《episode 2》怪物こんなに大きいって聞いてない by勇者
「いよいよ森か。
どんな怪物でも剣術を習ってる僕なら簡単に倒してしまいそうでなんだか可哀想だな」
騙されたとはつゆ知らず。
勇者は乗馬気分で森に入っていった。
食料とローブとお金だけで実はこの勇者、一番大事な地図を持たされていないことに全く気付いていない。
普通冒険といえば剣とか装備以前に地図がなければ始まらないというのに。
「うむ。なんだかあっちが怪しいな」
とりあえず適当な道を散策している。
だがしかし、勇者は学問を習う時間寝ていたので地図を持っていても読み方などわからないだろうな。
馬もこんなポンコツに乗られて前世どんな悪行をしてしまったのか......。
「おぉ!池があるぞ!水浴びできるな!
昨日は床で寝たせいで服も僕も汚れてしまったから一緒に洗ってしまおう」
馬から降り手綱を木にくくりつけ、徐に―――池に飛び込んだ。
「ははは!これで全ての汚れが落ちるから効率がよかろう」
低能かと思っていたが、これはもう無能に値することがわかった。
金を持っているから始まりの村からこっそりついてきたが別の勇者を当たるとしよう。
こんなのと冒険なんて絶対碌なことが起きない。
***
昨日からなんとなく何かに見られている気がしていたが水を浴びたらふっと消えた。
もしかしたら僕が何かを気負いしていただけかもしれない。
「そこの人間。
一体何をしているのだ」
声のする方を向くと手のひらくらいの何かが僕の目の前に現れた。
「もしかして妖精か?」
「そうだ。
ここは妾の沐浴場。神聖な場所として神に誓うとる。
つまり我種族のみが使って良い場所なのだが」
「じゃあ僕も妖精になれば良いってこと?」
「どう見てもお主は人間じゃろう。
さっさとここから出たもうぞ」
どうやら相当ケチな妖精らしい。
もしかしたらずっと見ていたのはこいつかもしれない。
「まさか僕が村から出てからずっと監視していたの?」
「何を戯けたことを吐かしおる。
妾にそんな暇はない。
どうせ仲間に飢えている化け狐あたりじゃろ」
「なんだと?化け狐なんているのか?」
僕は見たことがないから尋ねただけなのに妖精は盛大なため息をついた。
ケチな上にこの妖精、相当僕のことを馬鹿だと思っている。
「妖など人間よりもおるわい。
人間は増えすぎたせいで五感が衰えわからなくなっているだけじゃ。
ところでさっさとでやんかい、坊主。
妾に3回目を言わすではないぞ」
「坊主などと呼ぶな!僕は元王子の勇者様だぞ!」
妖精だがなんだか知らないが僕のことを知らないからこんな尊大な口が聞けるのだ。
元王子兼勇者だと知って驚き平伏すがいい!
「それがなんじゃ」
「......あれ?勇者ってすごいんじゃないのか?」
「お主本当に何も知らないのか。
そこから出たらこの森のことや妖のこと、お主のこの先について少し話してやろう」
よくわからないがとりあえず汚れも落ちたし上がることにした。
「よろしい。
まずは何から話そうか」
「なぜ妖精は僕を尊ばない?」
「なぜって、勇者など掃いて捨てるほどおるからじゃ」
な、なんだと。
僕のような人間が掃いて捨てるほど......?
「だ、だが僕は村で抜けない剣を抜いてきた!」
「抜けない剣などない。そもそも剣は岩に刺さらぬからな。
お主が持ってるそれも妖と怪物専用で他のものは一切刃が入らぬぞ」
嘘だと思い僕は左にあった木に思い切り剣を振った。
だいぶ太いから切り落とせはしないが傷はつくと思っていた。
結果は何か薄い膜で覆われているように木に触れる数ミリで止まっていた。
「それが剣じゃ。
薄い生気が巻き付き、生気は妖と怪物をエネルギーとする。
ここまでついてきておるかのう?」
「ではなぜこの剣は岩に刺さっていたんだ?」
「簡単なことじゃ。割った岩に挟んだ後再度くっつけるだけじゃ」
なるほど...... そんなにみんなは僕が王子よりも勇者の方が向いていると思っていたのか。
きっとみんなも勇者が沢山いることは知らず崇め奉っていたはずだ。
「さっきから言ってる妖やら怪物やらはどこにいるんだ?」
「ここの森は比較的少ないが他の森には数分歩けば遭遇するくらいにはおるぞ」
「さっき五感が衰えて人間には見えないと言っていたがなぜ僕はお前が見える?」
「妾は妖や怪物ではないからじゃ。
人間とは違う種族というだけで実体を持っておる。
他にも種族はいるが基本的には会わないように隠れて暮らしとる」
ふむ、妖精はほぼ人間ということだな。
なんとなくわかってきたぞ。
「僕は怪物を討伐するよう言われたのだが見えなければどうやって戦えばいいんだ?」
「仲間に魔法をかけてもらい見えるようにすればよい」
「その魔法はお前も使えるのか?」
「妖精は一通り使えるのう」
じゃあこいつを仲間にして怪物を倒して、帰る途中にまたここに通って解散でいいか。
「よし、行くぞ」
「図に乗るな坊主」
手のようなもので後頭部を叩かれた。
今こいつめちゃくちゃ無礼なことをしなかったか?
僕を勇者と知って叩くなど言語道断ではないか。
しかも坊主って言ったし。
「妖精とやら、叩いたことを詫びて僕についてこい」
「今後妾に対し尊大な口を聞いたら今度は平手鞭じゃ済まさぬぞ。
さっきも言った通り勇者など誇るに値しない称号じゃ。石ころと同じじゃ。
わかったら妾は住処に戻るぞ。
長話をして疲れたわい」
「待て待て待て待て待ってください。
え?だって僕一人じゃ怪物見えないから遭遇したらどうするのさ」
「まぁ多分潰されて何が何だかわからぬうちにあの世行きじゃろうな」
えーーーー!!!!聞いてないぞ!!!
僕死ぬってわかっていたらこなかったのに!!!
詐欺にあった気分だなあ。
一人で村人たちに怒りを募らせていると妖精は大きな欠伸をして帰ろうとしていた。
「もう二度と会うことはないだろうから先に忠告しておくぞ。
泉や森に矢と鈴がついていたらそっちは何かの種族の縄張りか妖、怪物が出る方角。
坊主なんかが行ったら食われるか殺されるかの2択じゃ。
決して近寄らん方がいいぞ」
泉の方を見ると確かに泉に向いた矢と鈴がついていた。
こいつ、色々教えてくれたしもしや良いやつなのか?
そうならば尚更討伐に一緒に行って欲しい。
なんとかして引き留めなければ......。
「なぁ妖精殿。
何をしたら怪物の討伐までついてきてくれる?」
「何も要らぬ。何も望まぬ。
だからお主にもついてはいかぬ」
くぅ、こっちが下手に出れば強気にでおって。
「じゃあもういい。
僕は村に帰る」
見えないのではしょうがない。きっと村には見えた人間がいたのだからそいつを連れてまた来よう。
かっこよく立ち去る気が木の根に足を引っ掛け無様に転んでしまった。
「〜〜〜!」
......顔から行った。しかも目の前には持ってきた金貨がすごい範囲で散らばっていた。
どうせ妖精は助けてなどくれないだろう。
なんで勇者の僕がこんな目に。
「おい、坊主。
これ全部お主の金貨なのか?」
突如後ろから聞き慣れた声がした。
さっきの妖精がどうやら僕の後ろにいるらしい。
なんで戻ってきたのだろう。
「いかにも。それがどうした」
「ふむ......坊主その金貨3枚......いや5枚で怪物討伐に行ってやろう」
「本当か?!」
なぜ急に手のひらを返したのか分からないがこれは願ったり叶ったりなことだ。
たかだか5枚程度で来てもらえるなら最初からそう言えばよかったな。
さっさと集めるとそのうちの5枚を妖精に差し出した。
「ほら、金貨5枚だ。これで僕に魔法をかけて怪物を見えるようにしてくれるのだろう。
早くしてくれ」
「その口の聞き方は直らんのかのう。
まぁ良いわい。
......ほれ、これでみえるじゃろう」
そして瞬きをすると、泉を挟んだ向こうから何やら大きな生き物が僕を睨んでいた。
「妖精殿......?
あれが怪物、とやらか?
なんだかとてつもなく大きいのだが」
「そうじゃ。
見えていなければあの鈴の向こうに行かない限り襲ってはこないが今認識されたことを悟っておる。
返り討ちにされないよう精々頑張るしかないのう」
いや、嘘だろ。だってこの森そんなに出ないって言ったのにもう出会ってしまったのだが?
しかも鼻息荒くこっちに威嚇をしてくる。
「......どうして......どうして僕がこんな目に......
じぃやぁあああああああ」
あぁ、勇者なんてならなければよかった。。。