂が訪れる。

 日が傾き始め木々の隙間から西日が差し込み金色の目を照らす。

 こんな時になんだが、随分と綺麗な目をしていることに気づいた。

 

「ふむ、決めた。

 お主の根性と頭と剣術を鍛え直す身として師匠と呼ぶが良い」


「1週間で全部できるのですか?」


「いつまで坊ちゃんでいる気だ。

 お主はもう勇者なのじゃろう?

 その金貨半分で1年、お主を鍛えてやるぞ」


 半分...さっきの5枚の何倍もあるがこのまま怯えていくよりはいいというものか。


 というか待て、そこじゃない。


「1年?!」


「むしろ少ないくらいだ、不満か?」


 え、えー?僕1週間くらいのバカンス程度にしか勇者のこと考えてなかったから1年ってなると全然話が違ってきてしまうのだけど___

 などと妖精殿改め師匠に向かっていう勇気などすでにどこにもなかった。


 不満しかないがここでそんなことを言おうものならば殺されるか放り出されて死ぬだろう。


「僕かなり飽きっぽいので毎日同じ修行というのは耐えられないかもしれないのですが......」


「死ぬか鍛錬か毎日どちらかの選択肢しかここから1年はないと思え」


 なんて理不尽な。

 やはりこんなことなら勇者になんてならなければよかった。。。

 じいやのご飯も能天気な暮らしも悪くなかったのだなぁ。


 死ぬか鍛錬するか、究極の2択を迫られて死を選ぶほど僕はまだ自分の人生満足はしていない。


「......今日から1年間よろしくお願いします」


「ようやくやる気になったか。

 ___そしたら今日は日が暮れるでな、まずは妾の集落に来ると良い」


 もはや聴き慣れた声の姿に戻ると僕の肩に乗った。


「久しぶりに大型変化などしたから疲れたわい。

 坊主、案内をするから妾をこのまま連れて行け」


「はい......」


 今の僕にはこの小さな師匠にぺこぺこするしか生きる術がない。

 なんと悲しき世界に飛び込んでしまったのか。


『明日はいい日になりますぞ』

 じいやがいつもお守りのように寝る前に言ってくれた言葉をなぜか今思い出す。


 そんなこんなで僕の平凡で退屈な王子としての人生はは急降下し命の危険と隣り合わせの小さな師匠を携えた勇者としての人生に様変わりした。

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